水道局は、なぜホテルの便器の代金を払ったのか:テキサス州の「ホリデイ・イン・サンアントニオ」の節水を水道局の側から読み、日本の下水道料金の「減量」の制度につなげる
テキサス州サンアントニオの水道局は、空港近くの「ホリデイ・イン・サンアントニオ・インターナショナル・エアポート」の397室すべてで、トイレ、蛇口、シャワーヘッドを替える費用を払った。器具の代金も、取り付けの費用も、水道局の負担だ。この事例は#258で回収年数の前提から、#348で単位と日本の規格から読んだ。この記事では、お金を出した水道局の側から読み直し、ホテルが減らした「水道と下水道の料金」の中身を、日本の下水道料金の「減量」の制度につなげる。
水道局の考え:新しい水源より、節水が安い
米国環境保護庁(EPA)の事例の資料(2014年7月)によると、サンアントニオでは、市の成長が続くなかで、節水が水の管理の計画の大事な柱になっていた。
- 水道局(SAWS)は、節水のほうが、新しい水源を確保するより費用の効率がよいと考えた
- そこで2007年に、「ウォーターセーバー・ホテル」という事業をつくり、選んだホテルと一緒に、浴室の器具を替えることにした
ホテルの側から見れば、無料で器具が新しくなる話だ。水道局の側から見れば、ダムや井戸などの新しい水源に払うかわりに、すでにある建物の水の使い方を減らすことにお金を使う、という判断になる。
1981年から、浴室は大きく替えていなかった
資料によると、このホテルは延べ床面積23万6,000平方フィート、客室397室。1981年に建ってから、浴室は大きな改修をしていなかった。水道局の事業を聞いて、最初に名乗り出たホテルの一つだった。
水道局がホテルに求めたのは、決められたトイレ、シャワーヘッド、蛇口の泡沫器(水に空気を混ぜて量を減らす部品)を、正しく取り付けることだけだった。
器具の選び方には、次のような決まりがあった。
- トイレと洗面の蛇口は、EPAの節水の認証「ウォーターセンス」の、タンク式のトイレと洗面の蛇口の基準を使って、水道局が選んだ
- シャワーヘッドは、当時ウォーターセンスの基準がまだなかったので、ホテルが自分で選んだ。ただし、水道局は1分あたり1.75ガロン未満と決めた
EPAは、その後シャワーヘッドの基準もつくった。いまのEPAのページによると、ふつうのシャワーヘッドは毎分2.5ガロンを使い、ウォーターセンスの認証を受けるには毎分2.0ガロン以下である必要がある。水道局が2007年に決めた1.75ガロン未満は、いまの認証の基準よりも厳しい。
替えた器具
資料の表によると、替えた器具は次のとおりだ。
- トイレ:1回3.5ガロンのもの297台と、1回5.0ガロンのもの100台を、1回1.1ガロンに
- 蛇口の泡沫器:毎分2.2ガロンから1.5ガロンに、397個
- シャワーヘッド:毎分2.5ガロンから1.75ガロンに、397個
工事は2007年の終わりに終わった。
減った水と、二つの節約
資料によると、改修の前、ホテルは使用中の客室1室1日あたり約202ガロンの水を使っていた。改修のあとは35%減って、132ガロンになった。
- 1か月に約58万ガロン、1年に700万ガロンの節水
- ホテルは、水道と下水道の料金で、1年に約3万5,000ドルを節約していると見積もっている
- 節約した水の多くはお湯なので、エネルギーも減る。ホテルはこれを測っていないが、シャワーヘッドと蛇口のふつうのお湯の使い方をもとに、電気が年約33万キロワット時、約3万3,000ドル減っていると推定している
- 合わせて1年に6万8,000ドルを超える節約になる
ここで、二つの節約は性質が違う。3万5,000ドルは、水道と下水道の料金の請求書に表れる節約だ。3万3,000ドルは、測っていないエネルギーの推定だ。
水道局が使ったお金
水道局によると、397室の浴室の改修に使ったのは約10万ドル。もしホテルが払っていたら、回収は2年未満だった、と資料は書いている。この「もし」の前提は、#258で詳しく読んだ。
資料は、お金以外の変化も書いている。以前は1日に1〜2件あった新しい器具の修理の電話が、来なくなったという。
ホテルは、浴室のほかにも、自分で水を減らす工夫を進めている。冷暖房の機械から出る結露の水を庭の水やりに使い、屋上でハーブを育て、プールのろ過の逆洗の水や、冷却塔のブローの水も再利用している。
日本の宿に置き換えると
ホリデイ・インの3万5,000ドルには、下水道の料金も含まれる。日本でも、下水道の料金は、使った水の量をもとに決まる。東京都下水道局は、次のように説明している。
- 下水道料金の対象となる汚水の量は、水道水や井戸水などの使用水量を、そのまま排出量とみなす
- ただし、製氷業、食品などの製造の過程、ビルなどの冷却塔の蒸発水のように、営業で使う水の量と、下水道に流す汚水の量が大きく違う使用者は、下水道に流さない水の量(減水量)を申告できる
- 使用水量から減水量を差し引いて汚水の量を認定することを、「減量」という
減量を受けるための条件と注意点は、次のとおりだ。
- 営業活動で使う水であること
- 1か月の減水量が、総使用水量の10%以上であること。ただし、1か月の総使用水量が1,000立方メートルを超える場合は、1か月の減水量が100立方メートル以上であること
