家庭のプラスチック1日195トンから、ホテルの電気へ:川崎の「水素ホテル」を、ごみと管の側から読む
神奈川県川崎市の「川崎キングスカイフロント東急REIホテル」は、使用済みのプラスチックからつくった水素で発電する「水素ホテル」として、2018年6月に開業した。この事例は、ホテルの電気の何割を水素でまかなうかという数字で語られることが多い。この記事では、反対の側から見る。水素の原料になるプラスチックはどこから来るのか。水素はどんな管を通ってホテルに届くのか。そして2026年には、福島県にも「世界初の水素ホテル」が開業した。二つの「世界初」は、何が違うのか。
事例のあらまし
環境省の「プラスチック・スマート」の事例紹介と、関係する会社の発表から、事例の骨組みをまとめる。
- 大和ハウス工業、昭和電工(現レゾナック)、東芝エネルギーシステムズ、東急ホテルズ、川崎市の取り組み
- 環境省の「平成27年地域連携・低炭素技術実証事業」を活用した
- 使用済みのプラスチックを工場でリサイクルして水素をつくり、パイプラインでホテルに送る
- ホテルでは、使うエネルギーの約30%(約100キロワットに相当)を、水素だけで発電する燃料電池(純水素型)でまかなう
レゾナックの2023年11月14日の発表によると、実証事業は2022年3月に終わった。ホテルは燃料電池の設備を新しいものに入れ替え、2023年11月1日から、レゾナックの水素を正式に使い始めた。レゾナックは、ホテルが使うエネルギーの約20%程度にあたる水素を、パイプラインで送るとしている。
ごみの側から見る:1日195トン
東芝の英文の記事(2020年7月29日)によると、昭和電工は1日に195トンの使用済みプラスチックをリサイクルしている。「川崎プラスチックリサイクル(KPR)」と呼ぶ方法で、プラスチックをアンモニアをつくる原料に使う。その途中でできる水素の一部を、ホテルに送る。
レゾナックの発表は、次のように説明している。
- 川崎事業所では、使用済みプラスチックから水素を取り出す方法を2003年から使っている
- 同社の低炭素の水素は、日本で唯一、家庭ごみから出る使用済みプラスチックを原料にしている
- 使用済みプラスチック由来の水素を燃料電池で商業施設に使うのは、国内初
英文のメディア「Zenbird」の2019年の記事によると、原料のプラスチックは、川崎市の家庭とホテルから来る。ホテルは、客室の歯ブラシやくしなどを、ほかのごみと分けて集めて送っていた。
5キロの管と、1キロの延長
水素の運び方にも特徴がある。Zenbirdの記事は、トラックを使わず、昭和電工からホテルの外にある燃料電池まで、5キロのパイプラインで直接送ると書いている。
一方、東芝の記事で、昭和電工の担当者は、ホテルをパイプラインにつなぐために、管を1キロ延ばす必要があったと話している。水素の管を引くことは新しく、役所、協力会社、町内会など、ふだん接点のない相手に説明して回り、話し合いに2年近くかかった。二つの記事の数字は、管の全体の長さと、ホテルのために延ばした長さという、別のものを指していると読める。
東芝の記事は、燃料電池の試運転で、ホテルの電気の使い方の変動が想定よりずっと大きく、その制御の工夫が必要だったことも伝えている。また、供給の流れ全体で、今のエネルギー源を使う場合よりCO2を約80%減らせるという試算を紹介している。
「200杯の浴槽」という言い換え
Zenbirdの記事は、燃料電池の能力を「1時間あたり100キロワット」とし、「200杯の浴槽の水を温めるのに相当する」と書いている。ただ、どれだけの湯を、何度温めるのか、1時間なのか1日なのかは書かれていない。キロワットは発電の大きさで、量(キロワット時)ではない。この点は#300で詳しく読み、「30%」と「20%」の違いも並べた。ここでは、浴槽の言い換えを、下のシミュレーションで確かめる。
もう一つの「世界初」
ジャパンタイムズ(時事通信)によると、2026年3月25日、福島県浪江町に、水素で動く「世界初」のホテルが開業した。
- 運営は、重機のレンタルと運送の会社「伊達重機」
- 同社の水素ステーションの隣に建てた一戸建てのホテル
- ステーションが動いているあいだは、水素をパイプラインで燃料電池、給湯器、焼き台に送り、ホテルのエネルギーを使う設備すべてをまかなう
- ステーションが止まる夜は、再生可能エネルギーでつくった外からの電気を使う
- 料金は1泊9万7,000円で、1日1組
- 伊達重機は、水素がおもなエネルギー源になった暮らしを体験できる場として、客を呼びたいとしている
川崎の事例は「使用済みプラスチック由来の水素をホテルで利用する世界初」、浪江の事例は「水素で動く世界初のホテル」として紹介されている。どちらの「世界初」も、何についての初めてかを限って読む必要がある。
日本の宿に置き換えると
川崎の水素の原料は、家庭から出るプラスチックだ。日本では、家庭から出るプラスチックの容器や包装は、容器包装リサイクル法のしくみで集められ、リサイクルされる。日本容器包装リサイクル協会の「数字で見るリサイクルのゆくえ」は、リサイクルの方法を次のように定義している。
- 材料リサイクル:異物を取り除き、洗い、砕いて、ペレットなどのプラスチックの原料を得る
- ケミカルリサイクル:油化、高炉還元剤化、コークス炉化学原料化、ガス化など
- ガス化:砕いて熱で分解し、水素と一酸化炭素を主な成分とするガスを得る
