GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 5分 / 2852文字 二つの事例を分ける型 #460

「一次エネルギー9.5%減、CO2 12%減」は、名古屋のホテルの数字だった:大阪「ホテルプラザ」の200キロワットと、10年後の100キロワットの燃料電池を分けて読む

大阪の「ホテルプラザ」に1989年に置かれた200キロワットの燃料電池は、総合効率80.2%を記録した事例として知られる。この事例を紹介する文章には、「一次エネルギーを9.5%、CO2を12%減らした」という数字が添えられることがある。けれども、資料をたどると、この二つの数字は、1999年に名古屋の「名古屋栄ワシントンホテルプラザ」に置かれた、別の100キロワットの燃料電池の報告にある。名前の似た二つのホテルの、10年違いの事例だ。この記事では、数字を事例ごとに分け、さらに「一次エネルギー」の数え方が日本で2023年に変わったことを考える。

大阪の200キロワット(1989〜1991年)

米国エネルギー省の文献データベース(OSTI)に収められた日本の報告の要旨によると、大阪の事例は次のとおりだ。

  • 国の「ムーンライト計画」の一つとして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託で1986年に始まった
  • 1989年7月に、リン酸形の燃料電池と、排熱を使う設備を設置し、1991年10月に試験を終えた
  • 置かれたホテルは、客室550室、契約電力2,200キロワット、冷凍機1,360冷凍トンの規模
  • 発電の定格は200キロワットで、燃料は都市ガス
  • 電気はホテルの需要の10%、排熱は熱の需要の約5%をまかなう設計

排熱の使い方に特徴がある。170℃の高い温度の排熱を蒸気として取り出し、夏は二重効用の吸収式冷温水機を動かして、36冷凍トンの冷水で客室を冷やした。70℃の低い温度の排熱は、温水として厨房と客室の給湯に使う設備が調整された。出力100%で、発電の効率36%、熱の効率44.2%、合わせて総合効率80.2%だった。窒素酸化物は4ppm、硫黄酸化物は検出できる量より少なかった。

名古屋の100キロワット(1999年)

名古屋の事例は、富士電機の技術誌「富士時報」の2000年4月10日の号に載った報告で、OSTIに要旨がある。

  • 富士電機が、東邦ガスの協力で、1999年2月に「名古屋栄ワシントンホテルプラザ」に100キロワットのリン酸形の燃料電池を置いた
  • 電気と熱を同時に使うコージェネレーションとして使う
  • 約50℃の低い温度の排熱は、温水器に入る水を前もって温めるのに使う
  • 約90℃の高い温度の排熱は、吸収式の機械による空調の熱源と、お湯の槽に使う
  • 燃料電池を入れた環境の効果は、一次エネルギーの量で9.5%減、CO2の排出量で12%減

「9.5%」と「12%」は、この名古屋の報告の数字だ。要旨には、何に対する9.5%か(ホテル全体か、置き換えた部分か)は書かれていない。

二つの事例の違い

二つを並べると、次のようになる。

  • 時期:大阪は1989〜1991年の国の実証試験、名古屋は1999年の設置
  • 大きさ:大阪は200キロワット、名古屋は100キロワット
  • 排熱の温度:大阪は170℃の蒸気と70℃の温水、名古屋は約90℃と約50℃
  • 報告された数字:大阪は効率(36%、44.2%、80.2%)、名古屋は削減の割合(9.5%、12%)

効率と削減の割合は、別の物差しだ。総合効率80.2%は、燃料のエネルギーのうち、電気と熱として取り出せた割合を示す。一方、一次エネルギーの削減の割合は、燃料電池を入れない場合(電気を電力会社から買い、熱をボイラーでつくる場合)と比べて、どれだけ減ったかを示す。比べる相手の電気が、どれだけの燃料からつくられているとみなすかで、削減の割合は変わる。

