LEDの工事は、投資の約1.7年分で元が取れる計算:世界の「マリオット・インターナショナル」の省エネを、投資額と1軒ごとの目標から読む
世界に多くのホテルを持つ「マリオット・インターナショナル」は、照明のLED化を、ホテルのオーナーにとって投資の効率がよい省エネの手として続けてきた。この記事では、マリオットが国際的な環境情報の開示の枠組み「CDP」に出した回答から、LED化の投資額と節約額を読み、1軒ごとに省エネの目標を決める仕組みも見ていく。
2020年のLED化:投資と節約
マリオットがCDPに出した2021年の回答には、2020年に行った省エネの取り組みが、投資額と節約額の組で並んでいる。照明(LED化)の行は次のとおりだ。
- 1年に減る排出の見込み:9,022トン(二酸化炭素換算)
- 1年の節約額:512万7,132ドル
- 必要な投資:873万2,690ドル
- 回収の期間:1〜3年
- 取り組みの寿命の見込み:6〜10年
投資額を1年の節約額で割ると、約1.7年になる。回答が示す1〜3年の幅に収まる。回答は、投資と節約の数字はマリオットのホテルのオーナー全体への影響を合計したものだと書いている。
回答はLED化について、照明に要るエネルギーを減らすだけでなく、ホテルの冷房の負荷も下げると書いている。また、大規模な照明の工事は、ほかの改装の工事や照明の技術の進歩と時期を合わせることが多く、投資の効率はホテルごとに違うとも書いている。
ほかの取り組みとの並び
同じ表には、ビルの自動制御の仕組み(BAS)を入れる取り組みや、冷凍機を高効率のものに替えるなどの空調の工事も並んでいる。空調の工事の行では、回収の期間は11〜15年、寿命の見込みは16〜20年とされている。
LED化は寿命の見込みが6〜10年と短い代わりに、回収の期間も短い。取り組みを比べるときは、節約額だけでなく、回収の期間と寿命を並べて見ると、順番を決めやすい。
1軒ごとに目標を決める
同じ回答によると、2019年は、マリオットが運営する世界のすべてのホテルが、初めてその年の省エネの目標を受け取った年だった。目標を決めるときには、次の2つを考えに入れたという。
- 2016年からの、1年あたりの平均の削減量
- 同じ気候帯、地域、ホテルの種類の、似たホテルとのエネルギー原単位の比較
フランチャイズのホテルにも、同じ2019年に初めて、推奨の省エネ目標が示された。
ホテルの技術者には、競い合いの仕組みもある。ゲームのように点数を競う道具で、点数の多くは環境に関わる項目に配られる。たとえば、ホテルのエネルギー原単位の目標を上回る、水の原単位の目標を上回る、「Signature ROI Project」と呼ぶ投資効率のよい工事を終える、などだ。
新しいホテルほど、原単位が低い
回答には、建物の世代の違いも書かれている。マリオットの2019年の社内の分析では、2012〜2019年に開業したホテルのエネルギー原単位は、2012年より前に開業したホテルより6.68%低かった。こうした効率の基準を、新築や改装のホテルにも当てはめていくという。
原単位は下がり、総量は増えた
マリオットが2025年7月31日に出した実績の表では、空調する床面積1平方メートルあたりのエネルギー(エネルギー原単位)は、2016年の334.4キロワット時から、2024年は298.1キロワット時になった。約11%低い。
一方、エネルギーの使用量の合計は、運営するホテルで2016年の1,640万メガワット時から2024年は1,820万メガワット時に、フランチャイズのホテルで1,300万から1,820万メガワット時に増えている。1平方メートルあたりの効率は上がっても、使用量の合計は増えた。原単位と総量は、別々に読む必要がある。
日本の宿に置き換えると
日本の目標は、総量で決められている。環境省のページによると、2025年2月18日に閣議決定された地球温暖化対策計画は、温室効果ガスを2013年度から、2035年度に60%、2040年度に73%減らすことを目指している。
環境省の2025年3月7日の資料によると、2030年度までに国全体で2013年度比46%を減らすには、ホテルや事務所などを含む業務その他部門で51%を減らす必要がある。しかし、2022年度の業務その他部門の排出は2013年度比で23.6%減にとどまっており、取り組みを急ぐ必要があるという。
