「215キロワット時」と「100キロワット時」が並ぶ事例:中国の蓄電池メーカーが紹介した20室のホテルを、日本の停電の統計と読む
中国の蓄電池メーカー、PKNERGYのウェブサイトに、20室のホテルに蓄電池を入れた事例が載っている。電気代は20%減り、停電のときも空調や照明が止まらなかったという。ただ、ホテルの名前も町の名前も書かれておらず、同じ段落に「215キロワット時」と「100キロワット時」という二つの容量が並んでいる。この記事では、名前のない事例から何を読み取れるかを整理し、日本の停電の統計につなげる。
事例に書かれていること
PKNERGYの宿泊施設向けのページ(2025年1月公開、5月更新)は、事例を次のように紹介している。
- 客室は20室。電気の値段が大きく変わる町にあり、主な客は観光客と出張客
- 夕方や休日は、空調、給湯、照明の使用が重なり、電気代が高くなる
- ときどき電力網が揺れ、短い停電が起き、客の滞在に影響していた
- そこで、電気の使い方を最適にし、客の満足を高めるため、蓄電池を入れることにした
二つの容量
同じページの「解決策」の欄には、次のように書かれている。
- 見出しは「215キロワット時の蓄電システム」
- 電池の容量は「100キロワット時のリン酸鉄リチウム電池」
- インバーターは「30キロワットの系統連系型」
- 支える負荷は、空調、客室の照明、給湯、エレベーター、フロントのネットワーク機器
見出しと本文で、容量が倍以上違う。どちらが正しいのか、ページからは判断できない。この記事では、どちらかに決めず、両方の場合を考える。
結果として書かれていること
ページは、結果を次のようにまとめている。
- 蓄電池で、ホテルのエネルギー費が20%減った
- 電力網の揺れや短い停電のときは、蓄電池がすぐに引き継ぎ、空調、給湯、共用部の照明が止まらなかった
- 客の体験が途切れず、悪い口コミの心配が減った
- 環境に配慮した運営を宣伝し、持続可能性を重視する客を引きつけた
20%が何年の、どの電気代と比べた数字か、測った値か見込みかは、書かれていない。
名前のない事例から読み取れること
ホテルの名前、町、時期、比べた期間がわからない事例は、数字をそのまま他の宿に当てはめることができない。一方で、構成から読み取れることはある。
- インバーターが30キロワットなら、電池が何キロワット時であっても、一度に出せる電気は30キロワットまで
- エレベーターや空調を同時に動かすと、30キロワットを超える場面がありうる。停電のときは、どの機器を優先するかを決めておく必要がある
- ページの別の欄も、エネルギー管理の装置で、エレベーター、冷蔵、ネットワーク機器などの重要な機器を優先すると書いている
- 「夕方のピークに放電する」使い方と、「停電に備えて残しておく」使い方は、同じ電池の中で取り合いになる
「ためる電気」にも値段がある
PKNERGYは、100キロワット時の屋外用の蓄電池の製品ページで、効果を次のように説明している。
- リン酸鉄リチウム電池で、設計上の寿命は最長15年
- 電気が1キロワット時0.3ドルなら、1日1回使い切ると、1か月に約1,000ドルの電気代を減らせる
- 理論上は1日3回の充電と放電ができ、実際の結果は充電の力と地域の料金のルールによる
100キロワット時×0.3ドル×30日は900ドルで、「約1,000ドル」はこれを丸めた数字と読める。ただしこの計算は、電池にためる電気をどこから、いくらで買うかを含んでいない。夜の安い電気でためるなら、その分の電気代がかかり、節約になるのは昼と夜の料金の差だけだ。太陽光の余った電気でためるなら、売れば得られたはずの収入をあきらめることになる。蓄電池の節約額を見るときは、「ためる電気の値段」が引かれているかを確かめたい。
日本の宿に置き換えると
日本で、蓄電池を停電の備えとして考えるとき、まず知っておきたいのが、ふだんの停電の頻度だ。電力広域的運営推進機関の「電気の質に関する報告書(2024年度実績)」(2025年12月)は、低圧の家庭などの停電を次のように整理している。
- 2024年度の全国の1軒あたりの年間停電回数は0.13回、年間停電時間は24分
- 2020〜2024年度の5年間の平均は、0.15回、25分
- 2024年度は、2024年8月の台風第10号の被害などで、九州の停電時間が前年度より79分増えた
- 前年度に被害の大きかった沖縄は1,231分、北陸は290分、停電時間が減った
その前年度の報告書(2023年度実績)を見ると、災害の影響の大きさがわかる。
- 2023年度の全国の年間停電時間は36分で、前年度より11分増えた。報告書は、主に自然災害によると書いている
- 2024年1月の能登半島地震で、北陸の停電時間は26分から510分に増えた
- 2023年8月の台風第6号で、沖縄の停電時間は61分から1,278分に増えた
