GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 5分 / 2915文字 試験と見込みを分ける型 #470

10室で試した結果を、全館の見込みに広げる:ロンドンの「ザ・ランドマーク」の温度調節器の事例を、試験と見込みに分けて読む

1899年に開業したロンドンの「ザ・ランドマーク・ロンドン」は、壁を壊さず、配線もせずに、客室の空調の温度調節器を替える試験をした。10室で試した結果、空調の運転時間は平均31%減った。事例の資料には、年9万1,064ポンド、10年で111万8,819ポンドの節約という数字も並ぶ。ただ、これらは「見込み」と書かれている。この記事では、10室の試験で測ったことと、全館に広げた見込みを分けて読み、無線の機器を日本で使うときの決まりにつなげる。

1899年の鉄道ホテル

温度調節器のメーカー、ヴァーダント(Verdant)の事例の資料によると、ザ・ランドマーク・ロンドンは、ロンドンにもともとあったビクトリア朝の鉄道ホテルの一つとして、1899年に始まった。

  • 8階分の高さのガラスのアトリウムの下に、広い中庭がある
  • 客室とスイートは約300室
  • 歴史ある建物で快適さを保つには、高いエネルギーの請求額がつきまとう
  • エネルギーの費用を下げ、今のESG(環境・社会・企業統治)の要請に応えることが、ホテルの大きな課題だった

資料は、ホテルが5つ星の客の体験を損なうことを許せなかったと書いている。そこでホテルは、ヴァーダントと組んで、省エネの試験の計画を始めた。

壁を壊さず、無線でつなぐ

試験では、10室にヴァーダントの温度調節器を付けた。資料は、次の点を強調している。

  • 客や運営への妨げがなかった。壁を壊すことも、配線を引き回すことも、中継器を付けることもなかった
  • 独自の技術で、Wi-Fiではなく無線の電波を使う。低い周波数の電波は、厚い壁を通りやすく、遠くまで届くという
  • 付けたあとは、温度調節器どうしが無線でつながり、ネットワークをつくる
  • ホテルのWi-Fiとは別のネットワークなので、Wi-Fiに干渉しない

部屋ごとに、ずらせる温度を決める

資料は、温度の調整のしかたを「インテリジェント・セットバック」と呼んでいる。

  • まず、温度調節器が、その部屋の暖まり方、冷え方の速さを測る
  • 次に、客が気づかないうちに元の温度に戻せる範囲で、温度をどこまでずらせるかを決める
  • このバランスはホテルが管理でき、必要に応じて調整できる

部屋の向きや窓の大きさで、暖まり方や冷え方は違う。部屋ごとにずらせる幅を決めるのは、歴史ある建物で、部屋の条件がそろっていない場合に意味がある。

測った数字と、見込みの数字

資料の「ひと目でわかる」欄には、次の四つが並ぶ。

  • 空調の運転時間の平均の削減:31%
  • 回収の期間:13か月
  • 年の節約の見込み:9万1,064ポンド
  • 10年の節約の見込み:111万8,819ポンド

このうち31%は、10室で測った運転時間の削減と読める。一方、節約の額は「見込み(Projected)」と書かれている。10室の試験の結果を、ホテル全体に広げて計算した数字と考えられるが、資料は、対象の部屋数、電気の単価、計算の方法を書いていない。

資料によると、試験は成功で、ホテルは結果をもとに、全館に入れることにした。チーフエンジニアのボブ・ホースフィールド氏は、「5つ星のホテルでは客の快適さが第一で、それを守りながら大きく省エネできるしくみを見つけるのはとても難しい。ヴァーダントと試験をして、決めるのは簡単だった」と話している。

資料の中の、ほかの数字

同じ資料には、ヴァーダントの製品一般についての数字もある。

  • 客室は、予約が入っていても、平均で60%以上の時間は人がいない
  • 人がいないとき温度を数度ずらすことで、空調の運転時間は平均45%減る
  • 取り付けは1室20分未満で、ホテルの職員が自分で付けられる
  • 回収の期間は、2ページ目では12〜18か月、3ページ目では12〜24か月と書かれている

同社のよくある質問のページによると、45%は、北米の標本で、セットバックのない従来の設定と運転時間を比べた数字で、機器、断熱、気候、温度の調整の幅などで変わる。ランドマークの31%は、製品一般の45%より小さい。どの宿でも45%になるわけではないことを、この事例が示している。

日本の宿に置き換えると

日本で、海外の無線の機器を宿に入れるときは、電波法の決まりを確かめる必要がある。総務省の電波利用ポータルは、次のように説明している。

  • 技適マークは、電波法で定めた技術基準に合っている無線機であることを証明するマーク
  • 特定小電力の無線機、Wi-Fi、Bluetoothの機器などは、技適マークが付いていれば、無線局の免許を受けずに使える
  • 技適マークが付いていない無線機を使うと、電波法違反になる場合がある。違反は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象で、公共性の高い無線局を妨げた場合は、5年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金の対象になる
  • 電波は限られた資源で、使うチャンネルや出力などの技術基準がある。技適マークのない無線機の多くはこのルールに従っておらず、知らずに他人の通信を妨げるおそれがある

