GOAL 12 · TARGET 12.5 廃棄物・循環経済 5分 / 2992文字 数字の出どころを読む型 #485

「年2,400ユーロの節約」は、この宿の数字ではなかった:ブルガリアの小さなホテル「シャトー・モンターニュ」のリネンの再利用を、元の資料までたどる

ブルガリア中部の山あいの町、トロヤン。3つ星の家族経営のホテル「シャトー・モンターニュ」は、連泊の客のシーツとタオルを、毎日ではなく、客が望むときに替える仕組みを入れた。

この取り組みは、欧州委員会が支える企業連携のウェブサイトで、「ブルガリアのホテルが、リネンの取り組みで年約2,400ユーロを節約」という見出しで紹介されていた。ところが、元の資料までたどると、2,400ユーロは、このホテルの数字ではなかった。

タオルとシーツの再利用は、#247で客の参加率を、#263で清掃を頼んだ日だけにする実験を紹介した。この記事では、どの数字がどの宿のものかを、資料をたどって確かめる。

どんなホテルか

ブルガリアなどの団体がまとめた教材のサイト「グリーン・アイデアズ・フォー・ツーリズム」(EUのエラスムス・プラスの事業)によると、ホテルは2007年の初めに開業した町なかのホテルで、ベッドは合わせて60ある。レストラン、ロビーのバー、フィットネス、プール、サウナがあり、会議室もある。

山あいの土地で、夏は30度を超え、冬は零下20度まで下がることがある、とサイトは書いている。

このホテルがしたこと

同じサイトの事例のページによると、ホテルの取り組みは次のとおりだ。

  • 客室のシーツとタオルを、客の希望で替える仕組みにし、その案内の札を置いた
  • タオルは、替えてほしいものを床に置いてもらう。置かれていないタオルは、もう1日使う
  • 空いている客室のテレビとミニバーを、従業員が切る
  • 給湯と暖房の湯は、屋根の太陽熱のパネルでつくる

このホテルの数字

事例のページは、シーツとタオルの取り組みの効果を、次のように書いている。

  • シーツとタオルの交換が25%減った
  • 費用:案内の印刷物に年80レフ、作業に年30時間
  • 節約:年518ユーロ(1,013レフ)

同じページには、空いている客室のミニバーを切る取り組みも載っている。電気が年2万9,946キロワット時減り、作業に年40時間をかけて、年759ユーロの節約になったという。

2,400ユーロは、どこから来たか

企業連携のサイトの記事は、出典として、同じ教材のサイトの「リネンの再利用の取り組みと、洗濯物を減らす方法」という、よい取り組みの解説のページを挙げている。そのページを読むと、2,400ユーロは、次のような「例」として書かれている。

  • 稼働率75%で1年中営業し、1室1泊に4キログラムの洗濯物、洗濯の外注が1キログラム0.5ユーロの客室なら、1室の年の洗濯代は479ユーロ
  • 100室のホテルなら、年4万7,900ユーロ
  • 再利用の率が5%だけでも、年約2,400ユーロの節約になる

つまり、2,400ユーロは「100室のホテル」の一般の例だ。企業連携のサイトは、これを「ホテルによると」と書き、見出しでブルガリアのホテルの節約として紹介していた。60ベッドの小さなホテルが、100室の例と同じ節約をしたわけではない。

ほかの数字も、一般論だった

企業連携のサイトの記事にある、次の数字も、元の解説のページでは一般論として書かれている。

  • 4キログラムの洗濯物を洗うには、最大60リットルの水が要る
  • すすめれば、客の70%がこの取り組みに前向きに応じる
  • 連泊の客のシーツとタオルは、週1〜2回か、客の希望のときだけに減らせる

このホテルの数字として確かなのは、事例のページにある「交換25%減」と「年518ユーロ」だ。

例の計算も、確かめてみる

解説のページの例を、計算し直してみる(InnBuddyによる計算)。

  • 0.75×365日×4キログラム×0.5ユーロ=約547.5ユーロ
  • 解説のページの479ユーロとは合わない(3.5キログラムで計算すると約479ユーロになるが、理由は書かれていない)
  • 4万7,900ユーロ×5%=2,395ユーロで、「約2,400ユーロ」は合っている

数字が引用されるたびに、元の前提が落ちていく。「例」が「事例」になり、「100室」が消えて、小さなホテルの実績のように見えてしまう。

解説のページが勧める、成功の条件

数字は一般論でも、解説のページの中身は役に立つ。成功のための三つの要点として、次を挙げている。

  • 客に、はっきりした案内と手順を示す
  • 使いやすい大きさのタオル掛けを付ける(客がタオルを掛けることが、再利用の合図になる)
  • 従業員を訓練する(掛けてあるタオルを、新しいものに替えてしまわないように)

さらに、客は、ホテルの費用の節約ではなく、環境を守るための取り組みだと思うときに参加しやすい、と書いている。洗濯で浮いたお金を環境の取り組みに使い、それを客に伝えるのが、いちばんよいやり方だという。

日本の宿に置き換えると

日本では、連泊の客のシーツを替える間隔に、決まりがある。#344で紹介したとおり、厚生労働省の「旅館業における衛生等管理要領」は、同じ宿泊者なら、寝衣は毎日、シーツなどほかのものは少なくとも3日に1回取り替えるよう定めている。解説のページの「週1〜2回」は、日本ではシーツについてそのままは使えない。