- 減水量を測るメーターは、計量法の検定を受け、有効期間内のものであること
- 認定の前の分を、さかのぼって減らすことはできない。必ず事前に申請する
- 減水量を測るメーターの設置や交換の費用は、使用者の負担
- 認定のあとは、水道の検針のたびに、減水量の申告が要る。申告できる期間は、認定の通知から5年
- 汚水の量が0立方メートルでも、最低料金(1か月560円、税抜き)はかかる
冷却塔を使う大きめの宿では、蒸発して下水道に流れない水がある。この制度が使えるかどうかは、確かめる価値がある。ただし、減量の条件や手続きは自治体ごとに違う。東京都区部以外の宿は、地元の下水道の担当に確かめたい。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
水道局の側から、1,000ガロンあたりの費用を出す
水道局が使った約10万ドルを、節水の量で割ってみる。
- 1年目だけで割ると、10万ドル÷700万ガロンで、1,000ガロンあたり約14ドル
- 器具が10年使われ、毎年同じだけ節水できたとすると、7,000万ガロンで割って、1,000ガロンあたり約1.4ドル
水道局にとっての比べる相手は、新しい水源から同じ量の水を確保する費用だ。その費用は資料に書かれていないので、ここでは比べられない。ただ、器具が長く使われるほど、1,000ガロンあたりの費用は下がる。
冷却塔のある宿の減量
東京都区部の宿で、1か月の水の使用量が800立方メートル、そのうち冷却塔で蒸発して下水道に流れない水が100立方メートルと測れたとする。
- 100立方メートルは、総使用水量の12.5%で、10%以上の条件に当てはまる
- 下水道の料率表では、1か月の汚水が500立方メートルを超え1,000立方メートル以下の分は、1立方メートル310円
- 汚水の量が800立方メートルから700立方メートルに減り、減る100立方メートルはすべて310円の段にあたる。1か月3万1,000円、1年で37万2,000円、下水道料金が下がる
- ただし、減水量を測るメーターの設置の費用は宿の負担になる
誰が払い、何が減ったかを分ける
ホリデイ・インの節水は、新しい水源より節水が安いと考えた水道局が、器具の代金を払って実現した。ホテルの請求書に表れたのは、水道と下水道の約3万5,000ドルで、エネルギーの3万3,000ドルは推定だ。日本の宿が水の費用を見直すときは、器具を替えるだけでなく、下水道に流さない水を正しく申告できるかも確かめたい。
持ち帰れる知識
- 水道局は、新しい水源を確保するより、節水のほうが費用の効率がよいと考えた
- 請求書に表れる節約と、測っていない推定の節約は分けて読む
- 日本の下水道料金は、使用水量をもとに決まる
- 東京都では、冷却塔の蒸発水など、下水道に流さない水を事前の申請で差し引ける制度がある
宿で考えられること
- 冷却塔、製氷、庭の水やりなど、下水道に流れない水がどのくらいあるかを見積もる
- 減量の制度があるか、地元の下水道の担当に確かめる
- 水道局や自治体に、節水の器具の支援がないかを調べる
- 器具を替えたら、修理の呼び出しの回数も記録する
事業・予約への接続
水道局と組んだ節水は、地域の水を守る取り組みとして伝えやすい。伝えるときは、測った節水と、推定のエネルギーの節約を分けて書きたい。
Sources / 参考情報
- U.S. EPA WaterSense(英文) - ホテルが節水型の衛生器具を設置(PDF)(2014年7月、EPA-832-F-14-002-G)
裏付け: 節水は新しい水源の確保より費用の効率がよい、2007年のウォーターセーバー・ホテルの事業、23万6,000平方フィート・397室、1981年の建築以来大きな改修なし、最初に名乗り出たホテルの一つ、器具と取り付けを水道局が負担、正しく取り付けることだけを求めた、ウォーターセンスの基準でトイレと蛇口を選定、シャワーヘッドは1.75ガロン未満、替えた器具の表、2007年の終わりに完了、202ガロンから132ガロン・35%、月約58万ガロン・年700万ガロン、約3万5,000ドル、推定33万キロワット時・3万3,000ドル、6万8,000ドル超、約10万ドル・回収2年未満、修理の電話が1日1〜2件からなくなった、結露水・屋上のハーブ・プールの逆洗の水・冷却塔のブローの水 - 東京都下水道局 - 減量制度について
裏付け: 使用水量を汚水排出量とみなす、製氷業・食品の製造・冷却塔の蒸発水など、減水量の申告と減量、営業活動の水、10%以上(1,000立方メートル超は100立方メートル以上)、計量法の検定証印と有効期間、遡及なし・事前申請、メーターの設置と交換は使用者の負担、検針ごとの申告、最低料金560円(税抜き) - 東京都下水道局 - 減量の申請・申告の手続
裏付け: 事前申請が必要、書面審査と現場調査、申告できる期間は認定の通知から5年、検針ごとに減水量申告書を提出 - 東京都下水道局 - 下水道料金の計算方法(下水道料率表)
裏付け: 1か月分の一般汚水の料率、500立方メートルを超え1,000立方メートル以下の分は1立方メートル310円 - U.S. EPA(英文) - ウォーターセンスのシャワーヘッド
裏付け: ふつうのシャワーヘッドは毎分2.5ガロン、ウォーターセンスの認証には毎分2.0ガロン以下