「一次エネルギー9.5%減、CO2 12%減」は、名古屋のホテルの数字だった:大阪「ホテルプラザ」の200キロワットと、10年後の100キロワットの燃料電池を分けて読む
大阪の「ホテルプラザ」に1989年に置かれた200キロワットの燃料電池は、総合効率80.2%を記録した事例として知られる。この事例を紹介する文章には、「一次エネルギーを9.5%、CO2を12%減らした」という数字が添えられることがある。けれども、資料をたどると、この二つの数字は、1999年に名古屋の「名古屋栄ワシントンホテルプラザ」に置かれた、別の100キロワットの燃料電池の報告にある。名前の似た二つのホテルの、10年違いの事例だ。この記事では、数字を事例ごとに分け、さらに「一次エネルギー」の数え方が日本で2023年に変わったことを考える。
大阪の200キロワット(1989〜1991年)
米国エネルギー省の文献データベース(OSTI)に収められた日本の報告の要旨によると、大阪の事例は次のとおりだ。
- 国の「ムーンライト計画」の一つとして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託で1986年に始まった
- 1989年7月に、リン酸形の燃料電池と、排熱を使う設備を設置し、1991年10月に試験を終えた
- 置かれたホテルは、客室550室、契約電力2,200キロワット、冷凍機1,360冷凍トンの規模
- 発電の定格は200キロワットで、燃料は都市ガス
- 電気はホテルの需要の10%、排熱は熱の需要の約5%をまかなう設計
排熱の使い方に特徴がある。170℃の高い温度の排熱を蒸気として取り出し、夏は二重効用の吸収式冷温水機を動かして、36冷凍トンの冷水で客室を冷やした。70℃の低い温度の排熱は、温水として厨房と客室の給湯に使う設備が調整された。出力100%で、発電の効率36%、熱の効率44.2%、合わせて総合効率80.2%だった。窒素酸化物は4ppm、硫黄酸化物は検出できる量より少なかった。
名古屋の100キロワット(1999年)
名古屋の事例は、富士電機の技術誌「富士時報」の2000年4月10日の号に載った報告で、OSTIに要旨がある。
- 富士電機が、東邦ガスの協力で、1999年2月に「名古屋栄ワシントンホテルプラザ」に100キロワットのリン酸形の燃料電池を置いた
- 電気と熱を同時に使うコージェネレーションとして使う
- 約50℃の低い温度の排熱は、温水器に入る水を前もって温めるのに使う
- 約90℃の高い温度の排熱は、吸収式の機械による空調の熱源と、お湯の槽に使う
- 燃料電池を入れた環境の効果は、一次エネルギーの量で9.5%減、CO2の排出量で12%減
「9.5%」と「12%」は、この名古屋の報告の数字だ。要旨には、何に対する9.5%か(ホテル全体か、置き換えた部分か)は書かれていない。
二つの事例の違い
二つを並べると、次のようになる。
- 時期:大阪は1989〜1991年の国の実証試験、名古屋は1999年の設置
- 大きさ:大阪は200キロワット、名古屋は100キロワット
- 排熱の温度:大阪は170℃の蒸気と70℃の温水、名古屋は約90℃と約50℃
- 報告された数字:大阪は効率(36%、44.2%、80.2%)、名古屋は削減の割合(9.5%、12%)
効率と削減の割合は、別の物差しだ。総合効率80.2%は、燃料のエネルギーのうち、電気と熱として取り出せた割合を示す。一方、一次エネルギーの削減の割合は、燃料電池を入れない場合(電気を電力会社から買い、熱をボイラーでつくる場合)と比べて、どれだけ減ったかを示す。比べる相手の電気が、どれだけの燃料からつくられているとみなすかで、削減の割合は変わる。
大阪の事例は#307で、熱の使い道から詳しく読んだ。ここでは、比べる相手の数え方に注目する。
日本の宿に置き換えると
日本では、電気の「一次エネルギー」の数え方が、2023年4月に変わった。
資源エネルギー庁の「省エネ・非化石転換法の手引き(工場・事業場編)」によると、令和5年4月から、法律が対象とするエネルギーに非化石エネルギーが加わった。あわせて、電力会社から買う電気の一次エネルギー換算係数が、1キロワット時あたり9.76メガジュールから8.64メガジュールに見直された。手引きは、電気を多く使う業界(業務部門など)では、この見直しで、特定事業者になる事業者の数が減ることを図で示している。
国土交通省の審議会の資料は、見直しの中身を説明している。9.76は火力発電の平均から出した係数で、8.64は原子力や再生可能エネルギーも含めた全電源の平均(直近3年間の平均)だ。同じ1キロワット時の電気でも、一次エネルギーとしては約0.89倍(8.64÷9.76)に数えられる。
ただし、建物の省エネ基準を定める建築物省エネ法では、2025年4月に省エネ基準への適合の全面義務化を控えていたことから、混乱を避けるため、現行の換算係数で全面義務化を施行する方針が示されていた。法律によって、使う係数が違うことがある。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
