「運転時間45%減」は「電気45%減」か:200万室に入った客室の温度調節器を、日本の省エネの数字で読む
客がいない客室の空調を、自動で弱める。北米の温度調節器(サーモスタット)のメーカー、ヴァーダント(Verdant)は、自社の製品が北米と欧州の200万室以上のホテルの客室に入っていると書き、空調の運転時間が平均45%減ると説明している。ただ、同じ記事の中で、45%は「運転時間」の削減としても、「客室のエネルギー使用量」の削減としても書かれている。この記事では、この二つを分けて読み、日本の省エネの資料の数字で、その違いを確かめる。
ヴァーダントの記事が書いていること
ヴァーダント(現在は空調機器の会社コープランドのブランド)は、2026年3月17日のブログ記事で、ホテルの客室の温度調節器について次のように書いている。
- 空調は、ホテルのエネルギーの請求額の最大60%を占める
- 客室は、予約が入っていても、約60%の時間は人がいない
- 同社の製品は、北米と欧州の200万室以上に入っている
- 従来の制御から、人の在室に応じて動く温度調節器に替えた施設では、空調の運転時間が平均45%減る
人がいるかを、どう見分けるか
記事は、しくみを次のように説明している。
- 本体に、人の動きと体温の両方を感じる赤外線のセンサー(PIRセンサー)を内蔵している
- ドアの開け閉めだけで判断する方式と違い、人が実際に部屋にいるかを見分けるので、客が少し出てすぐ戻ったときに誤って弱めることが減る
- 人がいないと判断すると、空調を止めずに、省エネの温度の範囲に動かす(セットバック)。客が戻ると、すぐに元に戻す
- 特許の「夜の在室モード」で、夜はセットバックをしないので、眠っている客を妨げない
- バルコニーのある部屋などでは、無線のドアや窓のセンサーを足せる
取り付けについては、1台15分未満で、電気工事士は不要(24ボルトで動く)と書いている。元の記事は「10分未満」としていたが、この記事には15分未満とある。同社のロンドンの事例の資料には「20分未満」とあり、資料によって違う。
45%は、何の45%か
記事の最後の節は、こう書いている。「ほとんどの施設で、客室のエネルギー使用量が平均45%減り、全体のエネルギーの請求額の最大18%の節約になる」。
ここで、冒頭の「運転時間の45%」が、「エネルギー使用量の45%」に言い換えられている。同社のよくある質問のページは、さらに別の言い方をしている。
- 「ほとんどの施設で、客室のエネルギー使用量が最大45%減り、全体のエネルギーの請求額の最大20%の節約になる」
- 注に、運転時間の削減は、北米の標本で、同社の在室に応じたセットバックの運転時間を、セットバックのない従来の温度調節器の設定と比べて計算したとある
- 削減は、機器の種類や状態、断熱、気候、温度の調整の幅や頻度で変わるとも書いている
つまり、45%のもとになっているのは「運転時間」の比較で、比べる相手は「セットバックのない」設定だ。もともと人のいない部屋の空調を切る運用をしている宿なら、削減はこれより小さくなりうる。また、全体の節約は、ブログでは最大18%、よくある質問では最大20%と、ページによって違う。
18%を45%で割ると40%になる。客室の空調が、全体のエネルギーの請求額の約4割を占める施設を想定した数字と読むこともできるが、記事はその前提を書いていない。
運転時間と電気の量は、同じではない
運転時間が45%減っても、使う電気が45%減るとは限らない。
- セットバックは、空調を止めるのではなく、温度を数度ずらす。弱めた運転の時間も、運転時間に数えるかどうかで数字が変わる
- 客が戻ったときに元の温度に戻すには、強めの運転が要る
- 能力を細かく変えられる空調(インバーター)では、「動いている時間」と「使う電気」の関係が、さらに単純でなくなる
日本の宿に置き換えると
資源エネルギー庁の省エネポータルサイトは、家庭のエアコンについて、省エネの行動ごとの効果を示している。2.2キロワットのエアコンを1日9時間使うという条件の数字だ。
- 冷房の設定温度を27℃から1℃上げる(外の気温31℃):1年で30.24キロワット時の省エネ
- 暖房の設定温度を21℃から20℃にする(外の気温6℃):1年で53.08キロワット時
- 冷房を1日1時間短くする(設定28℃):1年で18.78キロワット時
- 暖房を1日1時間短くする(設定20℃):1年で40.73キロワット時
