GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 5分 / 2858文字 数字の持ち主を確かめる型 #456

「73.6%」は、このホテルの数字ではない:中国・淄博の大きなホテルの「空気と地中熱のヒートポンプ」を、論文ごとに読み分ける

中国の北部にある大きなホテルで、地中熱のヒートポンプに、空気の熱を使うヒートポンプと蓄熱を組み合わせた研究がある。この事例を紹介する文章には、「省エネ73.6%」「炭素69%減」「冬の太陽の利用3分の2」「15%」「5年で回収」といった数字が並ぶことがある。けれども、論文を一つずつ確かめると、これらの多くは、ホテルの論文の結果ではない。別の論文の結果や、論文の中で紹介されたほかの研究の数字だ。この記事では、数字を持ち主ごとに分けて読む。

ホテルの論文は、どれか

ホテルを扱った論文は、エルゼビアの学術誌「リニューアブル・エナジー」の第201巻(2022年12月)に載った。題は「蓄熱を備えた新しい空気と地中熱の組み合わせヒートポンプの運転モードの性能と最適化:ホテルの建物の事例研究」。著者は王宇博(ワン・ユーボー)氏ら5人で、中国の国家自然科学基金の支援を受けている。

論文によると、対象は山東省の淄博(ズーボー)市にあるホテルだ。

  • 寒い地域に属し、1年の平均気温は12.3℃
  • 冬は外の気温が−12℃まで下がり、夏は37℃まで上がる
  • 建物の延べ面積は10万6,000平方メートルで、実際に冷暖房をする面積はその約50%
  • レストランの棟や会議の棟などからなる

もともと地中熱のヒートポンプで冷暖房をしていた建物を、省エネのために改修した事例だ。

何を組み合わせたのか

寒い地域で地中熱を暖房に使い続けると、地中から取り出す熱が、夏に戻す熱より多くなる。論文は、これを「土の熱の不均衡」と呼び、地中の温度が下がって効率が落ちる問題として取り上げている。

そこで、改修では、地中熱のヒートポンプに、次のものを加えた。

  • 空気の熱を使うヒートポンプ(空気熱源)
  • 水の熱を使うヒートポンプ(水熱源)
  • 冷たさと暖かさをためる蓄熱の設備

冬は、空気熱源のヒートポンプがつくった低い温度の熱を、水熱源のヒートポンプがさらに温める。こうすると、外がとても寒くても暖房の能力がほとんど落ちず、仕組み全体の平均の効率(COP)は2.3だったという。また、電気の安い夜に熱や冷たさをため、昼に使う。地域の電気料金は時間帯で変わる仕組みで、運転の費用を下げるねらいだ。

ホテルの論文の結果

論文は、2020年から2022年まで、10分ごとに温度、流量、電力などを記録した。2年間、安定して動いたという。このデータで計算のモデルを確かめ、運転の方法を比べた。要旨に書かれた結果は、次のとおりだ。

  • 空気熱源のヒートポンプの霜取りの制御を見直すと、暖房の能力が13.9%増える
  • 土の熱の不均衡の率を2.6%に保てる
  • 1年の運転の費用は、従来の地中熱だけの仕組みの58%
  • 炭素の排出は7.14%減らせる

比べる相手は「従来の地中熱のヒートポンプ」だ。費用は大きく下がるが、炭素の減り方は7.14%にとどまる。費用が下がる理由の一つは、安い夜の電気を使うことにある。電気の量そのものの減り方と、費用の減り方は同じではない。

「73.6%」と「3分の2」は、住宅の研究

「73.6%」「69%」「3分の2」は、同じ研究グループが2024年に同じ学術誌(第222巻)で発表した、別の論文の要旨にある。題は「相変化の蓄熱を組み込んだ新しい二つの熱源のヒートポンプのエネルギーとエクセルギーの分析」。

この論文が扱うのは、太陽の光で電気とお湯をつくるパネル(PVT)、空気の熱交換器、氷をつくって熱をためる槽を組み合わせた仕組みで、要旨は「住宅の建物」への応用を調べたと書いている。冬の太陽の利用率が3分の2に達し、従来の空気熱源のヒートポンプと比べて省エネ率73.6%、炭素69%減という結果は、この住宅向けの仕組みの計算の結果だ。淄博のホテルの結果ではない。

