地下の電池に、何を求めたか:ボーデン湖畔の18室のホテルが、太陽光と蓄電池を選んだ条件
ドイツ南部、ボーデン湖の北岸にある18室のホテルが、屋根に太陽光を載せ、地下に蓄電池を置いた。ガスの小さな発電機で暖房をしながら、余った電気を安く売っていたホテルだ。蓄電池をつくるドイツの会社テスヴォルト(TESVOLT)が、この事例を公開している。この記事では、ホテルが蓄電池に求めた条件を手がかりに、「電池の値段は、1キロワット時あたりいくらで比べるか」を考え、日本の業務用蓄電池の価格の資料につなげる。
湖畔の町の、18室のホテル
テスヴォルトの事例によると、ホテルはメーアスブルクにある「スポーツホテル・シェーンブリック」だ。
- メーアスブルクは、ボーデン湖の北岸、フリードリヒスハーフェンとユーバーリンゲンの間にある町
- 行楽シーズンには約100万人の日帰り客が訪れ、宿泊客はシーズンあたり25万人
- ホテルは18室で、ジムとスパ(サウナ、ジャクジー)、温水の屋外プール、広いテラスがある
- 電気自動車の客は、テスラの目的地充電器を使える
経営者のアルフレート・ネーベル氏は、年に数千人の客を迎える。事例は、どのホテルでもそうであるように、電気の使用量は稼働に強く結びつくと書いている。サウナ、照明、家電、空調、ヘアドライヤー、日焼けマシンなどが客のために動くため、使用量は大きく変わり、平均で年6万キロワット時だという。
余った電気を、安く売っていた
ホテルは暖房費を抑えるため、ガスで動く熱電併給の設備(コージェネレーション)を持っている。発電しながら、その熱で暖房をし、屋外プールも温める。
ところが、この設備がつくった電気のうち、使い切れない分は電力網に流すしかなかった。事例によると、その売値は、電気を買う値段より「桁違いに」安かった。そこでネーベル氏は、太陽光と蓄電池を組み合わせ、より多くの電気を自分でつくり、その多くを自分で使いたいと考えた。
電池に求めた三つの条件
事例は、ホテルが蓄電池に求めた条件を、次のように挙げている。
- 力があり、放電の深さ(電池の中身をどこまで使い切れるか)が大きいこと
- 保証されるサイクル数(満充電と放電を繰り返せる回数)が多く、長く使える投資であること
- 保守の手間が少なく、熱電併給の設備や太陽光と組み合わせて確実に動くこと
この三つは、どれも「電池を何年、何回使えるか」に関わっている。電池の値段を、ためられる量(キロワット時)だけで比べると、この視点が抜け落ちる。
屋根に60キロワット、地下に38.4キロワット時
工事は、ボーデン湖のライヒェナウ島にある太陽光の施工会社、RMソーラーが担った。
- 角度のついたホテルの屋根に、30キロワットの太陽光を2組載せた
- 地下に、テスヴォルトの蓄電池「TS 48 V」を置いた。ためられる量は38.4キロワット時、放電の力は18キロワット
- 電池は、サムスンSDIのリチウムイオン電池(NMC、角形)。蓄電池用のインバーターはSMAの「Sunny Island」
- これで、熱電併給の設備の運転を最適にし、日が照っていないときにも太陽光の電気を使えるようになった
事例の資料の表は、この電池のサイクル数を「6,000〜8,000回」としている。条件は、放電の深さ100%、温度23℃前後、充電と放電の速さ0.5Cから1C(1Cは1時間で満充電または空にする速さ)だ。テスヴォルトは、この電池の寿命を最長30年としている。
製品ページを見ると、数字の意味がもう少しはっきりする。
- サイクル数は、容量が初めの70%に下がるまで(70% EoL)の回数で、1C/1Cで6,000回、0.5C/0.5Cで8,000回
- 保証は、電池の性能が10年、システムが5年
- 製品ページは「30年または8,000回」の寿命を設計の目安としている
つまり「最長30年」は設計の目安で、保証の年数とは別だ。電池を比べるときは、寿命の目安と保証を分けて読みたい。
38.4キロワット時を18キロワットで出し切ると、約2.1時間かかる。資料は、テスヴォルトの電池は適切な構成なら1Cで使えると書いているが、このホテルの組み合わせは、それより穏やかな速さで使う設計と読める。
ネーベル氏は、事例の中で「電気の請求書を受け取らないことが目標だった」と話している。テスヴォルトは、利点として、太陽光と蓄電池で年に数千ユーロの節約になることを挙げている。ただし、節約額の内訳は示されていない。
日本の宿に置き換えると
日本では、経済産業省の検討会が、定置用の蓄電池の価格を毎年整理している。2025年3月7日の「2024年度定置用蓄電システム普及拡大検討会の結果とりまとめ」は、業務・産業用の蓄電池について、次のように書いている。
- 補助事業のデータから推計した2023年度の設備費は、平均で1キロワット時あたり9.2万円。うち電池の部分が7.1万円
- 電池の部分は2022年度の推計より大きく上がり、資源価格の高騰と円安の影響が見られる。ただし推計の対象は11件と限られる
- 補助事業を使わない場合、実勢の価格が1キロワット時あたり20万円程度になる例もあると、事業者への聞き取りでわかった
- 容量が大きいほど1キロワット時あたりの価格は下がり、100キロワット時未満と1,000キロワット時以上では倍近い差がある
