「1室あたり年2,000〜6,000ドル」と「2,196ドル」:省エネのガイドの数字を、米国の公的な数字と日本の旅館の調査に並べて読む
設備の保全のソフトを売る米国の会社「オックスメイント」は、2026年4月4日に、ホテルのエネルギー管理の仕組み(EMS)のガイドを公開した。冒頭には、「ホテルは1室あたり年2,000〜6,000ドルをエネルギーに使い、その30%が無駄になっている」とある。この記事では、このガイドの数字を、米国の環境保護庁の「エナジースター」の数字や、日本の旅館の調査の数字と並べる。どれも「エネルギーの費用」の数字だが、何で割った数字かが違う。
ガイドに書かれていること
ガイドの主な数字は、次のとおりだ。
- ホテルのエネルギーの費用は、1室あたり年2,000〜6,000ドル。その30%は、運転の時間の組み方のまずさ、空室の冷暖房、空調の保守の先送りで無駄になっている
- 無駄の内訳は、空室の冷暖房40%、空調の保守の先送り25%、使っていない場所の照明20%、建物の管理システムの調整のずれ15%
- チェックアウトから5分以内に、空室の部屋を省エネの設定に切り替える
- 室温の設定は、ふつう冷房で22℃から26℃へ、暖房では18℃へ変える。次の客のチェックインの30〜60分前に元に戻す
- センサーの費用は平均6週間で回収、エネルギー費は導入から12か月以内に平均30%減
- 200室のホテルなら、30%減で年18万ドルの節約と見込む
ガイドの数字どうしを掛けると、空室の冷暖房の無駄は、エネルギー費の約12%(30%×40%)にあたる計算になる。
同じ会社のページでも、数字は少しずつ違う
オックスメイントは、ホテルのエネルギーについて、ほかにもページを出している。2026年7月23日の別のガイドは、1室あたりの年のエネルギー費の平均を2,196ドルとし、チェックアウトから省エネの設定まで「20分以内」と書く。客室の空室に合わせた制御の効果は8〜14%、仕組み全体では12〜18か月で20〜30%としている。
また、同じ会社の18軒の事例のページは、エネルギーの費用を総営業収入の6〜10%としている。
「5分」と「20分」、「30%」と「20〜30%」のように、同じ会社の中でも数字はページごとに違う。どれも、製品を売る会社が書いた目安だ。
「2,196ドル」は、どこから来たか
2,196ドルという数字は、エナジースターの資料にある。資料「ホテル:エネルギーの使い方と省エネの機会の概要」は、次のように書いている。
- 米国の4万7,000軒のホテルは、平均で、販売できる客室1室あたり年2,196ドルをエネルギーに使う
- これは、すべての運営費の約6%にあたる
- エネルギーを10%減らすと、平均客室単価を、限られたサービスのホテルで0.62ドル、フルサービスのホテルで1.35ドル上げたのと同じ効果がある
同じ2,196ドルは、米国のパシフィック・ノースウェスト国立研究所が2016年に発表した研究の要旨にも出てくる。ただし、こちらは「約2万5,000軒のホテル」と書き、年の運営費の約6%としている。同じ金額でも、ホテルの数の書き方が違う。数字がどの年のどの統計から来たかは、ここでは確かめられない。
何で割った数字か
ここまでの数字を、分母で分けると次のようになる。
- 1室あたり年2,000〜6,000ドル、2,196ドル:販売できる客室の数で割った金額
- 約6%:運営費(費用の合計)に対する割合
- 6〜10%:営業収入(売上)に対する割合
運営費に対する6%と、売上に対する6〜10%は、同じものさしではない。利益が出ているホテルでは、運営費は売上より小さいので、同じエネルギー費でも、運営費に対する割合の方が大きく出る。
200室で年18万ドルという見込みも、分母で読み直せる。18万ドルが30%なら、もとのエネルギー費は60万ドルで、1室あたり3,000ドルだ。エナジースターの2,196ドルで計算すると、200室で約43万9,000ドル、その30%は約13万2,000ドルになる。前提の1室あたりの金額で、見込みは大きく変わる。
日本の宿に置き換えると
日本の旅館の数字には、旅館とホテルの経営コンサルタント「リョケン」の調査がある。2023年1月から12月に決算期を迎えた旅館とホテルの実績を、2024年2月に集めたもので、回答は大規模9軒、中規模24軒、小規模23軒の計56軒。平均の客室数は61.4室だ。
