「36.61キロワット時」は、1年の量ではない:1891年築のナンタケットのホテルの21枚の太陽熱の集熱器を、面積と出力の換算から読む
米国の太陽熱の集熱器のメーカー「サンアース」は、自社の製品を使ったホテルの事例をいくつも公開している。ロサンゼルスの「カワダ・ホテル」の36枚、マサチューセッツ州ナンタケット島の「ナンタケット・ホテル&リゾート」の21枚などだ。ナンタケットの事例のページには、「定格の出力:562.8÷10.76×0.7=36.61キロワット時」という計算式が載っている。この記事では、この式が何を計算しているのかを読み解く。
3つの事例に書かれていること
サンアースの事例のページから、3つのホテルの内容を並べる。
- カワダ・ホテル(ロサンゼルス、サウス・ヒル通り200番地):2019年、サンアースの平板型の集熱器36枚で給湯の仕組みを入れた。施工はオール・バレー・ソーラー
- ナンタケット・ホテル&リゾート(ナンタケット、イーストン通り77番地):2018年の改修で、平板型の集熱器(TRB-26)21枚の給湯の仕組みを入れた
- マリオットのレジデンス・イン(カリフォルニア州サンカルロス):2017年、施工会社のアズテック・ソーラーが、4フィート×10フィートの平板型の集熱器(TRB-40)60枚で太陽熱の給湯を入れた
カワダ・ホテルの事例は、#321で詳しく読んだ。事例のページには、給湯の費用が「大きく減った」とあるが、具体的な数字はない。
サンアースのホテル向けのページには、太陽熱の給湯で「1年に最大70%」の節約ができる、と書かれている。これはメーカーの一般的な説明で、3つのホテルのどれかで量った数字ではない。レジデンス・インの事例にある「15か月未満で投資を回収することも多い」という文も、太陽熱の給湯全般についての説明として書かれている。
1891年の建物の、2018年の改修
ナンタケットの事例のページによると、ナンタケット・ホテル&リゾートは1891年に建てられた建物だ。2012年に修復と大きな改修を受け、外観は昔のナンタケットの姿のまま、中を現代の旅行者向けにした。
2018年に、ホテルはもう一度改修を行った。その目玉の一つが、21枚の平板型の集熱器で動く新しい給湯の仕組みだった。工事はその年のうちに終わり、2018年12月13日に正式に動き始めた。太陽熱で温めたお湯は、ハイドロフレックス社の貯湯の槽にためる。
古い建物に新しい設備を入れる機会として、大きな改修のときを選んだ形だ。屋根や配管の工事を、改修とまとめて行える。
「562.8÷10.76×0.7」を分解する
ページの式を、1つずつ分けてみる。
- 562.8:集熱器の面積(平方フィート)と読める。21枚で割ると、1枚あたり約26.8平方フィート
- 10.76:1平方メートルは約10.76平方フィート。562.8÷10.76で、約52.3平方メートル
- 0.7:1平方メートルあたり0.7キロワットという換算の係数
国際エネルギー機関の「太陽熱の冷暖房の研究計画」(IEA SHC)は、2004年に、各国の業界団体とともに、集熱器の面積を設備の能力に換算する方法を決めた。統計のために、集熱器の開口部の面積(平方メートル)に0.7を掛けて、熱の能力(キロワット熱)とする。係数は、覆いのない型、平板型、真空管型に同じように使う。
この決まりに従えば、52.3平方メートル×0.7=約36.6は、「キロワット」の能力だ。1時間あたりの熱の出し方の大きさで、1年に集める熱の量(キロワット時)ではない。ページでは単位が「キロワット時」と書かれているが、計算の中身は能力の換算にあたる。また、IEA SHCの決まりは開口部の面積を使うが、ページの562.8平方フィートが、開口部の面積か、外形の面積かは書かれていない。
キロワットとキロワット時
キロワットは「力の大きさ」、キロワット時は「使った量や集めた量」だ。36.6キロワットの能力があっても、1年に集める熱の量は、日射の量や季節、お湯の使い方で変わる。
IEA SHCの2004年の文書も、面積を能力に換算する方法とは別に、面積を1年に得られるエネルギーに換算する方法を、当時検討中だと書いていた。能力と量は、別の物差しだ。
日本の宿に置き換えると
ナンタケットのホテルは、1891年の外観を守りながら、屋根に新しい設備を載せた。日本でも、町並みを守る地域では、屋根の上の設備に決まりがある。
京都市は、2007年(平成19年)9月から新しい景観の政策を進め、屋根の景観を大切な要素と位置づけて、太陽光のパネルにも設置の基準を定めた。市の運用基準によると、勾配のある屋根では、共通の基準として次のことが求められる。
- パネルの色は、黒、濃い灰色、濃紺色(原則として彩度2以下)
- 配管や配線の色は、屋根や外壁と同じような色にして目立たないようにする
