同じ差が「19.9%少ない」とも「約25%多い」とも書ける:北欧の140軒のホテルの、ヒートポンプと地域熱供給を比べた論文を読む
ノルウェーとスウェーデンの140軒のホテルのエネルギーの使用を、5年分調べた論文がある。2021年に学術誌「ジャーナル・オブ・クリーナー・プロダクション」に載った。論文の要点は、ヒートポンプを主な熱源にするホテルは、地域熱供給を使うホテルより、延べ床面積あたりで19.9%少ないエネルギーを使う、というものだ。同じ論文の要旨は、同じ差を「地域熱供給のホテルは、ヒートポンプのホテルより25%近く多い」とも書いている。この記事では、どちらを基準にするかで割合が変わる、という読み方に注目する。
140軒、5年分のエネルギー
論文の題は「寒い気候のホテルにおけるエネルギーの使用と、ヒートポンプによる改修の可能性」だ。ノルウェーの工科大学(NTNU)などの研究者が書き、オープンアクセスで公開されている。
要旨によると、論文は140軒のホテルについて、エネルギーの使用、使えるエネルギー源、熱の設備を5年間にわたって調べた。
- 70%のホテルの1年の平均のエネルギーの使用は、延べ床面積1平方メートルあたり150〜250キロワット時の間
- 地域熱供給は最も多い熱源で、70%のホテルが主な熱源にしている
- ヒートポンプを主な熱源にしているのは、9%のホテル
- 2015年から2019年にかけて、地域熱供給と地域冷房の使用は増え、電気の使用は減った
論文の要点の欄には、ホテルの地域熱供給と地域冷房が、2015年から2019年に18.0%と10.9%増えた、とある。
218.9と175.4:割合は、分母で変わる
要旨によると、地域熱供給を使うホテルの群の延べ床面積あたりのエネルギーの使用は、1年に218.9キロワット時/平方メートルだった。これは、ヒートポンプを主な熱源にするホテルより「25%近く高い」という。
一方、要点の欄は、「ヒートポンプのホテルは、地域熱供給のホテルより、1平方メートルあたり19.9%少ないキロワット時を使う」と書く。
2つの割合は、同じ差を、違う向きから見たものだ。ヒートポンプの群の値をHとすると、次のようになる。
- 地域熱供給を基準にする:(218.9−H)÷218.9=19.9% → Hは約175.4
- ヒートポンプを基準にする:(218.9−175.4)÷175.4=約24.8% → 「25%近く多い」
差は1平方メートルあたり約43.5キロワット時で、変わらない。何で割るかで、19.9%にも約25%にもなる。数字を引用するときは、どちらが基準かを一緒に書く必要がある。
「暖房の電気が20%少ない」とは書いていない
ノルウェーの科学ニュースのサイトは、この論文を紹介して、「ヒートポンプのホテルは、1平方メートルあたりの暖房の電気が20%少ない」と書いた。しかし、論文の要点と要旨が比べているのは、延べ床面積あたりのエネルギーの使用(キロワット時/平方メートル)で、「暖房の電気」に限った数字ではない。紹介の記事を読むときは、元の論文が何を比べたかを確かめたい。
この記事のもとになった記事は、地熱のヒートポンプが従来の方式の「3〜4倍」効率がよいとも書いていた。しかし、論文の要旨と要点には、この数字はない。また、論文が比べた「ヒートポンプを主な熱源にするホテル」が、地中の熱を使う型(地中熱ヒートポンプ)かどうかも、要旨からは分からない。この記事では、地熱やヒートポンプの効率の倍率は使わない。
二酸化炭素のヒートポンプで、熱のエネルギー約60%減
論文は、改修の方法として、冷媒に二酸化炭素を使うヒートポンプにも注目した。要旨によると、2つの統合型の二酸化炭素ヒートポンプを調べたところ、熱のエネルギーの消費を約60%減らせることが分かった。
科学ニュースのサイトによると、調べた2軒のホテルの設備は、蓄熱の槽つきの統合型の二酸化炭素ヒートポンプで、客室の冷暖房と給湯を含む、ホテルのすべての熱と冷房をまかなう。研究者は、冷房が必要な場所から熱を回収し、温度を上げて使えるのが、この「一体型」の強みだと説明している。
なお、延べ床面積あたりの比較は、平均どうしの比較だ。ヒートポンプのホテルは140軒の9%で、建物の古さや大きさ、設備の内容も違う。平均の差が、そのまま熱源の違いによるものとは限らない。
日本の宿に置き換えると
北欧では、地域熱供給が7割のホテルの主な熱源だった。日本にも、同じ仕組みがある。資源エネルギー庁のページによると、「熱供給事業」は一般に「地域冷暖房」と呼ばれ、一定の地域の建物群に、蒸気・温水・冷水などを熱源のプラントから導管で送る事業だ。熱源の設備の加熱能力が1時間に21ギガジュール以上のものが対象になる。
