捨てる前に止める:シンガポールの「ラッフルズ・シンガポール」の事例を、オランダの「モーマンのはしご」と日本の法律の順番で読む
シンガポールのホテル「ラッフルズ・シンガポール」は、オランダのオービスク社の機器を使い、6週間で食品ロスを29%減らした。オービスク社の2024年10月2日の記事は、この事例を、オランダの「モーマンのはしご」という考え方から説明している。食品ロスへの対策を、望ましい順に並べたはしごだ。この記事では、はしごと日本の法律の順番を並べて、事例を読み直す。
モーマンのはしご
オービスク社の記事によると、モーマンのはしごは、食品ロスを減らす方法を、最も望ましいものから最も望ましくないものへと並べて示す。いちばん上は「予防」、つまり食品ロスが起きる前に止めることで、最も効果があり持続可能な方法とされる。
オランダのワーヘニンゲン大学の研究機関が2011年10月にまとめた報告書によると、オランダの経済・農業・イノベーション省はこのはしごを使っていた。廃棄物の扱いで使われる「ランシンクのはしご」にならったものだ。報告書は、はしごの段を次の10段で示している。
1. 予防(食品ロスを避ける)
2. 人の食べ物として使う(フードバンクなど)
3. 人の食べ物に加工し直す
4. 動物の飼料に使う
5. 産業の原料にする
6. 発酵させて肥料にする(エネルギーも得る)
7. 堆肥にして肥料にする
8. 持続可能なエネルギーに使う
9. ごみとして燃やす
10. 埋め立てる
報告書は、このはしごが、世界の食料安全保障の問題を背景にした倫理的な基準に基づくと説明している。はしごは、まだ余りが出ていない段階から始まり、最もよい使い道は食べ物そのものだという。
オランダの政策での位置
オランダ政府の「廃棄物予防プログラム」の意見募集の版によると、オランダの食品ロスの政策は、食品ロスを防ぐこと、量を最小にすること、起きた食品ロスを食品の利用の優先順位(モーマンのはしご)に沿って使うこと、の3つに重点を置いている。
同じ文書は、2019年に飲食業界での大規模な取り組みが始まり、給食会社やホテル、レストランが厨房での具体的な解決策で支援されたと書く。その「フード・ウェイスト・チャレンジ」の参加者は、食品ロスを21%減らしたという。
オービスク社が置く位置
オービスク社の記事は、自社の機器が、はしごのいちばん上の「予防」に沿っていると書いている。捨てたあとの処理ではなく、捨てる量そのものを減らすための道具だという位置づけだ。
機器「オービ」は、手で触れずに使える。記事によると、皿を下にかざすと、0.5秒で写真を撮る。混ざった食べ物も見分けて記録できるという。
6週間で何をしたか
記事によると、オービが集めたデータを、厨房のチームが、オービスク社の食品ロスのコーチの助けを借りて分析した。どこで、いつ、どんな食べ物が捨てられているかを特定した。その気づきをもとに、作る量をより正確に予測できるようになり、食品ロスが大きく減ったという。
結果は、6週間で29%の削減だ。1,097キログラムの食べ物を救い、2,437食分にあたる。6週間で9,000ユーロを超える節約になり、CO2は3,220キログラム減った。記事は、車700台を1日道路から減らすのと同じだと書いている。
オービスク社が2025年9月12日に公開した事例のまとめによると、ラッフルズ・シンガポールで使った機器は7台で、節約は1か月6,000ユーロだ。まとめは、この事例を「6週間の早い時点の数字」として、平均の計算から外している。
日本の宿に置き換えると
日本にも、廃棄物の扱いに順番を定めた法律がある。2000年にできた「循環型社会形成推進基本法」だ。
法律の第5条は、原材料は効率的に使い、製品はなるべく長く使うことなどで、廃棄物等になることをできるだけ抑えなければならない、と定める。はしごのいちばん上の「予防」にあたる考え方だ。
第7条は、廃棄物等のうち役に立つもの(循環資源)の扱いの順番を定める。まず再使用、次に再生利用、その次に熱回収、どれもできないものは処分する、という順だ。ただし、この順番によらないほうが環境への負荷を減らせると認められるときは、そうすることも考えなければならないとしている。
