冷却塔の「濃縮倍数」は、電気の通りやすさで測る:カリフォルニアの砂漠のリゾート「ウェスティン・ミッション・ヒルズ」の30%の節水を、州の報告書の表で読む
米カリフォルニア州の砂漠の町、ランチョ・ミラージュ。ゴルフ場とスパのあるリゾート「ウェスティン・ミッション・ヒルズ」で、冷却塔の水を減らす実証が行われた。カリフォルニア州エネルギー委員会は2021年6月、電力研究所(EPRI)がまとめた最終報告書を公開している。
冷却塔の水を減らす考え方は、#317でアトランタのホテルの例を紹介した。この記事では、報告書の中の「どう測ったか」に注目する。濃縮倍数をどう測るか、計測とモデルの数字はどう違うか、そして数え忘れやすい水は何か、だ。
冷却塔の水は、どこへ行くのか
冷却塔は、水を蒸発させて、冷房の熱を外へ捨てる装置だ。水が蒸発すると、水に溶けていたミネラルは塔の中に残り、だんだん濃くなる。濃くなりすぎると、配管に「スケール」と呼ばれる固まりが付く。そこで、濃くなった水の一部を捨て(ブローダウン)、新しい水を足す(補給水)。
- 濃縮倍数:塔の水が、補給水の何倍に濃くなっているか
- 捨てる水の量=蒸発する量÷(濃縮倍数−1)
報告書によると、商業施設の濃縮倍数はふつう2〜4だ。倍数を上げるほど、捨てる水が減る。
どんな装置を入れたか
ホテルには、450トンの冷凍機が2台と、それにつながる冷却塔がある。報告書は、このホテルの運転と保守を「一般的な商業ビルの代表」と位置づけている。冷却塔の保守は外部の水処理会社に任せ、定期的に薬品の量などを調整していた。
入れたのは「IVG-CT」という装置だ。水を渦のように流して、スケールが付きにくい状態をつくる、物理的な水処理の装置で、スウェーデンで開発された。このホテルでは、補給水の一部を、ナノろ過という細かい膜に通す仕組みも組み合わせた。
報告書によると、装置は2017年6月25日に設置され、7月中旬から下旬にかけて試運転を終えた(別の箇所では「7月中旬〜下旬に設置・試運転」と書いている)。水と薬品の効果は2017年9月1日から2018年8月31日までの1年間で分析した。
濃縮倍数は、電気の通りやすさで測る
水に溶けたミネラルが多いほど、水は電気を通しやすくなる。そこで報告書は、濃縮倍数を、塔の水と補給水の「導電率」(電気の通りやすさ。単位はマイクロジーメンス)の比で定義している。
- 市の水道の水:平均288マイクロジーメンス
- ナノろ過を通した水:平均21マイクロジーメンス
- 市の水とナノろ過の水を、おおむね60対40で混ぜた補給水:平均200マイクロジーメンス
補給水の導電率が下がれば、同じ濃さまでに、より多くの倍数を重ねられる。塔の水を捨てる設定は、930から1,100、1,500マイクロジーメンスへと段階的に上げられ、1年の平均の濃縮倍数は5.9になった。導入前は2.3だった。
計測の「30%」と、モデルの「28%」
報告書の要約は「水を30%、180万ガロン減らした」と書いている。ただ、本文の表を見ると、この二つの数字は、別々の計算から来ている(InnBuddyによる読み取り)。
| | 計測にもとづく値 | モデルにもとづく値 |
|---|---|---|
| 導入前の水の量(基準) | 658万2,122ガロン(モデル、濃縮倍数2.3) | 同じ |
| 導入後の補給水 | 461万7,000ガロン | 447万5,766ガロン |
| ナノろ過で捨てた水 | — | 26万8,546ガロン |
| 導入後の合計 | — | 474万4,312ガロン |
| 減った量 | 196万5,122ガロン(30%) | 183万7,810ガロン(28%) |
30%は計測の値、180万ガロン(183万7,810ガロン)はモデルの値に近い。どちらも「約3割、約180万〜200万ガロン」という点では同じだが、引用するときは、どちらの数字かを分けて書きたい。