宿が増築したり、客が増えたりすれば、1平方メートルあたりの効率が上がっても、総量は増えることがある。宿で省エネを考えるときも、原単位と総量の両方を記録しておくとよい。手の選び方については、国土交通省の2025年11月10日の事務連絡が、照明などに高効率の機器を選ぶことや、使われ方に応じて出力を自動で調整する制御を、効果的な手として挙げている。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
ある宿が、客室と廊下の照明をLEDに替えるとする。工事の費用は120万円で、電気の使用が1年に1万6,000キロワット時減るとする。電気代を1キロワット時30円とすると、1年の節約は48万円で、120万円を48万円で割ると、2.5年で元が取れる計算だ。
次に、原単位と総量の違いを見る。この宿の延べ床面積は1,200平方メートルで、電気の使用は1年に36万キロワット時、1平方メートルあたり300キロワット時だとする。数年後に300平方メートルの別館を建て、全体で1,500平方メートル、1平方メートルあたり280キロワット時になったとする。
1平方メートルあたりの使用は約6.7%下がるが、合計は42万キロワット時になり、約16.7%増える。
投資の順番と、2つの物差し
マリオットのCDPの回答は、LED化を投資と回収の数字で示し、ほかの工事と比べられるようにしていた。1軒ごとの目標は、似たホテルとの比較から決めていた。そして実績の表は、原単位が下がっても総量が増えることを示している。投資の順番を決める数字と、成果を確かめる2つの物差しをそろえておくことが大切だ。
持ち帰れる知識
- 省エネの工事は、投資額・節約額・回収の期間・寿命を並べて比べられる
- LEDは照明のエネルギーだけでなく、冷房の負荷も下げる
- 目標は、似た建物との比較と、過去の削減のペースから決められる
- 原単位が下がっても、総量が増えることがある
宿で考えられること
- 工事の候補を、投資額と1年の節約額で一覧にする
- 照明の工事は、改装の時期と合わせられないか考える
- 原単位と総量の両方を、毎年記録する
- 同じ地域・同じ規模の宿と比べられる数字を探す
事業・予約への接続
回収の期間を示せる工事は、オーナーや金融機関に説明しやすい。省エネの成果を伝えるときは、原単位と総量のどちらの数字かを明記すると誤解がない。
Sources / 参考情報
- Marriott International(英文) - CDP気候変動 2021年の回答(PDF)(2021年)
裏付け: 2020年の照明の取り組み(9,022トン、512万7,132ドル、873万2,690ドル、回収1〜3年、寿命6〜10年)、投資と節約はオーナー全体の合計、LEDは冷房の負荷も下げる、大規模な照明の工事は改装と時期を合わせることが多い、空調の工事の回収11〜15年・寿命16〜20年、2019年に初めて全運営ホテルに省エネ目標、目標の決め方、フランチャイズへの推奨目標、技術者の点数の仕組み、2012〜2019年開業のホテルは原単位が6.68%低い - Marriott International(英文) - 2025年 実績の表(PDF)(2025年7月31日)
裏付け: エネルギー原単位334.4(2016年)→298.1(2024年)キロワット時/平方メートル、使用量は運営ホテル16.4→18.2百万メガワット時、フランチャイズ13.0→18.2百万メガワット時 - 環境省 - 地球温暖化対策計画(令和7年2月18日閣議決定)(2025年2月18日)
裏付け: 2013年度比で2035年度60%、2040年度73%の削減を目指す - 環境省 - 我が国の目標と環境省からのZEB情報発信について(PDF)(2025年3月7日)
裏付け: 2030年度までに国全体で2013年度比46%、業務その他部門で51%の削減が必要、2022年度は23.6%減にとどまる - 国土交通省 - 令和8年度からの中規模非住宅建築物の省エネ基準の引き上げについて(周知)(PDF、日本建築士会連合会の掲載)(2025年11月10日)
裏付け: 照明などの高効率な機器の採用と、稼働状況に応じた省エネ制御が効果的