「73.6%」は、このホテルの数字ではない:中国・淄博の大きなホテルの「空気と地中熱のヒートポンプ」を、論文ごとに読み分ける
中国の北部にある大きなホテルで、地中熱のヒートポンプに、空気の熱を使うヒートポンプと蓄熱を組み合わせた研究がある。この事例を紹介する文章には、「省エネ73.6%」「炭素69%減」「冬の太陽の利用3分の2」「15%」「5年で回収」といった数字が並ぶことがある。けれども、論文を一つずつ確かめると、これらの多くは、ホテルの論文の結果ではない。別の論文の結果や、論文の中で紹介されたほかの研究の数字だ。この記事では、数字を持ち主ごとに分けて読む。
ホテルの論文は、どれか
ホテルを扱った論文は、エルゼビアの学術誌「リニューアブル・エナジー」の第201巻(2022年12月)に載った。題は「蓄熱を備えた新しい空気と地中熱の組み合わせヒートポンプの運転モードの性能と最適化:ホテルの建物の事例研究」。著者は王宇博(ワン・ユーボー)氏ら5人で、中国の国家自然科学基金の支援を受けている。
論文によると、対象は山東省の淄博(ズーボー)市にあるホテルだ。
- 寒い地域に属し、1年の平均気温は12.3℃
- 冬は外の気温が−12℃まで下がり、夏は37℃まで上がる
- 建物の延べ面積は10万6,000平方メートルで、実際に冷暖房をする面積はその約50%
- レストランの棟や会議の棟などからなる
もともと地中熱のヒートポンプで冷暖房をしていた建物を、省エネのために改修した事例だ。
何を組み合わせたのか
寒い地域で地中熱を暖房に使い続けると、地中から取り出す熱が、夏に戻す熱より多くなる。論文は、これを「土の熱の不均衡」と呼び、地中の温度が下がって効率が落ちる問題として取り上げている。
そこで、改修では、地中熱のヒートポンプに、次のものを加えた。
- 空気の熱を使うヒートポンプ(空気熱源)
- 水の熱を使うヒートポンプ(水熱源)
- 冷たさと暖かさをためる蓄熱の設備
冬は、空気熱源のヒートポンプがつくった低い温度の熱を、水熱源のヒートポンプがさらに温める。こうすると、外がとても寒くても暖房の能力がほとんど落ちず、仕組み全体の平均の効率(COP)は2.3だったという。また、電気の安い夜に熱や冷たさをため、昼に使う。地域の電気料金は時間帯で変わる仕組みで、運転の費用を下げるねらいだ。
ホテルの論文の結果
論文は、2020年から2022年まで、10分ごとに温度、流量、電力などを記録した。2年間、安定して動いたという。このデータで計算のモデルを確かめ、運転の方法を比べた。要旨に書かれた結果は、次のとおりだ。
- 空気熱源のヒートポンプの霜取りの制御を見直すと、暖房の能力が13.9%増える
- 土の熱の不均衡の率を2.6%に保てる
- 1年の運転の費用は、従来の地中熱だけの仕組みの58%
- 炭素の排出は7.14%減らせる
比べる相手は「従来の地中熱のヒートポンプ」だ。費用は大きく下がるが、炭素の減り方は7.14%にとどまる。費用が下がる理由の一つは、安い夜の電気を使うことにある。電気の量そのものの減り方と、費用の減り方は同じではない。
「73.6%」と「3分の2」は、住宅の研究
「73.6%」「69%」「3分の2」は、同じ研究グループが2024年に同じ学術誌(第222巻)で発表した、別の論文の要旨にある。題は「相変化の蓄熱を組み込んだ新しい二つの熱源のヒートポンプのエネルギーとエクセルギーの分析」。
この論文が扱うのは、太陽の光で電気とお湯をつくるパネル(PVT)、空気の熱交換器、氷をつくって熱をためる槽を組み合わせた仕組みで、要旨は「住宅の建物」への応用を調べたと書いている。冬の太陽の利用率が3分の2に達し、従来の空気熱源のヒートポンプと比べて省エネ率73.6%、炭素69%減という結果は、この住宅向けの仕組みの計算の結果だ。淄博のホテルの結果ではない。
「15%」と「5年」は、論文の中の紹介
「約15%の省エネ」「回収は約5年」は、ホテルの論文の序論に出てくる。ほかの研究者の研究を紹介する部分で、空気の熱交換器、太陽の集熱器、地中の熱交換器を組み合わせた仕組みについての数字だ。序論は、同じ考え方の研究の多くが、計算や試作の段階にとどまり、大きな地中熱の仕組みに使われた例がないとも書いている。
序論には、太陽の熱で地中熱を補う方法の難しさも出てくる。ある研究では、能力950キロワットの地中熱のヒートポンプ2台に、少なくとも1,600平方メートルの太陽の集熱器が必要だった。論文は、多くの大きな公共の建物では難しいとし、場所をとらない空気の熱が補助に向くと述べている。
日本の宿に置き換えると
地中の熱の出し入れの釣り合いは、日本の指針でも注意点になっている。