また、導入前の水の量は、計測ではなくモデルで出している。ホテルの管理の仕組みは約2週間分のデータしか残しておらず、導入前のデータは2016年の5月から7月の分しかなかった、と報告書は書いている。報告書自身も、導入前のデータが短かったことを認めている。
数え忘れやすい水:ナノろ過で捨てる水
ナノろ過の膜は、きれいな水を通すかわりに、ミネラルが濃くなった水を捨てる。モデルの表は、この捨てる水(26万8,546ガロン)を、導入後の水の量に足している。
冷却塔で捨てる水が減っても、前処理の装置で別の水を捨てていれば、その分は差し引かなければならない。節水の装置を比べるときは、「装置そのものが使う水」も数に入っているかを確かめたい。
水のほかに減ったもの
報告書によると、このホテルでは次のものも減った。
- 水の費用:年1万7,738ドル(上水1CCFあたり4.67ドル、下水2.55ドルで計算。1CCFは100立方フィート)
- 薬品:30%超、年約1万1,000ドル
- 電力:5.4%、年9万4,374キロワット時、1万1,145ドル(1キロワット時0.1181ドル)
一方で報告書は、倍数を高くすると、腐食や浮遊物、微生物の管理が難しくなることがあり、よい監視の手順と補給水が必要だと書いている。倍数を上げることは、管理の手間を減らすことではなく、監視を前提にした運転だということだ。
日本の宿に置き換えると
日本では、延べ面積3,000平方メートル以上の旅館などは、建築物衛生法の「特定建築物」になる(施行令第1条)。特定建築物の冷却塔について、施行規則第3条の18は、次のことを求めている。
- 冷却塔と加湿装置に供給する水を、水道法の水質基準に適合させるために必要な措置をとる
- 冷却塔と冷却水は、使い始めるときと、その後1か月以内ごとに1回、汚れの状況を点検し、必要に応じて清掃や換水をする(1か月を超えて使わない期間は除く)
- 冷却塔と冷却水の水管の清掃を、1年以内ごとに1回行う
厚生労働省の解説によると、これらは、空気調和設備で病原体が室内の空気を汚すのを防ぐための措置だ。
ウェスティンの例のように倍数を上げて捨てる水を減らす場合でも、日本の特定建築物では、月1回の点検と年1回の清掃は変わらない。また、冷却塔に入れる水は水道法の水質基準に適合させる必要があるので、雨水や使った水を冷却塔に回すことは、簡単ではない。
特定建築物に当たらない建物でも、多くの人が使うものは、この基準に従って維持管理するよう努めなければならない(法第4条第3項の努力義務)、と厚生労働省は説明している。小さな宿でも、点検の記録をつけ、導電率で濃縮倍数を見ておくことは、節水と衛生の両方の手がかりになる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
夏の150日、冷却塔から1日8立方メートルの水が蒸発する宿を考える。
濃縮倍数を2.3から5.9に上げる
- 2.3倍:捨てる水は8÷1.3=約6.15立方メートル。補給水は1日約14.15立方メートル
- 5.9倍:捨てる水は8÷4.9=約1.63立方メートル。補給水は1日約9.63立方メートル
- 減る量:1日約4.52立方メートル(約31.9%)。150日で約678立方メートル、1立方メートル600円で約40.7万円
前処理で捨てる水も数える
補給水の4割をナノろ過の膜に通し、膜は通した水の8割をきれいな水として出す(2割を捨てる)とする。
- 膜に入れる水:9.63×0.4÷0.8=約4.82立方メートル。捨てる水は約0.96立方メートル
- 市の水の合計:9.63×0.6+4.82=約10.60立方メートル
- 減る量:1日約3.56立方メートル(約25.1%)。150日で約534立方メートル、約32.0万円
前処理の捨てる水を数えるかどうかで、減る割合は約32%から約25%に変わる。装置の提案を受けたときは、どちらの数字かを尋ねたい。
