GOAL 6 · TARGET 6.4 水・衛生・循環 7分 / 4027文字 2つのホテルを比べる型 #486

器具を替えても、減らせる水は3割あった:シアトルの「ウエストコースト・グランド」で、節水の余地の9割が「保守と行動」だった理由

古いホテルは器具を替えれば水が減る。では、節水型の器具がすでにそろった新しいホテルには、もう減らす余地はないのだろうか。

米国シアトル市の公益事業局(SPU)が2002年7月にまとめた報告書「ホテルの節水:シアトルでの実証」は、この問いに一つの答えを出している。調べた2軒のどちらでも、減らせる水は今の使用量の約3分の1あった。ただし、その中身は正反対だった。

同じ報告書は、#354で、891室の「ウェスティン」が使い道を足し算して漏れを見つけた話として紹介した。この記事では、もう1軒の「ウエストコースト・グランド」を中心に、器具ではなく保守と行動で水を減らす道を読む。

2つのホテルの違い

報告書によると、実証は1999年4月から2001年4月まで行われた。参加したのは次の2軒だ。

  • ウェスティン:1961年と1980年に建てた2つの塔に、合わせて891室。館内に洗濯場があり、宴会場やレストランも多い。8月の調査期間には1室1日約212ガロン(約802リットル)を使っていた
  • ウエストコースト・グランド:銀行の建物を1996年にホテルに改装した、20階建て・297室の建物。改装のときに、客室と共用部の器具をすべて当時の節水の基準に合わせた。館内に洗濯場はない。8月の調査期間には1室1日129ガロン(約488リットル)だった

報告書の結論は、こうだ。古いウェスティンでは、見込んだ節約の9割近くが、トイレや製氷機、洗濯の機械を替える「設備の対策」だった。一方、事務所の建物から改装したウエストコースト・グランドでは、9割近くが「行動の対策」で、その中心は冷暖房の機器の保守と運転だった。

客室は、もう節水型だった

ウエストコースト・グランドでは、4つの客室(すべて客がいた部屋)の給水管に記録計をつけ、10秒ごとに24時間以上、水の流れを記録した。1室1日の使い方は次のとおりだ。

  • トイレ:1日7回、1回1.6ガロン(約6リットル)で11.2ガロン
  • 洗面台:1日1分、毎分2.5ガロンで2.5ガロン
  • シャワー:1日12分、毎分2.5ガロンで30ガロン
  • 合計:1室1日43.7ガロン(約165リットル)

トイレは低水量型で、明け方4時ごろの流量も低く、トイレの漏れは大きな問題ではないと報告書は見た。トイレとシャワーには、替える提案をしていない。

記録した水の約4割は、行き先が分からなかった

ところが、客室の階に水を送る高圧の系統全体を記録すると、話が変わった。8月初めの1日の記録は2万8,411ガロン(約107.5立方メートル)だった。そこから、客室の水、冷却塔、製氷機の分を差し引くと、1万1,596ガロン(約43.9立方メートル)が説明できずに残った。記録した量の約4割、1室あたり約39ガロンにあたる。

この水は、主に夜8時半から11時半のあいだに流れていた。報告書は、最も疑わしいものとして、暖房用の蒸気の熱交換器を挙げている。この熱交換器への水は、同じ高圧の系統から取っていたからだ。

見えないところで流れていたお湯

このホテルは、市の蒸気会社から蒸気を買い、暖房と給湯の熱にしていた。技術スタッフによると、蒸気の熱交換器の不具合がくり返し起き、そのたびに、ときには毎日のように、何千ガロンものお湯が下水に捨てられていた。正確な量は分からないが、水道、下水、エネルギーの費用が重なるので、ホテルの負担は大きいと報告書は見ている。

提案は、熱交換器への給水管に子メーターをつけ、定期的に読んで記録し、必要なら修理するというものだ。公益事業局は、暖房用の熱交換器につける子メーターを、ホテルに渡している。見込んだ節約は、平均で1日最大5,000ガロン。エネルギーを含めれば年に数万ドルになりうる、と報告書は書いている。

冷却塔は、壊れた制御器のまま動いていた

もう一つは冷却塔だ。冷却塔の水は差し引き用のメーターで測られていて、毎年6月がいちばん多く、1日8,200〜1万1,350ガロン、ホテル全体の24〜33%を占めていた。

調査チームが冷却塔の水を測ると、濃縮倍数は3.3で、最適な値よりかなり低かった。水の電気の通りやすさを測って排水を調節する制御器が、動いていなかったのだ。報告書は、制御器を新しくして濃縮倍数を10にし、少なくとも月に1回、水の量と電気の通りやすさを記録するよう勧めた。冷却塔の水は25〜50%減り、費用は約1,000ドル、回収は1年未満と見込んでいる。濃縮倍数の測り方は、#482で詳しく紹介した。