- パネルのいちばん上は、建物の棟の高さを超えず、屋根に密着させる
- 枠は黒か濃い灰色
- 屋根とパネルにすき間ができるときは、軒先に黒いカバーを付ける
地域によっては、さらに細かい基準があり、設置の前に景観の手続きが必要になる。市は、景観の情報を調べられる仕組みで、場所がどの地区に当たるかを確かめるよう案内している。
ただし、この運用基準は「太陽光パネル」を対象にした基準だ。お湯を作る太陽熱の集熱器にどう当てはまるかは、基準の中には書かれていない。町並みを守る地域で太陽熱を考える宿は、設置の前に、市の景観の窓口に確かめる必要がある。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
ある宿が、屋根に平板型の集熱器を10枚載せるとする。1枚の開口部の面積を2.0平方メートルとすると、合計20平方メートルだ。
- 能力:20×0.7で14キロワット(熱)
この14という数字を、「1年に14キロワット時」と読んではいけない。1年に集める熱の量は、別に考える。仮に、1平方メートルあたり1年に400キロワット時の熱を集めるとすると、20平方メートルで1年に8,000キロワット時になる。
業者の見積もりを見るときは、次の3つを分けて確かめる。
- 面積:開口部の面積か、外形の面積か
- 能力:キロワット(熱)
- 1年の量:キロワット時。どの地域の日射の量と、どんなお湯の使い方を前提にしたか
単位を見れば、数字の意味が分かる
ナンタケットの1891年の建物に載った21枚の集熱器について、メーカーのページは「36.61キロワット時」と書いた。けれども、式を分解すると、それは集熱器の面積に0.7を掛けた能力の換算で、1年に集める熱の量ではない。カワダ・ホテルの36枚の事例にも、ホテル向けのページの「最大70%」にも、それぞれのホテルで量った数字はない。太陽熱の数字を読むときは、面積、能力、量のどれなのかを、単位から確かめたい。
持ち帰れる知識
- IEA SHCは、集熱器の開口部の面積×0.7で能力(キロワット熱)に換算する
- キロワットは能力、キロワット時は量
- 面積には、開口部の面積と外形の面積がある
- 京都市の景観の運用基準は、太陽光パネルを対象にしている
宿で考えられること
- 太陽熱の見積もりを、面積・能力・1年の量に分けて読む
- 大きな改修のときに、屋根と配管の工事をまとめる
- 町並みを守る地域では、設置の前に市に確かめる
- 入れたあとは、お湯を沸かす燃料の量を毎月記録する
事業・予約への接続
歴史のある建物で再生可能エネルギーを使うことは、宿の物語になる。伝えるときは、「最大」や能力の数字ではなく、宿で量った量を使う。
Sources / 参考情報
- SunEarth(英文) - 事例:ナンタケット・ホテル&リゾートの持続可能な給湯の仕組み
裏付け: 1891年の建物、2012年に修復と大きな改修、2018年の改修でTRB-26の平板型集熱器21枚、2018年12月13日に稼働、イーストン通り77番地、「562.8 / 10.76 * 0.7 = 36.61 kWh」、ハイドロフレックスの貯湯槽 - SunEarth(英文) - 事例:カワダ・ホテル
裏付け: 2019年、TRBの平板型集熱器36枚、サウス・ヒル通り200番地、給湯の費用を大きく減らした(数字なし)、施工はオール・バレー・ソーラー - SunEarth(英文) - 事例:マリオットのレジデンス・イン(サンカルロス)
裏付け: 2017年、アズテック・ソーラー、4×10フィートのTRB-40を60枚、「15か月未満で回収することも多い」は太陽熱の給湯全般の説明 - SunEarth(英文) - ホテルとモーテル
裏付け: 太陽熱の給湯で1年に最大70%の節約(一般的な説明) - IEA SHC(英文) - 推奨1:太陽熱の集熱器の面積を設備の能力に換算する(m²からkWthへ、PDF)(2004年)
裏付け: 2004年9月8日にオーストリアのグライスドルフで合意、統計のために開口部の面積×0.7kWth/m²、覆いのない型・平板型・真空管型に同じく適用、面積の3つの定義(吸収面・開口部・外形)、面積を1年のエネルギーに換算する方法は当時検討中 - 京都市 - 太陽光パネルの景観に関する運用基準・手続のご案内
裏付け: 平成19年9月から新景観政策、屋根の景観を重要な要素とし太陽光パネルにも設置基準、景観情報共有システムで地区を確認、設置の前に景観手続 - 京都市 - 太陽光パネルの景観に関する運用基準(PDF)
裏付け: 勾配屋根の共通基準(パネルの色は黒・濃い灰色・濃紺色で原則彩度2以下、配管と配線は同等色、最上部は棟を超えず屋根に密着、枠は黒か濃い灰色、すき間には軒先に黒いカバー)