700万ドルの改修を、固定資産税と一緒に20年で返す:「ヒルトン・ロサンゼルス/ユニバーサル・シティ」が、シャワーヘッド500個と浴槽250台を替えた資金の仕組み
米ロサンゼルスのユニバーサル・シティ。映画の撮影所やテーマパークの近くに建つ「ヒルトン・ロサンゼルス/ユニバーサル・シティ」は、2013年に700万ドルの改修を行った。冷凍機、照明、エレベーター、窓ガラス、そしてシャワーヘッド500個と、浴槽250台のシャワーへの交換だ。
この改修の資金は、「PACE」という仕組みで集められた。PACEを進める団体は、当時、米国で最大の商業用のPACEの案件だったとしている。この記事では、節水の器具そのものより、改修のお金がどこから来て、どう返されるのかに注目する。
どんなホテルか
PACEの事例集と施設管理の業界誌によると、ホテルは1983年に建てられた23階建てで、客室は約500室、会議の場所は3万2,000平方フィートある。建ててから30年がたち、競争力を保つための改修が必要だと考えられていた。
業界誌の取材に、ホテルの施設の責任者は、機械の設備の多くは建てたときのままで、動かし続けるために毎年少しずつ資金を使っていた、と話している。
何を替えたか
事例集の改修の一覧は、次のとおりだ。
- エレベーター14台の全面的な更新
- 客室の空調のファンのモーター520台、空調の制御の仕組み
- 450トンの冷凍機2台
- LEDの照明と照明の制御
- 一部の窓ガラス、時間で色が変わるガラス
- 浴槽とシャワー250台、シャワーヘッド500個
- 大容量の洗濯機と乾燥機、電気自動車の充電器
業界誌によると、工事は2013年8月に本格的に始まり、11月に終わった。施設の責任者は「10年分の仕事を3か月でやった」と話している。
水の数字を読む
発表によると、シャワーヘッド500個と、浴槽250台のシャワーへの交換で、年280万ガロン(約1万600立方メートル)の水が減る見込みだ。これは、ホテルが今使っている水の1か月分にあたるという。地元紙は、水道代が年2万8,000ドル減る見込みだと伝えている。
ここから、次のことが読める(InnBuddyによる計算)。
- 1か月分が280万ガロンなら、ホテルの水は年約3,400万ガロン。減る量は全体の約12分の1(約8%)
- 年280万ガロンで2万8,000ドルなら、1,000ガロンあたり約10ドル、1立方メートルあたり約2.6ドル
業界誌では、施設の責任者が、水の量は3年前の月500万ガロンから、今は月250万ガロンに減ったと話している。新しく付けた客室の器具(2回で流す量を選べるトイレ、毎分1.2ガロン=約4.5リットルの洗面の水栓、毎分1.7ガロン=約6.4リットルのシャワーヘッド)が、さらに量を減らしているという。発表の「1か月分=280万ガロン」と、責任者の「今は月250万ガロン」は、近い大きさだが同じではない。いつの、どの量を基準にしたかが違うのだと思われる。
お金の数字は、エネルギーが大半
発表によると、エネルギーの費用は年80万ドル減る見込みだ。省エネのガラスとLEDの照明で、エネルギーの消費が50%減るとも書かれているが、何に対する50%かは示されていない。水道代の2万8,000ドルは、エネルギーの約3.5%にすぎない。
ただし、80万ドルは改修前の見込みだ。業界誌は、改修後に電気代が月約3万ドル減っていると書いている。これは電気だけの、ある時点の数字で、見込みの80万ドルとは範囲が違う。見込みと実績は、分けて読みたい。
PACEの仕組み
事例集によると、PACEは、商業用の建物の持ち主が、省エネ、再生可能エネルギー、節水の改修の費用をまかなう仕組みだ。
- 改修の費用の100%まで借りられる
- 返済は、建物の固定資産税と一緒に、最長20年で行う(地元紙によると、年2回)
- 持ち主は、ほかの借り入れの余力を残せる(帳簿の外のお金として扱える)
