「2時間無料」と「客ごとの請求」:カリフォルニアの二つの歴史あるホテルの充電器を、日本の「kWh課金」から読む
ホテルの充電器で、客から料金をとるなら、何を単位にするか。時間か、充電した電気の量か。カリフォルニアの二つの歴史あるホテル、サンディエゴ近くの「ホテル・デル・コロナド」と、ロサンゼルスの「ミレニアム・ビルトモア」は、クラウドで管理する充電器を入れ、料金の設定や客ごとの請求ができるようにした。この記事では、二つの事例を「料金の単位」から読み直し、日本で始まった充電した電気の量に応じた料金(kWh課金)のしくみにつなげる。
コロナド:見えなかった請求を、見えるように
充電の工事会社EMCの事例(2023年4月)によると、ホテル・デル・コロナドは、サンディエゴ湾を望む浜辺のリゾートで、歴史的建造物でもある。
- 早くから充電器を置いていたが、最初の充電器はネットワークにつながっておらず、別の会社が所有し運営していた
- 関係者はすぐに、客の利用と請求をよく見渡せる、監視と報告の機能と、将来の拡張が必要だと考えた
- 電気の設備は、ネットワークにつながる普通充電器(レベル2)を最大23基まで置けるよう、すでに強化していた
- そこで、11基をすぐに加え、需要に合わせて最大12基を足せるようにした
EMCは、監視と報告の機能、見た目、客の人気から選んだ壁かけ型の1口の充電器11基の設置をまとめた。事前に電気の設備と無線の電波を調べ、既存の配線の誤りを見つけてやり直した。組み立てと配線は1日で終えた。
結果として、ホテルは、エネルギーの使用量、温室効果ガスの排出量、客への請求などを記録するクラウドの管理画面を持った。EMCは、将来の機能として、充電が終わったあとも車を置き続ける客への料金(オーバーステイの請求)や、会員プログラム、建物の管理のしくみとの連携を挙げている。
ビルトモア:「2時間無料」から始めた
ミレニアム・ビルトモアは1923年に開業し、1969年にロサンゼルス市の歴史文化記念物に指定された、683室のホテルだ。充電器の会社ヌードゥー(Noodoe)は、2019年11月19日の発表で、ここに充電器「S1000」を10基設置したと伝えた。
- ホテルは、2019年12月31日まで「2時間無料」の特典を設けた
- 総支配人のジミー・ウー氏は、充電器を、多くの客に必要な設備であり、時とともに求められる流れになると述べた
- ヌードゥーの充電器は、クラウドのOSで動き、クレジットカードやスマートフォンで支払える
- 管理者は、料金を設定し、混む時間帯を変え、充電を見守ることができる
発表は、充電器の数と特典は伝えているが、何を単位に料金をとるかは書いていない。
二つの事例の重なり
この二つのホテルは、この連載で以前にも取り上げた(#248、#268、#313、#404)。元の記事は、ビルトモアについて「充電器を入れて6か月で、EVの客からの収入が15%、直接予約が27%、付帯の支出が12%増えた」と書いていた。しかし、#248で確かめたとおり、この数字はヌードゥーの2019年の発表には書かれていない。別のサイトが出どころとして挙げる「ヌードゥーの2023年の報告」も見つからず、確認できなかった。元の記事が挙げたマリオットの「500軒超」と評価の点数も、一次資料を確認できなかった。この記事では、どちらも使わない。
二つの事例に共通して確かめられるのは、「料金を設定できる」「客ごとに請求を記録できる」という管理の機能だ。
時間で区切るか、量で測るか
充電の料金には、大きく二つの単位がある。
- 時間で区切る:「2時間無料」「1時間いくら」。わかりやすいが、同じ1時間でも、車によって入る電気の量が違う
- 量で測る:充電した電気の量(キロワット時)に応じて払う。使った分だけ払うので、納得されやすい
さらにホテルでは、もう一つの問題がある。夜に充電を始めた車が、充電を終えたあとも朝まで場所をふさぐことだ。コロナドの事例が将来の機能として挙げた「オーバーステイの請求」は、この問題への答えの一つだ。
日本の宿に置き換えると
日本では長く、充電の料金は時間で区切るのが一般的だった。経済産業省の充電インフラ整備促進に関する検討会の資料(2023年6月23日)は、その理由と変化を次のように説明している。
- これまで、計量法では、キロワット時あたりの料金で取引をするには、計量法に基づく検定に合格した計量器で測る必要があった
- 2020年の電気事業法の改正で「特定計量制度」が設けられ、2022年4月1日に施行された。一定のルールの下で、充電器などの機器の中の計量の機能を、取引に使えるようになった
- この制度は、事前に届け出た事業者に、機器の計量の精度の確保や、利用者への説明などを求め、その取引については計量法の規定を一部適用しない
経済産業省は2023年10月18日、「充電インフラ整備促進に向けた指針」を公表し、充電した電気の量に応じた料金を、2025年度からサービスとして実現することを目指すとした。