令和7年度に販売されたリサイクル製品の原材料は、合計36万1,430トンだった。
- 材料リサイクル:23万3,814トン(64.7%)
- コークス炉化学原料化:7万1,686トン(19.8%)
- ガス化:4万4,144トン(12.2%)。うち4万3,898トンが、アンモニアをつくる化学原料
- 高炉還元剤化:1万1,787トン(3.3%)
- 油化:0トン
協会は、特定事業者が費用を負担するのは、市町村が分別収集して協会に引き渡した分だと説明している。宿が出すプラスチックがどこへ行くかは、自治体や回収の契約によって変わる。川崎のホテルが客室の歯ブラシなどを工場に送っていたのは、事業として組んだ特別な流れだ。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
宿のアメニティは、どれだけの量か。 20室の宿で、稼働率が70%なら、1年の室泊は20×365×0.7で5,110室泊。歯ブラシとくしなど、回収できるプラスチックを1室泊あたり20グラムとすると、1年で約102キログラムになる。これは、昭和電工が1日にリサイクルする195トンの約0.05%だ。水素の原料の大部分は、宿のアメニティではなく、街の家庭から出るプラスチックだとわかる。
「200杯の浴槽」は、どれだけの熱か。 浴槽1杯を200リットル、温める幅を25℃とする。水1リットルを1℃上げるのに約4.2キロジュール要るので、1杯に約2万1,000キロジュール、約5.8キロワット時。
- 100キロワット時で温められるのは、約17杯
- 100キロワットで24時間なら2,400キロワット時で、約410杯
どちらの読み方でも200杯にはならない。前提が書かれていない言い換えは、そのまま使わず、自分で前提を置いて確かめたい。
ごみの量、管の長さ、「世界初」の定義
川崎の水素ホテルの数字は、ホテルの側から見ると「エネルギーの約30%」「約20%程度」になる。ごみの側から見ると、工場が1日に扱う195トンのプラスチックのごく一部が、管を通ってホテルに届いている。その管のために、1キロの延長と2年近い話し合いが要った。そして「世界初」は、何についての初めてかを添えて読むと、川崎と浪江の両方を正しく伝えられる。
持ち帰れる知識
- 水素の原料は、主に川崎市の家庭から出る使用済みプラスチック
- 5キロ(管の全体)と1キロ(ホテルのための延長)は、別の長さと読める
- 「世界初」は、何についての初めてかを確かめる
- 容器包装プラスチックのリサイクルは、材料リサイクルが64.7%、ガス化が12.2%(令和7年度)
宿で考えられること
- 宿のプラスチックが、どこでどの方法でリサイクルされているかを、自治体や回収業者に聞く
- アメニティの回収は、量よりも、客に流れを伝える機会として考える
- 「浴槽何杯分」などの言い換えは、前提を置いて計算し直す
- 設備の紹介には、何年のどの数字かを添える
事業・予約への接続
客室の歯ブラシがどこへ行くかは、客にとって身近な話題だ。数字を大きく見せるより、宿から出たものがどの工場でどう使われるかを、確かめた範囲で伝えたい。
Sources / 参考情報
- 環境省 プラスチック・スマート - 世界初!使用済みプラスチック由来の低炭素水素を用いた水素ホテル
裏付け: 大和ハウス工業・昭和電工・東芝エネルギーシステムズ・東急ホテルズ・川崎市、平成27年地域連携・低炭素技術実証事業、使用済みプラスチック由来の水素をホテルで利用する世界初、パイプラインで供給、使用エネルギーの約30%(約100kWに相当) - レゾナック - ホテルの燃料電池向けに低炭素水素の正式供給を開始(2023年11月14日)
裏付け: 2023年11月1日から正式供給、国内初、日本で唯一家庭ゴミの使用済みプラスチックが原料、2018年6月から供給、2015年開始の実証事業・2022年3月終了、燃料電池の入れ替え、エネルギーの約20%程度、2003年からの製法 - Toshiba Asia(英文) - 世界初の「水素ホテル」へようこそ:廃プラスチックのリサイクルからのエネルギー(2020年7月29日)
裏付け: 2018年6月1日開業、1日195トンの廃プラスチックをリサイクル、KPR・アンモニアの原料、管を1キロ延長、話し合いに約2年、電力負荷の変動が想定より大きい、CO2約80%減の試算 - Zenbird(英文) - 廃プラスチック由来の水素エネルギーで動く世界初のホテル(2019年10月1日)
裏付け: 原料は川崎市の家庭とホテル、歯ブラシやくしの回収、5kmのパイプライン、1時間あたり100kW・浴槽200杯相当、電気の約30% - The Japan Times(英文、時事通信) - 世界初の水素ホテルが福島県に開業(2026年3月26日)
裏付け: 浪江町、伊達重機、水素ステーションの隣の一戸建て、燃料電池・給湯器・焼き台にパイプラインで供給、夜は再エネ由来の外部電力、1泊9万7,000円・1日1組 - 日本容器包装リサイクル協会 - 数字で見るリサイクルのゆくえ プラスチック製容器包装
裏付け: 再商品化手法の定義(ガス化は水素と一酸化炭素が主成分のガス)、令和7年度の販売量(合計36万1,430トン、材料23万3,814トン・64.7%、コークス炉7万1,686トン・19.8%、ガス化4万4,144トン・12.2%、高炉1万1,787トン・3.3%、油化0)、アンモニア原料4万3,898トン、費用負担は市町村が分別収集し協会に引き渡した分