- ノンリコースの借り入れである(返済の責任が、その建物に限られる形)
事例集は、長い期間で返せるPACEが、より深い改修を可能にしたと書いている。最初は早く元が取れる改修だけを考えていたが、持ち主の役員会が範囲を広げ、回収に時間がかかるエレベーターや制御の仕組みまで、改修に入れた。
銀行の同意と、第三者の確認
PACEの返済は、固定資産税と同じように、建物にかかっているローンより先に扱われる。そのため、ロサンゼルス郡の仕組みでは、今お金を貸している銀行の同意が必要だった。
事例集によると、ホテルの持ち主は、PACEの手続きの途中で、借り入れを別の銀行(ドイツ銀行)に借り換えた。新しい銀行がPACEの価値を認めて、同意した。
また、郡の仕組みは、改修ごとの節約の見込みを示す、米国の空調の学会の基準(ASHRAEのレベル2)にもとづく省エネ診断を求めていた。このホテルでは診断を2回行い、さらに郡が、独立した第三者に診断の前提と見込みを確かめさせた。
ホテルの総支配人は発表の中で、PACEは投資家に確かめられる情報を示せる仕組みだと話している。診断と第三者の確認は、そのための手順だった。
補助と税の優遇も重ねた
事例集によると、最初の省エネ診断で、州と国の補助や優遇の機会も見つかった。
- ロサンゼルス市の水道電力局:古い冷凍機の交換に8万ドル。ホテルは、これを新しい125トンの冷凍機に充てた
- 国の税の優遇:LEDの照明への交換に、1平方フィートあたり40セントの控除
- 合わせて約100万ドル(発表)、国の分だけで約110万ドル(事例集)
事例集は、2014年の初めに期限が来る税の優遇があったことも、改修の範囲を広げた理由の一つだと書いている。
日本の宿に置き換えると
日本では、ホテルのシャワーを替えるとき、「節湯水栓」という区分が手がかりになる。日本バルブ工業会の資料によると、建築物の省エネの基準では、浴室のシャワーで「小流量吐水機構」をもつもの(節湯B1)を、次のように決めている。
- 毎分7リットル、8.5リットル、10リットルで水を出して、シャワーが体に当たる力を測る
- 測った値から、毎分8.5リットルのときの力を求める
- その力が、空気を混ぜない構造なら0.60ニュートン以上、空気を混ぜる構造なら0.55ニュートン以上であること
つまり、日本の基準は、水の量を減らしても、浴びたときの力が足りるかどうかを見ている。同じ資料は、節湯B1のシャワーで、従来の水栓に比べて15%の削減としている(住宅の条件で計算した値)。
ヒルトンのシャワーヘッドは毎分1.7ガロン、約6.4リットルで、日本の基準の8.5リットルより少ない。量だけでなく、浴び心地を確かめて選ぶことが、客の満足と節水を両立させる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
20室、稼働率70%、1室に1.8人の宿(年9,198人泊)を考える。
シャワーの水
- シャワーを毎分10リットルから8.5リットルに。1人1日8分浴びるとすると、1人12リットル減
- 1年:12リットル×9,198人泊=約110立方メートル。1立方メートル600円で約6.6万円
改修のお金を、どう払うか
空調、照明、シャワーをまとめて替える改修に600万円かかり、光熱水費が年50万円減るとする。
- 一括で払う:回収に12年
- 20年で返す(利息を年5%とする):毎年の返済は約48.1万円。1年目から、節約50万円から返済を引いて、毎年約1.9万円が残る
- 20年の返済の合計は約963万円で、利息の分だけ高くなる
長く借りれば、毎年の手元のお金は減らずに改修できる。そのかわり、利息を払う。ヒルトンが、回収の長いエレベーターまで改修に入れられたのは、この考え方による。
節水の器具は、大きな改修の中で動く
ヒルトン・ロサンゼルス/ユニバーサル・シティの改修で、水の節約は、お金の上では小さな部分だった。それでも、シャワーヘッド500個と浴槽250台の交換は、ホテルの水の1か月分を減らす見込みだった。