実際に、急速充電の大手のe-Mobility Powerは、2026年4月1日から、直営の急速充電スポットの一部でkWh課金を始めた。
- 開始時点の対象は96か所。特例計量器を載せた急速充電器のある直営スポット
- 理由として、車の電池の容量や、車と充電器の充電の力が多様になり、より公平なkWh課金の需要が高まっていることを挙げている
- 特例計量器がなく、すぐにkWh課金にできないスポットは、立地と最大出力と時間に応じた料金に移った
宿の充電器でkWh課金をするなら、検定に合格した計量器を使うか、特定計量制度の届出をする事業者のサービスを使うことになる。どちらにするかは、充電器を選ぶ段階で確かめておきたい。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
ある宿が、6キロワットの普通充電器を1基置き、2台の電気自動車の客が順に2時間ずつ充電するとする。
- 車Aは6キロワットで受け入れられ、2時間で12キロワット時入る
- 車Bは車の側の上限が3キロワットで、2時間で6キロワット時しか入らない
料金を「1時間200円」にすると、AもBも400円を払う。「1キロワット時35円」にすると、Aは420円、Bは210円になる。同じ時間を使っても、入った電気が半分のBにとっては、kWh課金のほうが納得しやすい。
夜の使い方も考える。車Aが夜8時に充電を始め、10時に終わっても、朝8時まで置いたままだと、10時間は充電せずに場所をふさぐ。2台目の客は充電できない。
- 「充電が終わったら、フロントに連絡して車を動かす」というルールを決める
- 充電の終わりを客に知らせる機能のある充電器を選ぶ
- 終わったあとの駐車に料金をかける(オーバーステイの請求)
1基で2台に対応するのか、2基置くのかは、kWhあたりの料金より先に決めておきたい。
料金の単位は、充電器を選ぶ前に
コロナドとビルトモアが入れたのは、料金を設定し、客ごとの請求を記録できる充電器だった。日本では、kWh課金を支える制度が整い、大手の急速充電でも始まっている。宿が充電器を選ぶときは、無料にするのか、時間で区切るのか、量で測るのか、そして充電が終わった車をどうするのかを、先に決めておきたい。
持ち帰れる知識
- 充電の料金の単位には、時間と電気の量がある
- 日本では、2022年4月の特定計量制度で、充電器の中の計量の機能を取引に使えるようになった
- 国は、kWh課金を2025年度からサービスとして実現する目標を掲げた
- e-Mobility Powerは、2026年4月に96か所でkWh課金を始めた
宿で考えられること
- 無料、時間、量のどれで料金をとるかを、充電器を選ぶ前に決める
- kWh課金をするなら、計量器か特定計量制度の対応を確かめる
- 充電が終わった車を動かすルールを決める
- 客ごとの利用と請求を記録できる機能を確かめる
事業・予約への接続
充電器があることは、予約の決め手になりうる。予約のページには、充電器の数と出力、料金の単位、予約できるかどうかを書いておくと、客が計画を立てやすい。
Sources / 参考情報
- EMC(英文) - EV充電:ホテル・デル・コロナドの事例(PDF)(2023年4月)
裏付け: 最初はネットワークにつながらず別の会社が所有・運営、客の利用と請求の監視と報告・将来の拡張、最大23基分の設備の強化、11基をすぐに加え最大12基を追加可能、壁かけ型の1口、事前の調査と配線のやり直し、1日で組み立てと配線、クラウドの管理画面でエネルギー・温室効果ガス・客への請求を記録、オーバーステイの請求・会員プログラム・建物管理との連携 - Benzinga(PR Newswire、英文) - ヌードゥーが、ロサンゼルスの象徴的なミレニアム・ビルトモア・ホテルに充電器を設置(2019年11月19日)
裏付け: S1000を10基、2019年12月31日まで「2時間無料」、ジミー・ウー氏の言葉、クラウドのOS、クレジットカードやスマートフォンでの支払い、料金の設定・混む時間の変更・監視、1923年開業、1969年に歴史文化記念物、683室 - 経済産業省 - 充電インフラ整備促進に関する検討会 事務局資料(PDF)(2023年6月23日)
裏付け: 計量法上、従量制課金には検定に合格した計量器が必要だったこと、2020年の電気事業法改正で特定計量制度(2022年4月1日施行)、届出事業者に計量精度の確保と需要家への説明を求め計量法の規定を一部適用除外 - 経済産業省 - 充電インフラ整備促進に向けた指針を策定しました(2023年10月18日)
裏付け: 従量制課金を2025年度からサービス実現を目指す - e-Mobility Power - ビジター利用料金における「kWh課金の導入」と「充電器の立地・最大出力に応じた時間課金への移行」のお知らせ
裏付け: 2026年4月1日から直営充電スポットの一部でkWh課金、開始時点で96か所、特例計量器を搭載した急速充電器、車載電池の容量と充電能力の多様化で公平性の高いkWh課金の需要、それ以外は出力別時間課金へ移行