9つの提案

報告書がウエストコースト・グランドに出した提案は、次のとおりだ。

行動と保守の対策(6つ、合わせて1日8,000ガロン超、年間の使用量の約30%)

  • 蒸気の熱交換器を子メーターで見張り、修理する:最大で平均1日5,000ガロン
  • 冷却塔の制御器を替え、濃縮倍数を上げる:夏の繁忙期に1日1,150〜2,300ガロン
  • 食器洗浄機のすすぎの水圧を確かめ、子メーターで見張る:効果は今後確かめる
  • 厨房の働く人に、流水での解凍や米のとぎ方などを教える:1日1,000ガロン、年約3,000ドル
  • 客室の清掃で、トイレを流す回数を1回減らす:1日350ガロン、年約1,000ドル
  • 飲み水と氷は、頼まれたときだけ出す:1日250ガロン、年約700ドル

設備の対策(3つ、合わせて1日1,340ガロン、年間の使用量の約5%)

  • 客室の階の水冷式の製氷機7台を、空冷式に替える:1日1,000ガロン。1台3,500ドルから補助300ドルを引いて計2万2,400ドル、回収7.5年
  • 厨房の予洗いのシャワーを、毎分4ガロンから2.5ガロンに替える:40ドル、回収約1か月
  • 客室の洗面台の泡沫器を毎分1.5ガロンに替える:594個で1,118ドル、回収1年

清掃と、宴会の水

清掃の様子も、調査チームが、ある朝、清掃の担当者について回って確かめた。報告書によると、ホテルの清掃の担当は50人で、2000年に8万3,037室を清掃した。1室を30分以内に、最大20の手順で仕上げる。

清掃で使う水は、もともと少なかった。ただ、トイレは洗剤をかける前と後で2回流していた。部屋に入ったときに便器がきれいなら、最初の1回は要らない。洗剤を先にかけておけば、ほかの作業のあいだに洗剤が働くので、刺激の弱い洗剤を使えるという。

宴会では、12オンスのグラスを8オンスのグラスに替え、テーブルごとに水差しを置くようにした。飲食の責任者は、これで水の使用がかなり減ったと話している。

日本の宿に置き換えると

日本の宿が自分の水の量を考えるとき、手元にある数字は二つある。

一つは、設計の数字だ。福岡市水道局の給水装置工事施行基準(令和8年4月)は、空気調和・衛生工学便覧の第14版をもとに、建物の種類ごとの単位給水量を示している。ホテル全体で1床1日500〜6,000リットル、ホテルの客室部だけなら350〜450リットルだ。ただし、表の注は、これが設計のための水量で、年間の1日平均ではないと書いている。空調の水やプールの水なども、別に足すことになっている。設計の数字は、管の太さを決めるためのもので、自分の宿が多いか少ないかを測る物差しではない。

もう一つは、実際に測った数字だ。空気調和・衛生工学会の2016年の大会で発表された調査は、全国の温泉旅館38軒の水の使用量を、2011年から2015年にかけて1年ずつ記録した。分析した旅館の利用客1人あたりの平均は597.6リットルで、600リットル未満が49%、800リットル以上が21%だった。1人1,725.7リットルと1,672.7リットルの2軒は、ほかより極端に多く、漏水などが原因と考えられるとして、分析から外している。

同じ業態でも、宿によって水の量は大きく違う。そして、極端に多い数字の裏には、漏れや機器の不具合が隠れていることがある。ウエストコースト・グランドの夜の水と同じだ。

米国環境保護庁(EPA)の手引き「ウォーターセンス・アット・ワーク」は、施設の水の使い道を足し合わせて、使用量の10%を超える分が説明できないなら、配管や機器の漏れを疑い、さらに調べるよう勧めている。冷却塔の補給水のような、大きく水を使う機器には子メーターをつけ、読み取りを記録して、思いがけず多い使用を見つけるようにとも書いている。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)

20室の宿(稼働率70%、1日14室)で、水道のメーターの1日平均が10立方メートルだったとする。

使い道を足し算する

  • 客室:1室1日0.3立方メートル×14室=4.2立方メートル
  • 厨房:2.5立方メートル
  • 大浴場:2.0立方メートル
  • 合計:8.7立方メートル

メーターとの差は1.3立方メートルで、全体の13%になる。EPAの手引きの目安の10%を超えるので、夜間にメーターを読むなどして、どこで流れているかを調べる価値がある。

説明できない水の費用

1.3立方メートル×600円×365日=約28.5万円。水を温める機器の不具合なら、ここにエネルギーの費用が加わる。

清掃の1回分

清掃で流す回数を1室1回減らすと、1回6リットルとして、14室×6リットル=1日84リットル。1年で約30.7立方メートル、約1.8万円になる。金額は小さいが、費用はかからない。