- フィルターを月に1〜2回掃除する:1年で31.95キロワット時
この条件では、冷房を1日9時間から8時間に短くする(運転時間を約11%減らす)よりも、設定温度を1℃緩めるほうが、電気の削減が大きい。運転時間の削減と、電気の削減は、別の物差しだとわかる。
環境省の家庭のCO2統計(令和5年度)によると、冷房の設定温度を28℃にしている世帯が最も多く約3割で、27℃以上が約6割だ。暖房では、半数以上の世帯が23℃以下、21%が20℃以下に設定している。客室では、客がそれぞれの好みの温度に設定する。だからこそ、人がいない時間だけ温度をずらすしくみに意味がある。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
20室の宿で、客室のエアコンを、省エネポータルサイトの条件(2.2キロワット、1日9時間)に近い使い方とする。電気は1キロワット時30円とする。
- 運転時間を1日1時間短くする場合:上の冷房と暖房の数字を足すと、1室あたり1年59.51キロワット時。20室で約1,190キロワット時、約3.6万円
- 人がいない時間に設定温度を1℃緩める場合:仮に一日中1℃緩めたのと同じ効果とすると、同じく足して1室あたり1年83.32キロワット時。20室で約1,666キロワット時、約5.0万円
実際のセットバックは、人がいない時間だけ、数度ずらすので、効果はこの二つとは違う。ただ、この比べ方から、「運転時間が何%減ったか」と「電気が何キロワット時減ったか」は、別々に測る必要があることがわかる。
宿が試すなら、数室に温度調節器を付け、同じ型の空調の部屋と、電気の量(キロワット時)を比べたい。運転時間の記録だけでは、電気代の削減はわからない。
「何の何%か」を確かめる
ヴァーダントの45%は、セットバックのない設定と比べた、北米の標本の運転時間の削減だった。全体の節約は「最大」の数字で、ページによって18%と20%に分かれる。客室の空調を自動で弱めるしくみは、日本の宿にも役立ちうる。そのときは、運転時間ではなく、電気の量で効果を確かめたい。
持ち帰れる知識
- 運転時間の削減と、電気の削減は別の物差し
- 削減率は、比べる相手(セットバックのない設定など)で変わる
- 日本の家庭のエアコンでは、1日1時間短くするより、設定温度を1℃緩めるほうが削減が大きい条件がある
- 「最大」の数字と「平均」の数字を分けて読む
宿で考えられること
- 今、人のいない客室の空調をどう運用しているかを確かめる
- 数室で試し、電気の量(キロワット時)で比べる
- 夜に眠っている客を妨げない設定を確かめる
- フィルターの掃除など、機器を替えずにできる省エネも並べて考える
事業・予約への接続
客室の空調を自動で調整する宿は、快適さを保ちながら省エネをしていると伝えられる。伝えるときは、「運転時間」ではなく「電気の量」で測った結果を使いたい。
Sources / 参考情報
- Verdant(英文) - スマートサーモスタットが変える2026年のホテル業界(2026年3月17日)
裏付け: 空調は請求額の最大60%、客室は予約があっても約60%の時間は無人、200万室以上、運転時間平均45%減、PIRセンサー(動きと体温)、ドアスイッチとの違い、セットバック、夜の在室モード、ドアや窓のセンサー、15分未満・電気工事士不要・24V、客室のエネルギー使用量平均45%減・全体の最大18% - Verdant(英文) - よくある質問
裏付け: 客室のエネルギー使用量最大45%減・全体の最大20%、運転時間の削減は北米の標本でセットバックのない従来の設定と比較、削減は機器・断熱・気候・調整の幅や頻度で変わる、24V - Verdant(英文) - ザ・ランドマーク・ロンドンの事例(PDF)
裏付け: 取り付けは1室20分未満 - 資源エネルギー庁 - 省エネポータルサイト:無理のない省エネ節約(空調)
裏付け: 2.2kWのエアコン・1日9時間の条件で、冷房1℃上げ30.24kWh、暖房1℃下げ53.08kWh、冷房1時間短縮18.78kWh、暖房1時間短縮40.73kWh、フィルター掃除31.95kWh - 環境省 - 家庭部門のCO2排出実態統計調査:エアコンの使い方について
裏付け: 令和5年度、冷房の設定温度は28℃が最多で29.7%・27℃以上が約6割、暖房(エアコン)は半数以上が23℃以下・21%が20℃以下