「宿では、家より1日最大250リットル多い」:英国の大学が発表した「シャワーが77秒短く」の研究を、日本の家庭の水の量と並べて読む
2024年4月、英国のプリマス大学は、ホテルのシャワーに時計の表示を付けると、客のシャワーの時間が25%以上短くなったという研究を発表した。短くなったのは77秒で、お湯にして約10リットル分。発表は、人はホテルに泊まると、家にいるときより1日に最大250リットル多く水を使うとも書いている。同じ研究の数字は#270でも読んだ。この記事では「家と宿の違い」に目を向け、日本の家庭の水の量と並べてみる。
研究の中身
プリマス大学の発表によると、研究の内容は次のとおりだ。
- 観光の宿のシャワー室に、節水の装置を付けた。装置は、使っている人にシャワーの長さを続けて表示する
- 近くに貼ったステッカーの言葉と組み合わせた。「時計に勝てるか」「節水はあなたから」「違いをつくろう」など
- 英国、デンマーク、スペインのホテルで、1万7,500回を超えるシャワーの長さを記録した
- 表示を見た組は、表示のない組より、水を出している時間が77秒短かった(25.79%)。お湯にして、1回約10リットルにあたる
研究は、学術誌「ジャーナル・オブ・トラベル・リサーチ」に載った。サリー大学、プリマス大学、スペインのアリカンテ大学の研究者が行った。
論文の概要によると、表示だけで25.79%短くなった(信頼区間8.24〜39.98%)。表示に、最も効いた言葉を組み合わせると、23.55%短くなった(同17.53〜29.13%)。
77秒と10リットルから、わかること
発表の数字を割り算すると、次のことが読み取れる。いずれも発表には書かれておらず、計算で出した目安だ。
- 77秒が25.79%にあたるなら、表示のない組の平均は約299秒、約5分になる
- 77秒で約10リットルなら、シャワーの水は1分あたり約7.8リットルになる
1回5分のシャワーの4分の1を削るというのは、ずいぶん大きい。ただ、信頼区間は8.24〜39.98%と幅が広い。宿によって、効き方はかなり違う可能性がある。
「家より250リットル多い」
発表は、人がホテルに泊まると、家にいるときより1日に最大250リットル多く水を使うと書き、この研究が観光の水の使い方の対策につながることを研究者が望んでいると続けている。
この250リットルは「最大」の数字で、どの国の、どんな宿の、何を数えた数字かは、発表には書かれていない。シャワーだけでなく、洗濯、清掃、プール、庭の水やりなど、宿の運営の水も含む可能性がある。読むときは、「平均でこれだけ多い」ではなく、「多い場合はここまで差がある」という意味にとどめたい。
研究を率いたサリー大学のパブロ・ペレイラ=ドエル氏は、世界の多くの観光地が、これまでにない水の不足に直面していると述べ、技術の助けがあれば宿の客は短いシャワーをとり、水、エネルギー、炭素の排出を減らせることを研究が示した、と話している。
装置は、どう時間を測ったか
発表によると、装置は、水の音、動き、温度、湿度を続けて感じ取り、計算の手順でシャワーを見分けて、その長さを表示の時計に映した。データはWi-Fiでクラウドに送られた。新しい型ではBluetoothを使う。
サリー大学の研究のページは、試験では1回のシャワーで最大13リットルを節約でき、1室1年あたり60〜90ユーロの節約になると書いている。こちらも「最大」の数字だ。
日本の家庭は、1日に何リットル使うか
日本の水の量の統計を見てみる。国土交通省の「令和7年版 日本の水資源の現況」によると、次のとおりだ。
- 生活用水は、家庭用水と都市活動用水に分かれる
- 家庭用水は、飲み水、料理、洗濯、風呂、掃除、水洗トイレ、散水などに使う水
- 都市活動用水には、飲食店、デパート、ホテルなどの営業用水や、事業所の水、公園の噴水や公衆トイレの水が含まれる
- 生活用水を給水人口で割った1人1日の平均は、2022年度で約282リットル。この数字には、都市活動用水が含まれる
- 地域別では、最も多い南九州が約330リットル、最も少ない山陰が約252リットル
つまり、日本の「1人1日約282リットル」には、ホテルの営業用水も入っている。家庭だけの数字ではない。
家庭だけの目安としては、東京都水道局の「令和7年度水使用実態に関する調査」による、世帯の人数ごとの1か月の平均の水の量がある。
- 1人の世帯:8.1立方メートル。1か月を30日とすると、1日約270リットル
- 2人の世帯:14.4立方メートル。1人1日約240リットル
- 4人の世帯:22.4立方メートル。1人1日約187リットル
東京都水道局は、シャワーを3分間流しっぱなしにすると、約36リットルの水が流れるとも説明している。