器具の次は、機械室と手順を見る

ウエストコースト・グランドの客室は、すでに節水型だった。それでも、記録した水の約4割は行き先が分からず、節約の余地は使用量の約3分の1あった。その大半は、機械室の機器の保守と、働く人の手順で減らせるものだった。

器具を替え終えた宿こそ、次は子メーターと記録で、見えない水を探したい。

持ち帰れる知識

  • 節水型の器具がそろった建物でも、使用量の約3分の1を減らせる見込みがあった
  • 新しいホテルでは、節約の余地の9割近くが冷暖房の機器の保守と運転などの「行動の対策」だった
  • 熱交換器や冷却塔の不具合は、子メーターと定期的な記録で見つける
  • 設計の単位給水量は1日平均ではなく、宿の水の多さを測る物差しには使えない
  • EPAの手引きは、説明できない水が10%を超えたら漏れを疑うよう勧めている

宿で考えられること

  • メーターの数字を、客室・厨房・浴場などの使い道に分けて足し算する
  • 給湯や冷暖房の機器への給水に子メーターをつけ、読み取りを記録する
  • 清掃の手順で、トイレを流す回数を見直す
  • 飲み水や氷を出す場面を、客の求めに合わせる

事業・予約への接続

器具の更新を終えた宿でも、保守と手順で水と光熱費を減らせる。機械室の点検の記録を残しておくと、環境の取り組みを伝えるときにも、数字で説明できる。

Sources / 参考情報

  • Seattle Public Utilities(英文) - ホテルの節水:シアトルでの実証(PDF、ウェブ・アーカイブの保存版)(2002年7月)
    裏付け: 1999年4月〜2001年4月の実証、2軒が参加、ウェスティン891室・8月212ガロン、ウエストコースト・グランド8月129ガロン、節約の余地は約3分の1、ウェスティンは設備・ウエストコースト・グランドは行動が9割近く、銀行の建物を1996年に改装・20階・297室・器具を当時の基準に、4室を10秒ごとに記録・トイレ7回×1.6ガロン・洗面1分×2.5ガロン・シャワー12分×2.5ガロン・43.7ガロン、明け方4時の低い流量、2万8,411ガロン・1万1,596ガロン・39ガロン・夜8時半〜11時半・暖房の熱交換器が疑わしい、蒸気の熱交換器の不具合で何千ガロンのお湯を下水へ・子メーターを提供、冷却塔は6月に1日8,200〜1万1,350ガロン・24〜33%・濃縮倍数3.3・制御器が故障・10へ・25〜50%・1,150〜2,300ガロン・約1,000ドル、行動の6つの対策で8,000ガロン超・約30%(5,000・1,000・350・250ガロンほか)、設備の3つの対策で1,340ガロン・約5%(製氷機7台1,000ガロン・2万2,400ドル・7.5年、予洗い40ドル・約1か月、泡沫器594個1,118ドル・1年)、清掃50人・8万3,037室・最大20の手順・30分、トイレを2回流す・最初の1回は不要、宴会で12オンスから8オンスのグラスと水差し
  • U.S. EPA WaterSense(英文) - ウォーターセンス・アット・ワーク 2.2 漏れの発見と修理(PDF)(2023年11月)
    裏付け: 使い道を足し合わせて10%を超える水が説明できなければ漏れを疑い調べる、大きく水を使う機器に子メーター、読み取りを記録して思いがけず多い使用を見つける
  • U.S. EPA WaterSense(英文) - ウォーターセンス・アット・ワーク 2.1 メーターと子メーター(PDF)(2023年11月)
    裏付け: 冷却塔の補給水と排水の管に子メーター、年10万ガロン以上の冷暖房の系統、1日1,000ガロンか年10万ガロン以上のほかの工程にも子メーター
  • 福岡市水道局 - 給水装置工事施行基準 第5章 給水装置の計画(PDF)(令和8年4月)
    裏付け: ホテル全体1床500〜6,000リットル・ホテル客室部350〜450リットル・使用時間12時間、単位給水量は設計対象給水量で年間1日平均給水量ではない、空調用水・プール用水などは別途加算、空気調和衛生工学便覧第14版による
  • 空気調和・衛生工学会(J-STAGE) - 温泉旅館の水光熱使用量とCO2排出量の実態(第1報)水光熱使用量の実態と分析(PDF)(2016年の大会の講演論文)
    裏付け: 全国の温泉旅館38軒・2011〜2015年に1年ずつ記録、利用客1人あたり平均597.6リットル、600リットル未満49%・800リットル以上21%、1,725.7リットルと1,672.7リットルの2軒は漏水などが原因と考えられ対象外

関連する記事