GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 5分 / 2806文字 30%の中身を確かめる型 #459

「最大30%」は、何の30%か:シンガポールの「センサーフロー」の客室の空調の自動制御を、151室のリゾートの21か月と、1部屋だけの研究で読む

シンガポールの会社「センサーフロー」は、客室の空調を、人がいるかどうかに合わせて自動で調整する仕組み「スマートREM」を売っている。製品のページには、「空調の無駄を最大30%減らす」「導入2万室以上」「計測した室泊1,000万以上」「客が1日に部屋の外にいる時間は平均11.1時間」といった数字が並ぶ。この記事では、「30%」が何に対する30%なのかを、タイのリゾートの実測と、メキシコのホテルの1部屋で行われた研究と並べて読む。

製品のページに書かれていること

スマートREMのページの主な内容は、次のとおりだ。

  • 客室の空調の無駄を最大30%減らす。よくある範囲は20〜30%
  • 導入は2万室以上、計測した室泊は1,000万以上。東南アジアと中東の稼働中の施設で計測した
  • 客室の空調のエネルギーの最大66%は無駄になっている
  • 客の54%は、部屋を出るときにカードキーを差したままにするか、空調を切らない
  • 客が1日に部屋の外にいる時間は、平均11.1時間
  • 1部屋あたり10分未満で取り付けられる。回収はふつう2〜3年

ページの下の方には、ヒルトン、ハイアット、アコー、シャングリ・ラ、アスコットのロゴが並ぶ。ただし、どのホテルで何室に入っているかは、ページには書かれていない。

「空調の30%」と「全体の15%」

「30%」は、客室の空調のエネルギーに対する割合だ。ホテル全体のエネルギーの30%ではない。

英国グリーンビルディング協会(UKGBC)の解決策の紹介ページは、スマートREMについて、ホテル全体のエネルギー費の最大15%、空調のエネルギー費の最大30%を減らせると書いている。同じ製品でも、分母を「空調」にするか「ホテル全体」にするかで、数字は倍ほど違う。

センサーフローの別のページは、客室の空調がふつうのホテルのエネルギーの約70%を占めると書いている。これも会社の説明で、ホテルの種類や気候で変わる。

151室のリゾートの21か月

センサーフローは、タイ・プーケットの「アナンタラ・バケーション・クラブ・マイカオ・プーケット」の結果を公開している。151室で、うち93室は寝室が2つあるプール付きのヴィラだ。1年中冷房が必要な気候で、空調はビル用のマルチエアコン(VRV/VRF)を使う。

  • 2024年9月から稼働し、2026年5月までの21か月の計測データを示している
  • 空調のエネルギーは平均28%減った
  • 1年に約55万2,000キロワット時、約5万4,000ドルの節約
  • 21か月で9万4,486ドルの節約、CO2は495トン減

ページは、計測した電気の量で比べたもので、節約の計算の方法はエコ認証の団体「アースチェック」が確認したとしている。1年に5万4,000ドルを21か月分にすると約9万4,500ドルで、21か月の数字と合う。

1部屋だけで量った研究

2026年10月15日には、メキシコ・コスメルの4つ星リゾートの客室1部屋で、市販のIoTの機器を使って空調を制御した研究が、学術誌「エナジーズ」に載った。センサーフローの製品ではない。

研究は、制御をしない期間と、制御をした期間を22日ずつ、合わせて44日分比べた。電気のメーターは使わず、室温や湿度から空調のエネルギーを推計した。

  • 推計した空調のエネルギーは、943.6キロワット時から657.3キロワット時へ、30.3%減った
  • ただし、95%の信頼区間は10.9〜45.6%と広い
  • 在室の時間の割合をそろえて計算し直すと、26.3%減
  • 空調の運転時間は6.8%しか減っていない。減ったのは、主に空室の時間の負荷だった

研究は、結果はこの部屋と期間に限ったもので、ほかのホテルや気候に広げてはいけない、電気のメーターで確かめる必要があると書いている。同じ「30%」でも、1部屋の推計と、151室の21か月の計測とでは、確かさが違う。

寝ている客と、湿気

客室の自動制御で気になるのは、寝ている客を「不在」と間違えないかだ。スマートREMのページは、部屋が空と判断してから省エネの動きを始めるまでに待ち時間を置き、夜はその待ち時間をさらに長くしていると説明する。

湿気についても触れている。冷やしすぎると、部屋の表面の温度が露点より下がり、湿った空気が触れて結露し、かびの原因になる。設定の幅を管理して冷やしすぎを防ぐことで、空室でも湿度と露点を安全な範囲に保つという。また、客が設定できる温度の上限と下限を決められる機能がある。

日本の宿に置き換えると

日本では、環境省が、冷房のときの室温28℃を目安にした「クールビズ」を2005年から進めている。環境省は、この28℃は「冷房の設定温度」ではないと説明している。設定を28℃にしても室温が28℃を超えることがあり、そのときは必要に応じて設定を下げることも考えられる。体調や外の気温、湿度、西日が入るかなどの建物の状況を考えながら、無理のない範囲で冷やしすぎない室温の管理を求める目安だ。