もう一つ、日本の宿で節約の大きさを考えるときに効くのが、稼働率だ。観光庁の宿泊旅行統計調査によると、2025年の客室の稼働率(確定値)は、全体で61.6%だった。施設のタイプで大きく違う。

  • ビジネスホテル:75.3%
  • シティホテル:74.1%
  • リゾートホテル:56.9%
  • 旅館:38.2%
  • 簡易宿所:29.6%

再利用の節約は、客が泊まった室数に比例する。同じ取り組みでも、稼働率が半分なら、節約もおよそ半分になる。100室・稼働率75%の例の数字を、そのまま自分の宿に当てはめることはできない。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)

20室の宿で、1室1泊のリネンの費用(洗濯と交換の手間)を400円とする。シャトー・モンターニュと同じように、交換の回数が25%減ったとする。

稼働率で、節約の大きさが変わる

  • 稼働率75.3%(ビジネスホテルの平均):年約5,497室泊。節約は5,497×400円×25%=約55.0万円
  • 稼働率56.9%(リゾートホテルの平均):年約4,154室泊。約41.5万円
  • 稼働率38.2%(旅館の平均):年約2,789室泊。約27.9万円

連泊の割合と、3日に1回の決まり

交換を減らせるのは、連泊の2泊目からだけだ。1泊の客が多い宿では、25%減は難しい。日本では、シーツは少なくとも3日に1回替えるので、3泊なら交換を省けるのは最大で2回分になる。

自分の宿の数字で計算するには、次の三つを記録したい。

  • 1年の室泊の数
  • そのうち、連泊の2泊目以降の割合
  • 1室1泊のリネンの費用(外注の単価と、交換の作業の時間)

数字を使う前に、元の資料までたどる

シャトー・モンターニュの本当の数字は、交換25%減、年518ユーロという、小さなホテルらしい控えめなものだった。案内の印刷物と年30時間の作業で、それだけの節約ができたことには、十分な意味がある。

宿が他の宿の事例を参考にするときも、自分の取り組みを伝えるときも、その数字が誰の、どんな前提の数字かを確かめたい。大きな数字より、たどれる数字のほうが、信頼される。

持ち帰れる知識

  • 「年2,400ユーロ」は、100室のホテルの一般の例で、このホテルの数字ではない
  • このホテルの数字は、交換25%減と年518ユーロ
  • 解説のページの例の計算は、4キログラムでは479ユーロにならない
  • 日本では、同じ宿泊者のシーツは少なくとも3日に1回替える
  • 再利用の節約は、稼働率と連泊の割合で大きく変わる

宿で考えられること

  • 他の宿の事例の数字は、元の資料までたどって確かめる
  • 室泊の数、連泊の割合、1室1泊のリネンの費用を記録する
  • タオル掛けと案内を整え、従業員の手順をそろえる
  • 浮いたお金の使い道を、環境の取り組みとして客に伝える

事業・予約への接続

リネンの再利用は、客の協力で成り立つ。費用の節約ではなく、環境の取り組みとして、たどれる数字と一緒に伝えると、客の参加も、取引先の信頼も得やすい。

Sources / 参考情報

  • Green Ideas for Tourism(英文) - ホテル・シャトー・モンターニュ(事例)(エラスムス・プラスの事業、2016年)
    裏付け: 2007年の初めに開業、トロヤンの中心部、3つ星の家族経営、60ベッド、設備、夏は30度超・冬は零下20度、テレビとミニバーを切る、タオルは床に置いたものだけ替える、太陽熱の給湯と暖房、希望で替える仕組みと案内の札、交換25%減、印刷物年80レフ・年30時間、年518ユーロ(1,013レフ)、ミニバーで年2万9,946キロワット時・40時間・759ユーロ
  • Green Ideas for Tourism(英文) - リネンの再利用の取り組みと、洗濯物を減らす方法(よい取り組み)
    裏付け: 4キログラムに最大60リットル、週1〜2回か希望のとき、すすめれば70%が応じる、三つの要点(案内・タオル掛け・従業員の訓練)、環境のためと思うと参加しやすい・浮いたお金を環境の取り組みに、例(稼働率75%・4キログラム・0.5ユーロで479ユーロ、100室で4万7,900ユーロ、5%で約2,400ユーロ)、この解説がシャトー・モンターニュの事例で使われた
  • 欧州クラスター連携プラットフォーム(英文、ウェブ・アーカイブ) - グリーンなリネンの取り組みの利点:ホテルの事例(2023年12月1日の保存版。現在のページはログインが必要)
    裏付け: 見出し「ブルガリアのホテルが年約2,400ユーロを節約」、「ホテルによると」として100室の例の計算を記載、約70%、出典はグリーン・アイデアズ・フォー・ツーリズムの解説のページ
  • 観光庁 - 宿泊旅行統計調査(2026年4月・第2次速報、2026年5月・第1次速報及び2025年年間値(確定値))(2026年7月6日)
    裏付け: 2025年の客室の稼働率は全体61.6%、旅館38.2%・リゾートホテル56.9%・ビジネスホテル75.3%・シティホテル74.1%・簡易宿所29.6%
  • 厚生労働省 - 旅館業における衛生等管理要領の一部改正について(PDF)(2026年1月20日)
    裏付け: 同じ宿泊者は、寝衣は毎日、シーツなどそのほかは少なくとも3日に1回取り替える

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