第11条は、事業者の責務として、原材料などが事業の中で廃棄物等になることを抑えるために必要な措置をとることを求めている。
モーマンのはしごが食べ物に絞り、「人の食べ物として使う」を2段目に置くのに対し、日本の基本法はあらゆる物に共通の順番を定めている。どちらも、捨てたあとの処理より、捨てる量を減らすことを先に置く点は同じだ。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
ある宿で、食品の廃棄が1日10キログラム出るとする。そのうち4キログラムは作りすぎや食べ残しで、防げるもの、6キログラムは野菜の皮などの調理くずだとする。
はしごの上から考え、作りすぎを見直して、防げるものを半分の2キログラムにする。
- これまで:1日10キログラム×30日=300キログラムを、堆肥や処分に回していた
- 見直した後:1日8キログラム×30日=240キログラム
上の段で1か月60キログラムを防ぐと、下の段で処理する量も60キログラム減る計算だ。まず、防げるものと防げないものを分けて量るところから始める。
はしごの上から考える
ラッフルズ・シンガポールの事例は、捨てたあとではなく、捨てる前に止めることを目指した。オランダのはしごも日本の基本法も、その順番を先に置いている。日本の宿でも、堆肥や処分の方法を考える前に、防げる食品ロスを量ることから始められる。
持ち帰れる知識
- モーマンのはしごは、食品ロスの対策を望ましい順に並べたもの。いちばん上は予防
- 日本の循環型社会形成推進基本法も、発生の抑制を先に置き、再使用・再生利用・熱回収・処分の順を定める
- 早い時点の数字は、長い期間の平均と分けて読む
- 上の段で防ぐと、下の段で処理する量も減る
宿で考えられること
- 食品の廃棄を、防げるものと防げないものに分けて量る
- 防げるもののうち、量の多い料理から作る量を見直す
- 防げないものは、堆肥や飼料など下の段の使い道を考える
- はしごの図を厨房に貼り、順番を共有する
事業・予約への接続
捨てる前に止めることを優先する考え方は、国の法律にも沿っている。宿の食品ロスの方針を説明するときの軸として使える。
Sources / 参考情報
- Orbisk(英文) - 成功事例:ラッフルズ・シンガポールは、オービスクで食品ロスを29%減らした(2024年10月2日)
裏付け: モーマンのはしご(最も望ましいものから最も望ましくないものへ、いちばん上は予防)、オービスクは予防に沿う、手で触れずに使えるAI、混ざった食べ物も見分ける、コーチと分析(どこで・いつ・何が)、作る量の予測、6週間で29%・1,097キログラム・2,437食・9,000ユーロ超・CO2 3,220キログラム・車700台を1日、皿をかざして0.5秒で撮影 - Orbisk(オランダ語) - オービスクの投資回収:12〜15か月後の結果(実データ)(2025年9月12日)
裏付け: ラッフルズ・シンガポールは6週間の早い時点の数字で平均から除外、29%、1か月6,000ユーロ、機器7台 - Wageningen UR(英文) - 食品ロスを減らす:法律や規則で感じられている障害(PDF)(2011年10月)
裏付け: 経済・農業・イノベーション省がモーマンのはしごを使う、ランシンクのはしごにならう、10段(予防、人の食べ物、加工し直し、飼料、産業の原料、発酵で肥料、堆肥、エネルギー、焼却、埋め立て)、食料安全保障を背景にした倫理的な基準、余りが出る前から始まる - オランダ政府(オランダ語) - オランダ廃棄物予防プログラム(意見募集の版)(PDF)
裏付け: 食品ロス政策の重点(防ぐ、最小にする、モーマンのはしごに沿って使う)、2019年に飲食業界の大規模な取り組み、給食会社・ホテル・レストランを支援、フード・ウェイスト・チャレンジの参加者は21%減 - e-Gov法令検索 - 循環型社会形成推進基本法
裏付け: 平成12年法律第110号、第5条(廃棄物等となることの抑制)、第7条(再使用・再生利用・熱回収・処分の順、よらないほうが有効な場合の考慮)、第11条(事業者の責務)