人が選ぶ設定温度は、ばらばらだ。環境省の「令和5年度家庭部門のCO2排出実態統計調査」によると、家庭のエアコンの冷房の設定温度は、28℃が29.7%で最も多く、27℃以上が約6割を占める。一方で、26℃以下の家庭も3割を超える。暖房では、半数以上の家庭が23℃以下にしている。

これは家庭の調査で、宿の客の数字ではない。それでも、設定の好みに幅があることはわかる。客の好みを尊重しながら、空室のあいだの運転を抑えることが、自動制御のねらいだ。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)

20室の宿で、夏の冷房の期間を120日とする。

  • 稼働率70%で、1日に14室が使われる
  • 客は1日に10時間部屋の外にいて、そのあいだも空調は平均0.4キロワットで動いている。1室1日4キロワット時
  • 外出中の空調を自動で抑え、その半分を減らせるとすると、1室1日2キロワット時
  • 14室×2キロワット時×120日で、3,360キロワット時。1キロワット時30円なら、10万800円

この数字は、外出の時間、空調の大きさ、地域の気温で大きく変わる。導入を考えるときは、まず数部屋で試し、電気の量を量って比べたい。センサーフローも、全館に入れる前に一部の部屋で試して、見込みどおりかを確かめると書いている。

30%の「分母」と「確かさ」

センサーフローの「最大30%」は、客室の空調のエネルギーに対する数字で、ホテル全体では最大15%とする紹介もある。プーケットの151室のリゾートでは、21か月の計測で平均28%減った。一方、メキシコの1部屋の研究の30.3%は推計で、信頼区間は10.9〜45.6%と広い。「30%」という数字を見たら、何の30%か、何室で何か月量ったのか、計測か推計かを確かめたい。

持ち帰れる知識

  • 「空調の30%」と「ホテル全体の15%」は分母が違う
  • 1部屋の推計の30.3%は、信頼区間が10.9〜45.6%と広い
  • クールビズの28℃は室温の目安で、設定温度ではない
  • 冷やしすぎは結露とかびの原因になる

宿で考えられること

  • 空調の電気の量を、ほかの電気と分けて量る
  • 数部屋で試し、導入した部屋としない部屋を比べる
  • 寝ている客を不在と間違えない仕組みかを確かめる
  • 空室のあいだの設定と、冷やしすぎの防ぎ方を決める

事業・予約への接続

客の快適さを保ちながら空室の無駄を減らすことは、客の満足と費用の両方に関わる。成果を伝えるときは、何の何%かを添える。

Sources / 参考情報

  • SensorFlow(英文) - スマートREM
    裏付け: 所在地はシンガポール、最大30%・20〜30%、2万室以上・1,000万室泊以上(東南アジアと中東)、最大66%、54%、11.1時間、10分未満、2〜3年、一部の部屋で試してから全館、待ち時間と夜の延長、露点と結露・かび、設定温度の上限と下限、ヒルトン・ハイアット・アコー・シャングリ・ラ・アスコットのロゴ、アナンタラの28%・約55万2,000キロワット時・5万4,000ドル・21か月で9万4,486ドル・495トン
  • SensorFlow(英文) - ホテルのエネルギー管理の仕組み:ホテル向けの完全ガイド
    裏付け: 客室の空調はふつうのホテルのエネルギーの約70%、アナンタラは151室・うち93室が2寝室のプールヴィラ・VRV/VRF・1年中冷房・2024年9月から稼働・2024年9月〜2026年5月のデータ、アースチェックが方法を確認
  • UKGBC(英文) - スマートルームのエネルギー管理
    裏付け: スマートREMでホテル全体のエネルギー費の最大15%、空調のエネルギー費の最大30%
  • Energies(英文) - スマートなホテルの客室の省エネの評価:IoTによる空調制御の枠組み(2026年10月15日)
    裏付け: コスメルの4つ星リゾートの1部屋、44日(22日ずつ)、電気のメーターなしで推計、943.6→657.3キロワット時・30.3%(95%信頼区間10.9〜45.6%)、在室の割合をそろえて26.3%、運転時間は6.8%減、ほかのホテルや気候に一般化しない
  • 環境省 - 「COOL BIZ」における「室温28℃(目安)」とは
    裏付け: 2005年から、室温28℃は冷房の設定温度ではない、設定28℃でも室温が超える場合は設定を下げることも、体調・外気温・湿度・西日・空調の種類などを考慮した目安
  • 環境省 - エアコンの使い方について(家庭部門のCO2排出実態統計調査)
    裏付け: 令和5年度、冷房の設定温度は28℃が29.7%・27℃以上が約6割、暖房は半数以上が23℃以下

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