訪日客が自分で持ち込むスマートフォンなどについては、特例がある。

  • 国際標準に合ったWi-FiやBluetoothの機器は、技適マークがなくても、入国から90日以内に限って使える

この特例は、旅行者が持ち込む機器のためのもので、宿に据え付ける機器には当てはまらない。ヴァーダントの温度調節器のように独自の無線を使う機器を日本で使うなら、日本向けの製品に技適マークがあるかを、販売する会社に確かめる必要がある。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)

10年の見込みを、年の見込みと比べる

ランドマークの10年の見込み(111万8,819ポンド)は、年の見込み(9万1,064ポンド)の10倍(91万640ポンド)より大きく、約12.3倍だ。資料は理由を書いていない。仮に、節約額が毎年同じ率で増えると考えると、年4.5%程度で計算が合う。電気の値段が上がり続ける前提などが考えられるが、これは計算上の推測にすぎない。

日本の宿で試すなら

25室の宿が、5室で温度調節器を試すとする。

  • 試す5室と、比べる5室を、向き、階、空調の型がそろうように選ぶ
  • 空調の電気の量(キロワット時)を、試す前の1か月と、試したあとの1か月で比べる
  • 試す5室の空調の電気が、1室あたり月100キロワット時から80キロワット時に減ったとする。5室で月100キロワット時、1キロワット時30円で月3,000円
  • 25室に広げると月1万5,000円、1年で18万円の「見込み」になる

ただし、試した月の気温や稼働率が、1年の平均と同じとは限らない。広げた数字は、測った数字ではなく見込みとして扱い、季節を変えて試すと確かめやすい。

試験の数字と、見込みの数字を分ける

ランドマークの事例で測ったのは、10室の運転時間の31%の削減だ。年や10年の節約の額は、それを広げた見込みで、前提は書かれていない。日本の宿が同じような試験をするときは、測った数字と広げた数字を分けて記録し、無線の機器なら技適マークを最初に確かめたい。

持ち帰れる知識

  • 試験で測った数字と、全体に広げた見込みの数字は分けて読む
  • 部屋ごとの暖まり方、冷え方に合わせて、ずらせる温度の幅を決める方法がある
  • 日本で無線の機器を使うには、技適マークを確かめる
  • 訪日客の持ち込み機器の90日の特例は、据え付ける機器には当てはまらない

宿で考えられること

  • 数室で試すときは、比べる部屋を条件がそろうように選ぶ
  • 運転時間ではなく、電気の量で効果を測る
  • 広げた数字は、見込みとして記録する
  • 海外の機器は、技適マークの有無を最初に確かめる

事業・予約への接続

歴史ある建物を壊さずに省エネをする話は、客に伝わりやすい。伝えるときは、試験で測った結果と、見込みを分けて書きたい。

Sources / 参考情報

  • Verdant(英文) - 事例:ザ・ランドマーク・ロンドン(PDF)(©2024 Copeland LP)
    裏付け: 1899年・ビクトリア朝の鉄道ホテル、8階分のガラスのアトリウム、約300室、ESGの要請、省エネの試験、10室、壁を壊さず配線も中継器もなし、Wi-Fiではなく無線の電波、低い周波数で厚い壁を通る、インテリジェント・セットバック(部屋の暖まり方・冷え方を測り、ずらせる幅を決める、ホテルが調整できる)、全館に導入、ホースフィールド氏の言葉、31%・13か月・91,064ポンド・1,118,819ポンド(見込み)、60%以上の時間は無人、45%、20分未満、12〜18か月と12〜24か月
  • Verdant(英文) - ヴァーダントが欧州の施設に最適な理由(2024年12月13日)
    裏付け: ランドマークでは壁を壊さず配線もせずに設置、独自の無線の技術でWi-Fi不要、運転時間を平均31%削減、メッシュのネットワークでWi-Fiに干渉しない
  • 総務省 電波利用ポータル - 技適マークのQ&A
    裏付け: 技適マークは技術基準に適合した無線機の証明、特定小電力・Wi-Fi・Bluetoothなどは技適マークがあれば免許不要、技適マークのない無線機の使用は電波法違反になる場合がある、1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金・5年以下の拘禁刑又は250万円以下の罰金、技術基準と混信のおそれ
  • 総務省 電波利用ポータル - 海外から持ち込まれる携帯電話端末・BWA端末、Wi-Fi端末等の利用
    裏付け: 国内で使う無線設備は技術基準への適合が必要、訪日観光客等が持ち込む国際標準に合ったWi-Fi・Bluetoothの機器は技適マークがなくても入国から90日以内に限り使用可
  • Verdant(英文) - よくある質問
    裏付け: 運転時間の削減は北米の標本でセットバックのない従来の設定と比較、削減は機器・断熱・気候などで変わる

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