「15%」と「5年」は、論文の中の紹介

「約15%の省エネ」「回収は約5年」は、ホテルの論文の序論に出てくる。ほかの研究者の研究を紹介する部分で、空気の熱交換器、太陽の集熱器、地中の熱交換器を組み合わせた仕組みについての数字だ。序論は、同じ考え方の研究の多くが、計算や試作の段階にとどまり、大きな地中熱の仕組みに使われた例がないとも書いている。

序論には、太陽の熱で地中熱を補う方法の難しさも出てくる。ある研究では、能力950キロワットの地中熱のヒートポンプ2台に、少なくとも1,600平方メートルの太陽の集熱器が必要だった。論文は、多くの大きな公共の建物では難しいとし、場所をとらない空気の熱が補助に向くと述べている。

日本の宿に置き換えると

地中の熱の出し入れの釣り合いは、日本の指針でも注意点になっている。

国土交通省の「官庁施設における地中熱利用システム導入ガイドライン(案)」(平成25年10月)は、夏に地中へ出した熱と冬に地中から取った熱を合わせたものを「年間熱収支」と定義している。設計の最初の注意として、この年間熱収支に気をつけることを挙げ、出す熱と取る熱が大きく違うと、地中の温度が十分に戻らず、必要な熱の交換ができなくなるおそれがあると書く。そのときは、ヒートポンプの運転時間や、熱を運ぶ液の温度などの条件を考える。寒い地域では、凍らないように不凍液を検討することにも触れている。

環境省も、2018年3月の「地中熱利用にあたってのガイドライン 改訂増補版」の発表で、ふつうの使い方ではほとんど問題にならないが、熱を取りすぎると効率が下がる場合があると説明した。導入のときに熱の負荷を適切に見込んで設計し、計画を上回るような運転をしないよう求めている。ガイドラインは2023年3月に第4版に改訂され、地中に熱をためる技術と事例が加わった。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)

寒い地域の宿が、地中熱のヒートポンプで冷暖房をしているとする。

  • 冬の暖房で、地中から1年に400メガワット時の熱を取る
  • 夏の冷房で、地中へ1年に150メガワット時の熱を戻す
  • 差は250メガワット時。毎年、取る熱の方が多い

ここで、冬の暖房に使う熱源の40%を空気の熱に替えるとする。地中から取る熱は400×60%で240メガワット時になり、戻す熱との差は90メガワット時に縮む。

数字は仮定だが、考え方は淄博のホテルと同じだ。地中熱を「取る量」と「戻す量」の両方で記録すると、空気の熱や蓄熱をどこまで足すかを考えやすくなる。

数字を読む前に、持ち主を確かめる

淄博のホテルの論文が示したのは、霜取りの見直しで暖房の能力が13.9%増えること、土の熱の不均衡の率を2.6%に保てること、1年の運転の費用が地中熱だけの仕組みの58%になること、炭素が7.14%減ることだ。「73.6%」と「3分の2」は同じグループの住宅の研究、「15%」と「5年」は序論で紹介された別の研究の数字だった。論文を紹介する文章を読むときは、その数字が、どの論文の、どの建物の、何と比べた結果なのかを確かめたい。

持ち帰れる知識

  • 論文の要旨、序論、別の論文の数字を分けて読む
  • 比べる相手(空気熱源か、地中熱だけか)で、%の意味が変わる
  • 費用の減り方と、エネルギーの減り方は同じではない
  • 地中熱は、取る熱と戻す熱の「年間熱収支」に気をつける

宿で考えられること

  • 地中熱を使う宿は、取る熱と戻す熱を季節ごとに記録する
  • 暖房の負荷を見込んだうえで、計画を上回る運転を避ける
  • 空気の熱や蓄熱を足すときは、何と比べた効果かを業者に確かめる
  • 時間帯で変わる電気料金と、蓄熱の相性を調べる

事業・予約への接続

寒い地域の宿にとって、冬の暖房は大きな費用だ。設備の効果を伝えるときは、研究の数字を借りるのではなく、自分の宿で量った量と費用を使う。

Sources / 参考情報

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