燃料電池に都市ガスを1年に1,000ギガジュール入れるとする。効率は大阪の事例に近い値を仮定し、発電36%、熱44%とする。
- 電気:360ギガジュール。1キロワット時は3.6メガジュールなので、10万キロワット時
- 熱:440ギガジュール。ボイラー(効率88%)なら、500ギガジュールのガスが要る量
燃料電池がない場合と比べる。
- 係数9.76:買う電気10万キロワット時は976ギガジュール。ボイラーと合わせて1,476ギガジュール。燃料電池の1,000との差は476ギガジュールで、約32.2%減
- 係数8.64:買う電気は864ギガジュール。合わせて1,364ギガジュール。差は364ギガジュールで、約26.7%減
熱の半分しか使えないと、ボイラーで置き換わるのは250ギガジュールになる。
- 係数9.76:1,226との差は226ギガジュールで、約18.4%減
- 係数8.64:1,114との差は114ギガジュールで、約10.2%減
同じ機械、同じ運転でも、比べる相手の電気の数え方と、熱の使い方で、削減の割合は大きく変わる。また、これは燃料電池が受け持つ部分だけの計算だ。大阪のように電気の10%、熱の5%しか受け持たなければ、ホテル全体に対する割合はずっと小さくなる。
数字の持ち主と、比べる相手
大阪のホテルプラザの200キロワットが残したのは、総合効率80.2%という効率の数字だ。一次エネルギー9.5%減、CO2 12%減は、10年後に名古屋栄ワシントンホテルプラザに置かれた100キロワットの報告の数字だった。そして、削減の割合は、比べる相手の電気をどう数えるかで変わる。日本では2023年4月に、その係数が9.76から8.64になった。古い事例の削減の割合を読むときは、どのホテルの数字か、そして当時の数え方は何だったかを確かめたい。
持ち帰れる知識
- 総合効率と、一次エネルギーの削減の割合は、別の物差し
- 削減の割合は、比べる相手(買う電気とボイラー)の数え方で変わる
- 省エネ法の電気の換算係数は、2023年4月に9.76から8.64へ
- 建築物省エネ法では、当面、現行の係数を使う方針が示されていた
宿で考えられること
- コージェネレーションの提案は、どの換算係数で計算したかを確かめる
- 熱を一年中使い切れるかを、季節ごとに確かめる
- ホテル全体に対する割合か、置き換えた部分に対する割合かを確かめる
- 古い事例の数字は、事例の名前と年を確かめてから使う
事業・予約への接続
燃料電池やコージェネレーションの環境の効果を客や取引先に伝えるときは、どの数え方での削減かを添えると、数字が独り歩きしにくい。設備の名前だけでなく、自分の宿で量った燃料と電気の量を示したい。
Sources / 参考情報
- OSTI(英文) - ホテルプラザにおける業務用200kW燃料電池の運転研究(2)(1991年4月24日)
裏付け: 1.5年の実証運転、電力需要の10%、170℃の飽和蒸気で二重効用吸収式の冷温水機・36冷凍トンの冷水で客室の冷房、出力100%で発電36%・熱44.2%・総合80.2% - OSTI(英文) - ムーンライト計画の業務用燃料電池の運転研究:ホテルプラザの200kWリン酸形燃料電池(1992年7月5日)
裏付け: 1986年にNEDOの委託で開始、1989年7月に燃料電池と排熱の設備を設置、1991年10月に試験終了、電力の10%・熱の約5%、客室の冷暖房と給湯 - OSTI(英文) - ホテルプラザへの導入のねらいと実績(1992年11月20日)
裏付け: 発電端の定格200kW、都市ガスが燃料、定格負荷で総合80.2%、窒素酸化物4ppm・硫黄酸化物は検出限界未満 - OSTI(英文) - リン酸形燃料電池の総合的な技術開発:業務用燃料電池の発電システム(1994年2月1日)
裏付け: 客室550室・契約電力2,200kW・冷凍機1,360冷凍トンのホテル - OSTI(英文) - リン酸形燃料電池の総合的な技術開発:業務用燃料電池の発電システムの試作と運転研究(1994年2月1日)
裏付け: 70℃の温水を厨房と客室の給湯に使う設備の調整 - OSTI(英文) - 燃料電池発電装置のホテルへの適用(富士時報 第73巻第4号)(2000年4月10日)
裏付け: 富士電機が東邦ガスの協力で1999年2月に名古屋栄ワシントンホテルプラザに100kWのリン酸形を設置、コージェネレーション、約50℃で温水器の給水を予熱、約90℃で吸収式の空調の熱源とお湯の槽、一次エネルギー9.5%減・CO2 12%減 - 資源エネルギー庁 - 省エネ・非化石転換法の手引き 工場・事業場編 令和8年度改訂版(PDF)
裏付け: 令和5年4月から非化石エネルギーが対象に、電気の一次エネルギー換算係数の見直し(9.76MJ/kWh→8.64MJ/kWh)、電力使用割合が多い業界(業務部門など)で事業者数が減る図 - 国土交通省 - 省エネ法改正に伴う対応について(審議会資料4、PDF)
裏付け: 火力平均係数9.76から全電源平均係数8.64(直近3年間の平均)への見直し方針、8.64÷9.76=0.89倍、建築物省エネ法は2025年4月の全面義務化を現行の換算係数で施行する方針