節水の器具は、それだけで改修するより、空調や照明の更新と一緒に、資金の計画に入れたほうが進めやすいことがある。日本の宿でも、次の大きな改修の時期に、シャワーの浴び心地と節水を一緒に考えたい。
持ち帰れる知識
- PACEは、改修の費用を固定資産税と一緒に最長20年で返す仕組み
- 返済が抵当より先に扱われるので、貸している銀行の同意が要る
- 見込みの80万ドルと、改修後の電気代の月約3万ドルは、範囲が違う
- 日本の節湯B1は、毎分8.5リットルでの浴びたときの力で決まる
宿で考えられること
- シャワーを替えるときは、流量と浴び心地の両方を試す
- 節水の器具を、空調や照明の更新と同じ資金の計画に入れる
- 改修の見込みは、第三者に前提を確かめてもらう
- 見込みと実績を、同じ範囲で比べられるように記録する
事業・予約への接続
大きな改修は、客の快適さと、宿の運営の費用の両方にかかわる。資金の仕組みと、確かめた節約の見込みを示せば、銀行や投資家にも、客にも説明しやすい。
Sources / 参考情報
- PACE Nation(英文) - 米国最大の商業用PACEの案件:ヒルトン・ロサンゼルス/ユニバーサル・シティが700万ドルの改修を完了(PDF)(2014年)
裏付け: 23階建て・約500室・会議の場所3万2,000平方フィート・1983年、30年で改修が必要、PACEは100%まで・最長20年・帳簿の外・ノンリコース、長期の資金で深い改修が可能に・役員会が回収の長いエレベーターと制御に範囲を広げた、抵当より先に扱われ既存の銀行の同意が必要・ドイツ銀行に借り換え、ASHRAEレベル2の診断・2回の診断・第三者の確認、改修の一覧(エレベーター14台・ファンのモーター520台・450トンの冷凍機2台・浴槽とシャワー250・シャワーヘッド500など)、照明とガラスで50%減の見込み、水の1か月分、水道電力局8万ドル・125トンの冷凍機、40セント/平方フィートの控除、国の分約110万ドル、2014年初めに期限の税の優遇 - PRWeb(英文) - ヒルトン・ユニバーサル・シティが米国最大のPACEの案件を始める(2014年1月28日)
裏付け: 700万ドル、エネルギーの費用年80万ドル減・水年280万ガロン減の見込み、シャワーヘッド500個と浴槽250台、水の1か月分、補助と税の優遇約100万ドル、総支配人の「投資家に確かめられる情報」 - Daily News(英文) - ユニバーサル・シティのヒルトンが700万ドルの省エネ改修(2014年1月28日)
裏付け: 返済は固定資産税と一緒に年2回、水道代年2万8,000ドル減・エネルギー年80万ドル減の見込み - Facility Executive(英文) - ホテルの事例:歓迎される改修(2014年6月5日、Today's Facility Manager 2014年5月号)
裏付け: 1983年に建て翌年開業・約500室、機械の設備の多くは建てたまま、2013年8月に本格着工・11月完了・「10年分を3か月で」、電気代が月約3万ドル減、水は3年前の月500万ガロンから今は月250万ガロン、毎分1.2ガロンの水栓・1.7ガロンのシャワーヘッド・2回で流す量を選べるトイレ - 日本バルブ工業会 - 建築物エネルギー消費性能基準における節湯水栓の判断基準(PDF)
裏付け: 節湯B1は浴室シャワー水栓で吐水力の条件を満たすもの、毎分7・8.5・10リットルで測り8.5リットルのときの値、空気を混ぜない構造0.60ニュートン以上・混ぜる構造0.55ニュートン以上 - 日本バルブ工業会 - 節湯水栓(節湯A1/B1/C1)について(PDF)
裏付け: 浴室シャワー水栓の節湯B1は従来の水栓に対して15%削減、削減量は住宅の条件(東京4人世帯・床面積120平方メートル)で試算