大阪の事例は#307で、熱の使い道から詳しく読んだ。ここでは、比べる相手の数え方に注目する。

日本の宿に置き換えると

日本では、電気の「一次エネルギー」の数え方が、2023年4月に変わった。

資源エネルギー庁の「省エネ・非化石転換法の手引き(工場・事業場編)」によると、令和5年4月から、法律が対象とするエネルギーに非化石エネルギーが加わった。あわせて、電力会社から買う電気の一次エネルギー換算係数が、1キロワット時あたり9.76メガジュールから8.64メガジュールに見直された。手引きは、電気を多く使う業界(業務部門など)では、この見直しで、特定事業者になる事業者の数が減ることを図で示している。

国土交通省の審議会の資料は、見直しの中身を説明している。9.76は火力発電の平均から出した係数で、8.64は原子力や再生可能エネルギーも含めた全電源の平均(直近3年間の平均)だ。同じ1キロワット時の電気でも、一次エネルギーとしては約0.89倍(8.64÷9.76)に数えられる。

ただし、建物の省エネ基準を定める建築物省エネ法では、2025年4月に省エネ基準への適合の全面義務化を控えていたことから、混乱を避けるため、現行の換算係数で全面義務化を施行する方針が示されていた。法律によって、使う係数が違うことがある。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)

燃料電池に都市ガスを1年に1,000ギガジュール入れるとする。効率は大阪の事例に近い値を仮定し、発電36%、熱44%とする。

  • 電気:360ギガジュール。1キロワット時は3.6メガジュールなので、10万キロワット時
  • 熱:440ギガジュール。ボイラー(効率88%)なら、500ギガジュールのガスが要る量

燃料電池がない場合と比べる。

  • 係数9.76:買う電気10万キロワット時は976ギガジュール。ボイラーと合わせて1,476ギガジュール。燃料電池の1,000との差は476ギガジュールで、約32.2%減
  • 係数8.64:買う電気は864ギガジュール。合わせて1,364ギガジュール。差は364ギガジュールで、約26.7%減

熱の半分しか使えないと、ボイラーで置き換わるのは250ギガジュールになる。

  • 係数9.76:1,226との差は226ギガジュールで、約18.4%減
  • 係数8.64:1,114との差は114ギガジュールで、約10.2%減

同じ機械、同じ運転でも、比べる相手の電気の数え方と、熱の使い方で、削減の割合は大きく変わる。また、これは燃料電池が受け持つ部分だけの計算だ。大阪のように電気の10%、熱の5%しか受け持たなければ、ホテル全体に対する割合はずっと小さくなる。

数字の持ち主と、比べる相手

大阪のホテルプラザの200キロワットが残したのは、総合効率80.2%という効率の数字だ。一次エネルギー9.5%減、CO2 12%減は、10年後に名古屋栄ワシントンホテルプラザに置かれた100キロワットの報告の数字だった。そして、削減の割合は、比べる相手の電気をどう数えるかで変わる。日本では2023年4月に、その係数が9.76から8.64になった。古い事例の削減の割合を読むときは、どのホテルの数字か、そして当時の数え方は何だったかを確かめたい。

持ち帰れる知識

  • 総合効率と、一次エネルギーの削減の割合は、別の物差し
  • 削減の割合は、比べる相手(買う電気とボイラー)の数え方で変わる
  • 省エネ法の電気の換算係数は、2023年4月に9.76から8.64へ
  • 建築物省エネ法では、当面、現行の係数を使う方針が示されていた

宿で考えられること

  • コージェネレーションの提案は、どの換算係数で計算したかを確かめる
  • 熱を一年中使い切れるかを、季節ごとに確かめる
  • ホテル全体に対する割合か、置き換えた部分に対する割合かを確かめる
  • 古い事例の数字は、事例の名前と年を確かめてから使う

事業・予約への接続

燃料電池やコージェネレーションの環境の効果を客や取引先に伝えるときは、どの数え方での削減かを添えると、数字が独り歩きしにくい。設備の名前だけでなく、自分の宿で量った燃料と電気の量を示したい。

Sources / 参考情報

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