GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 5分 / 2721文字 客の使い方から逆算する型 #447

明かりは、スイッチを入れた瞬間に明るく:米コロンバスの「ヒルトン・コロンバス・ダウンタウン」が客室に3,700台のLEDを選んだ理由を、客の使い方から読む

アメリカ・オハイオ州コロンバスの「ヒルトン・コロンバス・ダウンタウン」は、客室とスイートに3,700台を超えるLEDの埋め込み照明(ダウンライト)を付けた。照明の電力は、当時の基準が認める量より20%以上少ない。この記事では、省エネの数字より先に、設計者が「客は明かりをどう使うか」から照明を選んだ点に注目する。

調べたのは国の研究所

アメリカのエネルギー省(DOE)の実証事業として、パシフィック・ノースウェスト国立研究所(PNNL)が、このホテルの客室照明を調べた。ホテルは2012年10月に開業し、研究所は2014年1〜3月に、使われ始めた後の状態を確かめた。

事例の資料によると、ホテルの総工費は1億4,000万ドルで、延べ床面積は45万平方フィート。客室は484室、スイートは48室ある。各室に15ワットのLEDダウンライトが少なくとも7台付き、合計は3,700台を超える。建物は、アメリカの環境性能の認証であるLEEDのゴールドを取っている。

設計者が決めた条件

照明を設計したアードラ・ジンコン氏は、客室の明かりに、客にとって見慣れた見た目と使い心地を求めた。研究所の聞き取りで、ジンコン氏はこう話している。「Hotel guests do not expect a delay when they turn on a light switch before the light comes on」(ホテルの客は、スイッチを入れてから明かりがつくまで待たされるとは思っていない)。

資料が挙げる設計の条件には、次のようなものがある。

  • スイッチを入れた瞬間に最大の明るさになり、暖まるのを待たなくてよい
  • 何度つけたり消したりしても、寿命が縮まない
  • 明るさを調整できる(調光)
  • 深さ6インチ(約15センチ)の天井のすき間に収まる
  • 色のばらつきが少ない

当時ホテルの客室で多く使われていた電球形の蛍光灯は、暖まるまで暗い、調光が難しいなどの理由で、早い段階で候補から外された。設計チームは数十種類のLEDを取り寄せて比べ、客室2部屋の実物大の模型でも確かめた。模型を見た人は、明かりがLEDだと気づかなかったという。

7台の置き場所

7台のダウンライトは、客の動きに合わせて置かれている。

  • 入口:2台。入ってすぐの明かりで、壁の鏡の前に立つ客も照らす
  • 窓際:2台
  • 浴室:3台。洗面とトイレに2台、シャワーに1台

窓際の2台と浴室の3台は、明るさを調整できる。スイッチはオンとオフの切り替えの横に、明るさを変えるつまみが付いた形だ。スイッチの数が多いので、それぞれに分かりやすい表示が付けられた。

出るときに消してもらう工夫

入口には、部屋の照明をまとめて消せるマスタースイッチがある。これは当時の基準で求められていた。ホテルはそのうえで、スイッチの上に表示を付け、部屋を出るときにマスタースイッチで明かりを消すよう客に呼びかけた。

浴室には、基準では求められていなかった、人がいないことを感知する天井のセンサーを付けた。研究所は現地で、浴室に誰もいなくなって15分たつと、明かりが確かに消えることを確かめている。資料は、こうしたセンサーで客室の照明の電力を16%減らせるという見込みも紹介している。

20%と50%は、何と比べた数字か

数字は、比べる相手ごとに読む必要がある。

  • 基準との比較:当時の基準(ASHRAE 90.1-2007)が客室に認める照明の電力は330ワット。実際に付けたのは252ワットで、20%以上少ない
  • 年間の節約:客室照明が年3,500時間使われるというホテルの想定で、532室分で14万5,236キロワット時、電気代で1万167ドル。電気代はホテルの単価、1キロワット時あたり0.07ドルで計算している
  • ほかの照明との比較:同じくらいの明るさの電球形蛍光灯のダウンライトと比べて46〜50%、ハロゲンと比べて79%の節約

14万5,236キロワット時は、330ワットと252ワットの差、78ワットに、3,500時間と532室をかけた値と一致する。資料は、LEDを選んだ一番の理由は客の必要と、求めた働きや見た目だったと書いている。省エネは、その結果として付いてきた。

日本の宿に置き換えると

日本では、建物を建てるときの省エネの基準が年々厳しくなっている。国土交通省の資料によると、2025年4月1日から、原則としてすべての新築や増改築で、省エネ基準への適合が義務になった。

さらに、国土交通省の2025年11月10日の事務連絡によると、延べ床面積が300平方メートル以上2,000平方メートル未満の中規模の建物では、2026年4月1日以降に判定を申請するものから基準が引き上げられた。ホテル等の基準は、BEIで0.8、つまり基準の一次エネルギー消費量から20%少なくすることだ。BEIは、外皮(窓や断熱)と、空調、換気、照明、給湯、昇降機などの設備の仕様から評価される。基準は遅くとも2030年までに、ホテル等でBEI0.7の水準まで引き上げられる予定とされている。

同じ資料は、照明については高効率の器具を選ぶことに加え、人がいないことを感知して自動で消すような制御が効果的だと書いている。大規模な建物の基準の引き上げは#414で見た。新築や改装で照明を決めるとき、ヒルトン・コロンバス・ダウンタウンのように、客の動きから器具の数と置き場所を決めれば、基準への対応と客の満足を同時に考えられる。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)

客室が30室の宿が、改装で客室の照明を見直すとする。今の照明は1室あたり200ワットで、客の動きを見直して器具の数と置き場所を変え、150ワットにできたとする。

1室あたり50ワット減り、客室の照明が年に3,000時間使われるとすると、30室で1年に4,500キロワット時減る計算だ。電気代を1キロワット時30円とすると、1年に13万5,000円になる。

浴室の明かりの消し忘れが多いと分かれば、次はセンサーを付けるかどうかを検討する。

客の動きから、明かりを決める

ヒルトン・コロンバス・ダウンタウンの設計者は、客がスイッチを入れたら、すぐに明るくなるのが当たり前だと考えた。そこから器具を選び、客の動きに合わせて7台を置き、消し忘れを減らす工夫を加えた。省エネの数字は、客の使い方から逆算した設計の結果として読める。

持ち帰れる知識

  • 客は、スイッチを入れた瞬間に明るくなることを当たり前と思っている
  • 照明の器具の数と置き場所は、客の動きから決められる
  • 省エネの割合は、何と比べた数字かを確かめて読む
  • 日本では2026年4月から、中規模のホテル等の省エネ基準もBEI0.8に引き上げられた

宿で考えられること

  • 客室で客がどこで何をするかを書き出し、必要な明かりを決める
  • 出るときに消してもらう表示を、スイッチのそばに付ける
  • 浴室など消し忘れが多い場所に、センサーを付けるか検討する
  • 改装の前に、今の照明の電力を数えておく

事業・予約への接続

すぐ明るくなり、明るさを調整できる照明は、客の快適さそのものだ。客室の写真や案内で、明かりの使いやすさを伝えることもできる。

Sources / 参考情報

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