日本の家庭の1人1日が200リットル前後だとすると、そこに最大250リットルが加われば、宿に泊まる日の水は、家の倍を超えることになる。ただし、これは英国の発表の「最大」の数字を、日本の統計にそのまま当てはめた場合の話で、日本の宿で測った数字ではない。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
自分の宿の「1人1泊」を出す
20室の宿で、稼働率70%、1室の平均人数を1.8人とする。年の宿泊客は延べ約9,200人泊になる。
- 1年の水道の使用量が4,000立方メートルだったとする
- 4,000立方メートル÷約9,200人泊で、1人1泊あたり約435リットル
- 東京都の1人の世帯の目安(1日約270リットル)と比べると、約165リットル多い
この差には、客のシャワーや風呂だけでなく、シーツやタオルの洗濯、清掃、厨房、大浴場、庭の水やりも入っている。差のうち何が大きいかを知るには、用途ごとに分けて考える必要がある。
シャワーの分を見積もる
- 1人1泊に1回、5分のシャワーをとり、流量が毎分10リットルとすると、1人1泊50リットル
- 表示の装置で1分短くなれば、1人1泊10リットル、年約92立方メートル
- 水道と下水道で1立方メートル600円なら、年約5万5,000円。お湯をわかす燃料の分は別
宿の水の全体(年4,000立方メートル)から見ると、シャワーの1分は約2.3%にあたる。全体を減らすには、シャワーのほかに、洗濯や清掃、漏れの確認も合わせて考えたい。
家と宿の差を、自分の数字で見る
英国の研究は、宿のシャワーに時計を付けると、客のシャワーが平均77秒短くなることを示した。発表の「家より最大250リットル多い」は、出どころの書かれていない「最大」の数字だ。日本の「1人1日約282リットル」にはホテルの営業用水も含まれる。比べるなら、自分の宿の水道の使用量を宿泊客の数で割り、家庭の目安と並べるところから始めたい。
持ち帰れる知識
- 25.79%の信頼区間は8.24〜39.98%で、宿によって効き方は違いうる
- 「家より最大250リットル多い」は、出どころの書かれていない最大の数字
- 日本の1人1日約282リットルには、ホテルなどの営業用水が含まれる
- 家庭だけの目安は、東京都の世帯の人数ごとの調査で見られる
宿で考えられること
- 年の水道の使用量を、延べ宿泊客の数で割ってみる
- シャワー、洗濯、清掃、厨房など、用途ごとの割合を見積もる
- シャワーの流量をバケツと時計で測る
- シャワーの時計を試すなら、数室で、表示のある部屋とない部屋を比べる
事業・予約への接続
「家での1回のシャワーと同じくらいに」という呼びかけは、客にわかりやすい。宿の水の量を伝えるときは、客の分と運営の分を分けて示すと、取り組みの中身が伝わる。
Sources / 参考情報
- University of Plymouth(英文) - ホテルのシャワーでのリアルタイムの表示が、観光の水の使用を減らせる可能性(2024年4月16日)
裏付け: 25%以上の短縮、ステッカーの言葉、英国・デンマーク・スペインのホテルで1万7,500回超、77秒(25.79%)・約10リットルのお湯、ホテルでは家より1日最大250リットル多い、サリー大学・プリマス大学・アリカンテ大学、ペレイラ=ドエル氏の言葉、センサーは水の音・動き・温度・湿度、Wi-Fiでクラウド、新しい型はBluetooth - Journal of Travel Research(英文) - 観光の宿でシャワーの時間を減らす:リアルタイムの表示と説得の言葉の、客に知らせない実験(2024年、64巻5号)
裏付け: デンマーク・スペイン・英国の六つの宿、1万7,500回超、25.79%(信頼区間8.24〜39.98%)、最も効いた言葉との組み合わせで23.55%(同17.53〜29.13%)(Crossrefの概要) - University of Surrey(英文) - シャワーを賢く:研究の概要
裏付け: 1回のシャワーで最大13リットル、1室1年あたり60〜90ユーロの節約 - 国土交通省 - 令和7年版 日本の水資源の現況(PDF)
裏付け: 生活用水は家庭用水と都市活動用水、都市活動用水には飲食店・デパート・ホテル等の営業用水を含む、1人1日平均約282リットル(2022年度、都市活動用水を含む、有効水量ベース)、南九州約330リットル・山陰約252リットル - 東京都水道局 - 水の上手な使い方
裏付け: 世帯人員別の1か月の平均使用水量(1人8.1立方メートル、2人14.4立方メートル、4人22.4立方メートル、令和7年度水使用実態に関する調査)、シャワー3分間で約36リットル