つまり、平均で見ると日本の停電はとても少ない。しかし、災害の年には、地域によって停電が何十倍にも長くなる。
経済産業省の検討会の2025年3月のとりまとめも、業務・産業用の蓄電池は、ピークの電気を抑えることや太陽光の自家消費を増やすことを目的に入れる例が多く、非常用の電源として使う例もあると整理している。停電の備えは、主な目的というより、ふだんの使い方に重ねる役割になりやすい。
もう一つ、統計の定義にも注意したい。報告書の「事故停電」は、落雷などで切り離された電線が、一定の時間をおいて自動的に再びつながった場合(再閉路)を除いている。PKNERGYの事例が書く「短い停電」のようなものは、日本の年間停電時間の数字には表れにくい。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
ある宿が、事例と同じく30キロワットのインバーターと蓄電池を入れるとする。電池の9割を使えると仮定する。
- 100キロワット時の場合:使えるのは90キロワット時。30キロワットで出し続けると3時間、重要な機器だけの10キロワットなら9時間
- 215キロワット時の場合:使えるのは193.5キロワット時。30キロワットなら約6.5時間、10キロワットなら約19時間
ふだんは夕方のピークに使い、1日80キロワット時を、安い時間帯から高い時間帯へ移すとする。料金の差が1キロワット時あたり10円なら、1年で約29万円になる。
ただし、80キロワット時を毎日使い切ると、100キロワット時の電池では、停電の備えとして残る量は少ない。たとえば夕方の放電を半分にして、残りを備えに回すと、ピークの節約も半分になる。
- 平均の停電は年24分。ふだんの節約を優先する考え方がある
- 台風や地震の多い地域なら、災害の季節だけ残量を多めに保つ考え方もある
どちらを優先するかは、宿のある地域と、止まると困る機器で変わる。
「何を、何時間支えるか」から決める
PKNERGYの事例は、名前のない事例であり、容量の表記にも食い違いがある。それでも、30キロワットのインバーター、支える機器の一覧、優先する機器の考え方は、蓄電池を考える宿の参考になる。日本の宿が蓄電池を入れるときは、電気代の削減率よりも先に、「止めたくない機器は何か、何キロワットで、何時間か」を書き出してみたい。
持ち帰れる知識
- 一度に出せる電気は、電池の容量ではなく、インバーターの出力で決まる
- ピークに使う電気と、停電に備える電気は、同じ電池の中で取り合いになる
- 蓄電池の節約額は、ためる電気の値段を引いて考える
- 日本の停電は、2024年度に1軒あたり年0.13回、24分
- 自動的に再びつながった短い停電は、日本の停電の統計に含まれない
宿で考えられること
- 止めたくない機器と、その電力(キロワット)を一覧にする
- 停電のときに何時間支えたいかを決め、必要な容量を逆算する
- 災害の季節だけ残量を多めに保つ運用を検討する
- 事例の数字は、名前、時期、比較の条件がわかるものを使う
事業・予約への接続
停電に強い宿であることは、客の安心につながる。伝えるときは、「何を、何時間」支えられるかを具体的に書くと、誤解が生まれにくい。
Sources / 参考情報
- PKNERGY(英文) - ホテルのエネルギーの解決策(2025年1月22日公開、2025年5月7日更新)
裏付け: 20室、電気の値段が大きく変わる町、観光客と出張客、夕方と休日のピーク、短い停電、215kWhの見出し、100kWhのLiFePO4、30kWの系統連系型インバーター、支える負荷、エネルギー費20%減、停電時の引き継ぎ、口コミ、環境配慮の宣伝、EMSで重要な機器を優先 - PKNERGY(英文) - 屋外用の100キロワット時のリン酸鉄リチウム電池(空冷)
裏付け: 設計寿命最長15年、0.3ドル/kWhで1日1回の完全放電なら月約1,000ドルの節約、理論上1日3回の充放電、実際の結果は充電の力と地域の料金のルールによる - 電力広域的運営推進機関 - 電気の質に関する報告書 2024年度実績(PDF)(2025年12月)
裏付け: 2024年度の全国の年間停電回数0.13回・停電時間24分、5か年平均0.15回・25分、九州で台風第10号により79分増、沖縄1,231分・北陸290分の減少、事故停電の定義(再閉路で解消した場合を除く)、再閉路の説明 - 電力広域的運営推進機関 - 電気の質に関する報告書 2023年度実績(PDF)(2025年11月13日一部訂正)
裏付け: 2023年度の全国の年間停電回数0.15回・停電時間36分(前年度より11分増、主に自然災害)、能登半島地震で北陸26分→510分、台風第6号で沖縄61分→1,278分 - 経済産業省 - 2024年度定置用蓄電システム普及拡大検討会の結果とりまとめ(PDF)(2025年3月7日)
裏付け: 業務・産業用の蓄電池の導入目的はピークカットとPV自家消費が多く、非常用のバックアップ電源として使う例もあること