国土交通省の「官庁施設における地中熱利用システム導入ガイドライン(案)」(平成25年10月)は、夏に地中へ出した熱と冬に地中から取った熱を合わせたものを「年間熱収支」と定義している。設計の最初の注意として、この年間熱収支に気をつけることを挙げ、出す熱と取る熱が大きく違うと、地中の温度が十分に戻らず、必要な熱の交換ができなくなるおそれがあると書く。そのときは、ヒートポンプの運転時間や、熱を運ぶ液の温度などの条件を考える。寒い地域では、凍らないように不凍液を検討することにも触れている。
環境省も、2018年3月の「地中熱利用にあたってのガイドライン 改訂増補版」の発表で、ふつうの使い方ではほとんど問題にならないが、熱を取りすぎると効率が下がる場合があると説明した。導入のときに熱の負荷を適切に見込んで設計し、計画を上回るような運転をしないよう求めている。ガイドラインは2023年3月に第4版に改訂され、地中に熱をためる技術と事例が加わった。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
寒い地域の宿が、地中熱のヒートポンプで冷暖房をしているとする。
- 冬の暖房で、地中から1年に400メガワット時の熱を取る
- 夏の冷房で、地中へ1年に150メガワット時の熱を戻す
- 差は250メガワット時。毎年、取る熱の方が多い
ここで、冬の暖房に使う熱源の40%を空気の熱に替えるとする。地中から取る熱は400×60%で240メガワット時になり、戻す熱との差は90メガワット時に縮む。
数字は仮定だが、考え方は淄博のホテルと同じだ。地中熱を「取る量」と「戻す量」の両方で記録すると、空気の熱や蓄熱をどこまで足すかを考えやすくなる。
数字を読む前に、持ち主を確かめる
淄博のホテルの論文が示したのは、霜取りの見直しで暖房の能力が13.9%増えること、土の熱の不均衡の率を2.6%に保てること、1年の運転の費用が地中熱だけの仕組みの58%になること、炭素が7.14%減ることだ。「73.6%」と「3分の2」は同じグループの住宅の研究、「15%」と「5年」は序論で紹介された別の研究の数字だった。論文を紹介する文章を読むときは、その数字が、どの論文の、どの建物の、何と比べた結果なのかを確かめたい。
持ち帰れる知識
- 論文の要旨、序論、別の論文の数字を分けて読む
- 比べる相手(空気熱源か、地中熱だけか)で、%の意味が変わる
- 費用の減り方と、エネルギーの減り方は同じではない
- 地中熱は、取る熱と戻す熱の「年間熱収支」に気をつける
宿で考えられること
- 地中熱を使う宿は、取る熱と戻す熱を季節ごとに記録する
- 暖房の負荷を見込んだうえで、計画を上回る運転を避ける
- 空気の熱や蓄熱を足すときは、何と比べた効果かを業者に確かめる
- 時間帯で変わる電気料金と、蓄熱の相性を調べる
事業・予約への接続
寒い地域の宿にとって、冬の暖房は大きな費用だ。設備の効果を伝えるときは、研究の数字を借りるのではなく、自分の宿で量った量と費用を使う。
Sources / 参考情報
- Renewable Energy(英文) - 蓄熱を備えた新しい空気と地中熱の組み合わせヒートポンプの運転モードの性能と最適化:ホテルの建物の事例研究(第201巻、2022年12月、889〜903ページ)
裏付け: 淄博市・寒い地域・年平均12.3℃・冬−12℃・夏37℃、延べ10万6,000平方メートル・冷暖房面積約50%、空気熱源と水熱源のヒートポンプと蓄熱を追加、冬の平均COP2.3、時間帯別料金と夜の蓄熱、2020〜2022年に10分間隔で記録・2年間安定運転、霜取りで13.9%、不均衡の率2.6%、運転費用58%、炭素7.14%減、序論の約15%・約5年・950キロワット2台に1,600平方メートル、国家自然科学基金 - IDEAS/RePEc(英文) - 相変化の蓄熱を組み込んだ新しい二つの熱源のヒートポンプのエネルギーとエクセルギーの分析(Renewable Energy 第222巻、2024年)
裏付け: 王宇博氏らの研究、PVT・空気の熱交換器・氷の蓄熱槽、住宅の建物への応用、冬の太陽の利用率3分の2、空気熱源と比べて省エネ率73.6%・炭素69%減 - 国土交通省 - 官庁施設における地中熱利用システム導入ガイドライン(案)(PDF)(平成25年10月)
裏付け: 年間熱収支の定義、4.1の(1)で年間熱収支に留意・放熱量と採熱量が大きく違うと地中温度が十分に回復せず必要な熱交換量が得られないおそれ・運転時間や熱媒温度を考慮、寒冷地での不凍液の検討 - 環境省 - 『地中熱利用にあたってのガイドライン 改訂増補版』について(2018年3月23日)
裏付け: 通常の稼働ではほとんど問題にならないが過剰な採熱で効率が下がる場合、熱負荷を適切に想定した設計、計画を上回る稼働をしない - 環境省 - 地中熱利用にあたってのガイドライン(第4版)
裏付け: 令和5年3月に第4版、地中蓄熱の技術と事例を追加、令和6年3月に一部更新