割合の前に、何を測ったかを読む
ウェスティン・ミッション・ヒルズの報告書は、導電率の定義、捨てる水の設定、計測とモデルの両方の数字、そして導入前のデータが短かったことまで、正直に書いている。だから、読む人が「30%」の中身を確かめられる。
冷却塔の節水を考える宿は、まず補給水と塔の水の導電率を測り、今の濃縮倍数を知ることから始めたい。そのうえで、点検と清掃の決まりを守りながら、捨てる水を減らす余地を探す。
持ち帰れる知識
- 濃縮倍数は、塔の水と補給水の導電率の比で測れる
- 捨てる水=蒸発する量÷(濃縮倍数−1)
- 要約の「30%・180万ガロン」は、計測とモデルの数字が混ざっている
- 前処理の装置で捨てる水も、節水の計算に入れる
- 倍数を上げるほど、腐食や微生物の監視が大切になる
宿で考えられること
- 補給水と塔の水の導電率を測り、今の濃縮倍数を知る
- 冷却塔の補給水と、捨てる水の量を、メーターで分けて記録する
- 月1回の点検と年1回の清掃の記録を、節水の記録と一緒に残す
- 装置の提案では、前処理の水を数えた数字かどうかを尋ねる
事業・予約への接続
冷却塔の節水は、客の目には見えないが、水と薬品と電気の費用を同時に減らす。点検の記録と節水の記録をそろえておけば、衛生と環境の両方を、取引先や認証の審査に説明できる。
Sources / 参考情報
- カリフォルニア州エネルギー委員会(英文) - 冷却塔の水処理に産業用の渦発生技術を使った水と省エネ(最終報告書、PDF)(CEC-500-2021-035、2021年6月、電力研究所)
裏付け: ランチョ・ミラージュのホテル、450トンの冷凍機2台、一般的な商業ビルの代表、保守は外部の水処理会社、スウェーデンで開発、ナノろ過、設置は2017年6月25日・試運転は7月中旬〜下旬、分析期間2017年9月1日〜2018年8月31日、導電率の比による濃縮倍数の定義、市の水288・ナノろ過21・混合200マイクロジーメンス、60対40、設定930→1,100→1,500マイクロジーメンス、平均5.9(導入前2.3)、捨てる水=蒸発÷(倍数−1)、商業施設はふつう2〜4、高い倍数では腐食・浮遊物・微生物の管理が難しくなる、表の基準658万2,122・補給461万7,000(計測)と447万5,766(モデル)・ナノろ過26万8,546・合計474万4,312・減少196万5,122(30%)と183万7,810(28%)、導入前のデータは2016年5〜7月のみ、水1万7,738ドル(4.67ドルと2.55ドル/CCF)、薬品30%超・約1万1,000ドル、電力5.4%・9万4,374キロワット時・1万1,145ドル(0.1181ドル) - e-Gov法令検索 - 建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令
裏付け: 第1条、旅館などで延べ面積3,000平方メートル以上の建築物が特定建築物 - e-Gov法令検索 - 建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則(2026年10月1日時点の版で確認)
裏付け: 第3条の18、冷却塔に供給する水を水道法の水質基準に適合させる措置、使用開始時と1か月以内ごとに1回の点検・必要に応じ清掃と換水、1年以内ごとに1回の冷却塔と冷却水の水管の清掃 - 厚生労働省 - 建築物環境衛生管理基準について
裏付け: 空気調和設備では病原体で居室の空気が汚染されるのを防ぐ措置が必要、冷却塔の点検は使用開始時と1か月以内ごとに1回・清掃は1年以内ごとに1回、特定建築物以外でも多数の者が使う建築物は基準に従うよう努める(法第4条第3項の努力義務) - e-Gov法令検索 - 水道法
裏付け: 第4条(水質基準)