GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 5分 / 3010文字 持ち主で読む型 #451

機械室を「造り、持ち、動かし、12年後に渡す」:シドニーの「フォーシーズンズ」の1981年の機械室の更新を、契約のかたちから読む

オーストラリアのシドニーにある「フォーシーズンズ・ホテル・シドニー」は、1981年の開業のときからの機械室を、新しい設備に入れ替えた。工事を請け負った設備会社「EQUANS(エクワンス)」の資料によると、更新は「造る・持つ・動かす・渡す」(英語の頭文字でBOOT)という契約で行われた。設備会社が設計して造り、そのまま持ち主になって12年間動かし、期間が終わるとホテルに渡す。この記事では、省エネの割合より先に、「設備の持ち主は誰か」という契約のかたちに注目する。

1981年の機械室を、まるごと入れ替える

EQUANSの事例のページによると、更新の対象は、ホテルが建った1981年からの機械室だった。新しい設備は次のとおりだ。

  • 冷房の冷水を作る冷凍機(チラー)2台。1台900キロワットで、磁気で軸を浮かせる、油を使わない圧縮機の型
  • 冷凍機の冷却水の回路から、熱を回収する仕組み
  • 暖房と給湯の湯を作る、排気の熱まで使う型(凝縮式)のボイラー2台。暖房用と給湯用で、別々の温度に設定して動かす
  • ホテルの中で使う熱の量を量る、超音波式の熱量計
  • 既存の冷却塔は、中の充てん材とファンを新しくして使い続ける
  • 冷却水の一部をろ過する装置。薬品の量を減らすため
  • 建物全体の管理システム(BMS)の更新。熱源の運転の最適化を含む

同じページは、2台の冷凍機を、荷物用のエレベーターで運び込んだことも書いている。この大きさの型では世界で初めてとされ、シドニーの中心部でクレーンを使う大きな費用を省けたという。

「12年間動かす」とは、何を引き受けることか

ページによると、EQUANSは更新した機械室を設計して造り、今は自ら持ち、12年間、運転と保守を行う。期間の終わりに、ホテルは「よく保守され、最適化された機械室」の持ち主になる。

契約の中身として挙げられているのは、次の3つだ。

  • 設備の全面的な保証つきで、運転を続けること
  • 設備がいつでも使える状態(運転の可用性)を約束すること
  • 省エネの効果を保証すること

つまり、ホテルは最初に設備を買う代わりに、12年間、設備会社に運転と保守と省エネの結果を任せた、と読める。支払いの額や方法は、公開されたページには書かれていない。

「23%」と「26%」と「20%」

省エネの数字は、2つの資料で書き方が少し違う。

  • 事例のページ:運転を始めて最初の2か月で、電気が23%減った。最適化が終われば、1年あたり26%に増える見込み
  • 同じ会社の事例のPDF:最初の2か月で電気23%減と大きく示したうえで、運転の結果は、1年あたり電気で約26%、ガスで少なくとも20%の節約を示している、と書く

ページでは26%は「見込み」、PDFでは「結果が示している」という言い方だ。どちらの書き方が新しいのか、資料からは分からない。この記事では、2か月で23%を実績、26%を見込みまたは結果として、両方の書き方を並べておく。ガスの20%は、PDFにだけある数字だ。

なお、この記事のもとになった記事には、「年間のエネルギーの費用10%減」「空調20%減」「プールのポンプ50%減」などの数字があった。これらはホテルや設備会社の資料では確かめられなかったので、この記事では使っていない。

ホテル自身は、何を書いているか

フォーシーズンズ・ホテル・シドニーの持続可能性のページは、次のように書いている。

  • エネルギーの使用、温室効果ガスの排出、水の使用、ごみの量を、フォーシーズンズの世界共通の光熱水の管理の仕組みで量り、追っている
  • 客室の操作盤と建物の仕組みが、ホテル全体のエネルギーの使用の最適化を支えている

機械室の更新の数字そのものは、このページには書かれていない。ただ、熱量計で量り、管理システムで動かすという設備の中身は、「量って追う」というホテルの書き方とつながっている。