熱供給事業は「熱供給事業法」(昭和47年法律第88号)で公益事業とされ、事業の登録、供給能力の確保、供給の条件の説明、保安の規制などが定められている。日本熱供給事業協会によると、法律の対象になるのは、一般の需要に応じ、複数の建物に、加熱能力21ギガジュール毎時以上で供給し、需要家と資本の関係のない第三者などが行う場合だ。
協会のまとめでは、2026年4月1日の時点で、登録された事業者は73、地域は134(うち稼働中は72事業者・132地域)。関東(東北を含む)が84地域と多く、北海道は8地域だ。
資源エネルギー庁のページによると、2016年(平成28年)の法改正で、供給の義務や料金の規制はなくなった。ただし、ほかの設備に替えるのが難しい地域は「指定旧供給区域」として規制が続いている。
都市の中心部の宿は、地域冷暖房の区域にあれば、熱を「作る」か「買う」かを選べることがある。比べるときは、北欧の論文と同じように、何を分母にするか(延べ床面積か、宿泊の数か)をそろえる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
延べ床面積がどちらも1,500平方メートルの、2つの宿を比べるとする。
- 宿A:1年のエネルギーの使用は37万5,000キロワット時。1平方メートルあたり250キロワット時。1年の宿泊は1万室泊
- 宿B:1年のエネルギーの使用は30万キロワット時。1平方メートルあたり200キロワット時。1年の宿泊は7,500室泊
延べ床面積あたりで見ると、BはAより20%少ない。(250−200)÷250だ。逆に、AはBより25%多い。(250−200)÷200だ。
ところが、1室泊あたりで見ると、Aは37万5,000÷1万で37.5キロワット時、Bは30万÷7,500で40.0キロワット時になる。宿泊1回あたりでは、Aのほうが少ない。Aは客が多いぶん総量は多いが、建物を効率よく使っているとも読める。
宿は、熱源を比べる前に、物差し(延べ床面積あたりか、宿泊あたりか)と、基準の向き(どちらで割るか)を決めておく。
割合を見たら、分母を探す
北欧の140軒のホテルの論文は、ヒートポンプのホテルが地域熱供給のホテルより少ないエネルギーで動いていることを示した。その差は、地域熱供給を基準にすれば19.9%、ヒートポンプを基準にすれば約25%だ。どちらも正しい。割合を見たら、何で割った数字か、何あたりの数字かを探すこと。それが、熱源を選ぶ前の最初の一歩になる。
持ち帰れる知識
- 同じ差でも、基準(分母)によって割合が変わる
- 延べ床面積あたりと宿泊あたりで、順位が入れ替わることがある
- 紹介の記事は、元の論文が何を比べたかを確かめて読む
- 日本の地域冷暖房は、熱供給事業法の登録制の事業
宿で考えられること
- エネルギーの使用を、延べ床面積あたりと宿泊あたりの両方で記録する
- 割合を伝えるときは、何を基準にしたかを書く
- 地域冷暖房の区域にあるかを確かめる
- 熱源の更新では、冷房の排熱を給湯に使えるかを業者に聞く
事業・予約への接続
省エネの数字を客に伝えるとき、「20%少ない」と「25%多い」は印象が違う。基準を明記した数字は、客の信頼を守る。
Sources / 参考情報
- ScienceDirect(英文) - 寒い気候のホテルにおけるエネルギーの使用と、ヒートポンプによる改修の可能性(Journal of Cleaner Production 第298巻)(2021年5月20日)
裏付け: 140軒・ノルウェーとスウェーデン、5年間、70%が150〜250キロワット時/平方メートル、地域熱供給が70%の主な熱源、ヒートポンプは9%、地域熱供給の群218.9でヒートポンプより25%近く高い、ヒートポンプは19.9%少ない、地域熱供給と地域冷房が18.0%と10.9%増、電気は減、統合型の二酸化炭素ヒートポンプ2つで熱のエネルギー約60%減、オープンアクセス - Norwegian SciTech News(英文) - 二酸化炭素のヒートポンプは、寒い気候のホテルの賢い選択(2021年5月25日)
裏付け: 「暖房の電気が1平方メートルあたり20%少ない」という紹介、2軒の蓄熱つき統合型の二酸化炭素ヒートポンプ、冷暖房と給湯のすべてをまかなう、冷房の場所から熱を回収 - 資源エネルギー庁 - 熱供給事業法による規制(その他の情報提供)
裏付け: 熱供給事業は一般に地域冷暖房、加熱能力21ギガジュール毎時以上、昭和47年法律第88号、事業登録・供給能力の確保・供給条件の説明・保安規制、平成28年の改正で供給義務と料金規制を撤廃、指定旧供給区域 - 日本熱供給事業協会 - 地域熱供給(地域冷暖房)事業について
裏付け: 法の適用の要件(一般の需要、21ギガジュール毎時以上、複数の建物、資本の関係のない第三者など) - 日本熱供給事業協会 - 支部別熱供給事業者(2026年4月1日現在)
裏付け: 登録73事業者・134地域(稼働中72・132)、関東(含東北)84地域、北海道8地域