調査によると、エネルギー費(水道光熱費と燃料費の合計)の売上に対する割合は10.3%で、前年を下回った。宿泊客1人あたりのエネルギー費は1,983円だった。調査は、エネルギー費は前年を少し下回ったものの、高い水準が続いているとしている。
この10.3%は、売上に対する割合で、水道の費用も含む。エナジースターの「運営費の約6%」とは、分母も中身も違う。56軒の調査で、日本の宿全体を代表する数字でもない。それでも、自分の宿の数字を同じ形で計算すれば、比べる手がかりになる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
30室の宿の、1年の売上が1億円で、エネルギー費(水道光熱費と燃料費)が売上の10.3%の1,030万円だとする。
- エネルギー費を10%減らすと、年103万円
- 稼働率70%なら、1年に売れる室数は30×365×0.7で7,665室
- 103万円を7,665室で割ると、1室あたり約134円
ほかの条件が同じなら、エネルギー費を10%減らすことは、1室の単価を約134円上げたのと同じだけ、手元にお金が残ることになる。エナジースターの「10%減らすと客室単価を0.62〜1.35ドル上げたのと同じ」と同じ考え方を、自分の宿の数字で計算したものだ。
自分の宿の分母で計算する
オックスメイントのガイドの「1室あたり年2,000〜6,000ドル、30%が無駄」は、製品を売る会社の目安で、同じ会社のページの中でも数字が少しずつ違う。エナジースターの2,196ドルは運営費の約6%、日本の56軒の旅館の調査の10.3%は売上に対する割合だ。数字を比べる前に、何で割った数字かをそろえたい。いちばん確かなのは、自分の宿の売上、室数、エネルギー費で計算した数字だ。
持ち帰れる知識
- エナジースター:1室あたり年2,196ドル、運営費の約6%
- エネルギーを10%減らすと、客室単価を0.62〜1.35ドル上げたのと同じ
- 運営費に対する割合と、売上に対する割合は違う
- 日本の56軒の調査では、エネルギー費は売上の10.3%
宿で考えられること
- エネルギー費を、売上、運営費、売れた室数のそれぞれで割って記録する
- 水道を含むか、燃料を含むかをそろえる
- 業者の「年○円の節約」は、前提の1室あたりの金額を確かめる
- 削減額を、客室単価に換算して社内で共有する
事業・予約への接続
エネルギー費を減らすことは、値上げをせずに利益を増やす方法の一つだ。客室単価に換算すると、予約や売上の担当者とも話がしやすくなる。
Sources / 参考情報
- OxMaint(英文) - ホテルのエネルギー管理の仕組み(EMS)のガイド(2026年4月4日)
裏付け: 1室あたり年2,000〜6,000ドル・30%が無駄、内訳40・25・20・15%、チェックアウトから5分以内、22℃→26℃・18℃、30〜60分前に戻す、6週間で回収、12か月以内に平均30%、18%、200室で年18万ドル - OxMaint(英文) - ホテルのエネルギー管理と光熱費のガイド2026(2026年7月23日)
裏付け: 1室あたり年2,196ドル、チェックアウトから20分以内、客室の制御で8〜14%、12〜18か月で20〜30% - OxMaint(英文) - ホテルの省エネの事例:IoTと保全で30%削減(2026年3月28日)
裏付け: エネルギー費は総営業収入の6〜10% - ENERGY STAR(英文) - ホテル:エネルギーの使い方と省エネの機会の概要(PDF)
裏付け: 米国の4万7,000軒、販売できる客室1室あたり年2,196ドル、運営費の約6%、10%減で客室単価0.62ドル(限られたサービス)・1.35ドル(フルサービス)と同じ効果 - OSTI・パシフィック・ノースウェスト国立研究所(英文) - ホテルの行動による省エネの定量化(2016年8月)
裏付け: 約2万5,000軒のホテル、1室あたり年平均2,196ドル、年の運営費の約6% - リョケン - 「2023年の営業状況と財務・損益状況調査」報告
裏付け: 2023年1〜12月の決算、調査期間2024年2月1〜28日、大9・中24・小23の計56軒、平均61.4室、エネルギー費(水道光熱費+燃料費)率10.3%、客1人あたり1,983円、前年を下回った