- 導入の目的は、ピークの電気を抑えることと、太陽光の自家消費を増やすことが多い。非常用の電源や、需給調整の市場で使う例もある
- 所轄の消防によって消防法への対応が異なり、消火や防火の設備で費用が高くなる場合がある
国の目標価格もある。2022年8月の「蓄電池産業戦略」は、業務・産業用の蓄電池を、2030年度に1キロワット時あたり6万円(工事費込み)とする目標を挙げている。
小さな宿が入れる電池は、たいてい100キロワット時未満だ。つまり、平均より割高な区分に入りやすい。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
ある宿が、38.4キロワット時の蓄電池を、1キロワット時9.2万円で入れるとする。設備費は約353万円になる(工事費は含めない)。
この電池の値段を「ためた電気1キロワット時あたり」で考えてみる。
- 6,000回、毎回38.4キロワット時を出し入れできれば、合計230,400キロワット時。353万円を割ると、1キロワット時あたり約15円
- 電池は使ううちに容量が減る。70%まで一様に減るとみて、平均85%の容量と仮定すると、合計約19.6万キロワット時で、約18円
- 1日1回使うと、6,000回は約16年になる
次に、ためた電気の価値を考える。太陽光の余った電気を1キロワット時8円で売る代わりに電池にため、出し入れの損失を1割として夜に0.9キロワット時使い、1キロワット時30円で買う電気を減らすとする。
- 減らせる買電は27円、あきらめる売電は8円で、差は1キロワット時あたり19円
- 電池の値段(約15〜18円)と、ためた電気の価値(約19円)は近い。工事費を足すと、電池の値段のほうが上回りうる
- 目標価格の6万円なら、設備費は約230万円で、1キロワット時あたり約10〜12円まで下がる
電池が元を取れるかどうかは、1キロワット時あたりの値段だけでなく、何回使えるか、毎日きちんと使い切れるかで決まる。
電池は「回数」で買う
シェーンブリックが電池に求めたのは、放電の深さ、保証されるサイクル数、確実な運転だった。どれも、電池を長く、たくさん使うための条件だ。日本の宿が蓄電池を考えるときも、価格表の「1キロワット時あたり何万円」だけでなく、保証の回数と年数、毎日の使い方を並べて、ためた電気1キロワット時あたりの値段に直してみたい。
持ち帰れる知識
- 蓄電池に求める条件は、放電の深さ、保証されるサイクル数、確実な運転
- 電池の値段は、ためた電気1キロワット時あたりに直すと比べやすい
- 日本の業務・産業用蓄電池の設備費は、2023年度の補助事業の平均で1キロワット時9.2万円(11件の推計)
- 国の目標は、2030年度に1キロワット時6万円(工事費込み)
宿で考えられること
- 見積もりを、保証の回数と年数で割って、1キロワット時あたりの値段に直す
- 太陽光の余った電気が、1年にどれだけあるかを先に確かめる
- 消防への対応と設置場所の条件を、早めに確認する
- 熱をつくる設備(給湯や暖房)と電池の役割を分けて考える
事業・予約への接続
自分でつくった電気を、夜にも使う宿は、客に伝えやすい。ただし、節約額や自給の割合を伝えるときは、測った値と、見込みの値を分けて書きたい。
Sources / 参考情報
- TESVOLT(英文) - 蓄電池が、宿泊施設の電気の使い方を最適にする
裏付け: メーアスブルクの位置、日帰り客約100万人・宿泊客25万人(シーズンあたり)、18室・ジム・スパ・温水の屋外プール・テスラの目的地充電器、年に数千人の客、使用量は稼働に結びつき平均6万kWh/年、ガスの熱電併給の設備の余剰電力を桁違いに安く売電、三つの条件、RMソーラー(ライヒェナウ島)、30kWp×2、TS 48 V・38.4kWh・18kW、年に数千ユーロの節約、寿命最長30年、1C対応、ネーベル氏の言葉 - TESVOLT(英文) - 事例の資料:自家消費の最適化、スポーツホテル(PDF)
裏付け: 表(TS 48 V、38.4kWh、18kW、サムスンSDIのNMC角形セル、効率最大98%、サイクル6,000〜8,000回・0.5C〜1C・23℃±5℃・放電の深さ100%、運転温度−10〜50℃、SMA Sunny Island、RMソーラー) - 経済産業省 - 2024年度定置用蓄電システム普及拡大検討会の結果とりまとめ(PDF)(2025年3月7日)
裏付け: 業務・産業用の2023年度設備費9.2万円/kWh(電池部分7.1万円/kWh)、資源価格の高騰と円安、推計対象11件、補助事業以外で20万円/kWh程度の例、100kWh未満と1,000kWh以上で倍近い差、ピークカット・PV自家消費・非常用・需給調整市場、所轄消防による消防法対応の違い - 蓄電池産業戦略検討官民協議会(経済産業省) - 蓄電池産業戦略(PDF)(2022年8月31日)
裏付け: 業務・産業用蓄電システム2030年度に6万円/kWh(工事費込み)、家庭用7万円/kWh - TESVOLT(英文) - 製品ページ:TS 48 V
裏付け: 30年または8,000回、サイクル数は放電の深さ100%・70% EoL・23℃±5℃で1C/1C 6,000回・0.5C/0.5C 8,000回、保証は性能10年・システム5年、IEC 62619