日本の宿に置き換えると

日本の省エネ法には、事業者がエネルギーを合理的に使うための「判断の基準」という告示がある。資源エネルギー庁が掲載する告示の本文には、「専ら事務所その他これに類する用途」の建物向けの項目(2―1)に、空調の熱源について次のような定めがある。

  • 熱源の設備が複数の熱源機でできている場合は、外気の季節の変化や負荷の変化に応じて、動かす台数を調整したり、動かす機器を選んだりして、全体の効率を上げるように「管理標準」を決めて運転する
  • 熱源や空調の設備は、効率の改善に必要な事項を、管理標準を決めて定期的に量り、記録する
  • 保温材や断熱材を保ち、フィルターの目づまりや、凝縮器や熱交換器についた水あか(スケール)を取り除くことなどについて、管理標準を決めて定期的に保守と点検をする
  • 新設や更新のときは、負荷の変化が予想される熱源に、適切な台数の分割、台数の制御、回転数の制御などを採用する
  • ビルのエネルギー管理システム(BEMS)などで、適切な空調の制御と運転の分析をする

シドニーの更新の中身と並べると、冷凍機を2台に分けること、熱量計で量ること、冷却塔を手入れし冷却水をろ過すること、管理システムで動かすことが、それぞれ告示の項目と重なる。

告示の最初の部分は「全ての事業者が取り組むべき事項」と題されている。一方で、国への定期の報告が求められるのは、年間のエネルギーの使用が原油に換算して1,500キロリットル以上の事業者などだと、国の補助金の公募要領は説明している。どの項目が、どの宿に、どこまで当てはまるかは、規模や用途で変わる。ただ、小さな宿でも、項目を「自分の宿の点検表」として使うことはできる。設備会社に更新を任せる場合も、何を量り、誰が記録し、どの頻度で保守するかを、契約の前に決めておくことが大切だ。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)

ある宿が、古くなった空調の熱源を入れ替えるとする。費用は1,200万円。新しい熱源で、電気が1年に3万キロワット時減るとする。電気が1キロワット時30円なら、1年に90万円の節約だ。今の熱源の保守と修理には、1年に40万円かかっているとする。

設備会社から、BOOTのような提案が来たとする。設備会社が熱源を買って持ち、12年間、運転と保守を引き受ける。宿は1年に130万円を払い、12年後に熱源を受け取る。

  • 電気の節約だけで比べると:90万円の節約に対して130万円の支払い。1年に40万円の持ち出しに見える
  • 保守と修理の費用も入れて比べると:90万円の節約と40万円の保守費で130万円。支払いとちょうど同じになる

同じ提案でも、何と比べるかで見え方が変わる。宿は、契約に含まれるもの(保守、修理、保証、省エネの保証)と、含まれないもの(たとえば冷却塔の大きな修理)を一つずつ確かめてから比べる。12年後に受け取る設備が、あと何年使えるかも、比べる材料になる。

割合より先に、持ち主と期間を読む

シドニーの事例の数字は、2か月で電気23%減、1年で26%、ガスで20%と、資料によって書き方が違う。それでも、1981年の機械室を、設備会社が造り、持ち、12年間動かし、最後にホテルに渡すという契約のかたちは、どの資料でも同じだ。省エネの割合を読む前に、設備の持ち主と期間、そして誰が結果を保証するのかを読むと、事例の意味がよく分かる。

持ち帰れる知識

  • BOOTでは、期間中の設備の持ち主は設備会社になる
  • 契約の比べ方は、電気の節約だけでなく、保守や修理の費用も入れて考える
  • 「見込み」と「結果」は、資料ごとに書き方を確かめる
  • 熱源の台数の調整、計測と記録、保守は、省エネ法の判断の基準にも並ぶ項目

宿で考えられること

  • 今の熱源の保守と修理に、1年にいくらかかっているかを記録する
  • 熱源を何台で、どう動かしているかを書き出す
  • 更新の提案では、契約に含まれるものと含まれないものを表にする
  • 判断の基準の項目を、点検表として使う

事業・予約への接続

機械室の更新は客の目に見えないが、冷暖房と給湯が止まらないことは、客の快適さそのものだ。省エネを伝えるときは、数字が見込みか実績か、何か月の数字かを明記する。

Sources / 参考情報

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