洗面とシャワーの排水は、水と熱を運んでいる:マヨルカ島のホテルの「水を使い直す」記録に、「熱を取り出す」研究と日本の温泉の排湯を重ねる
洗面台とシャワーから流れる水は、少し汚れているだけで、まだ使える。スペイン・マヨルカ島のホテルは、この水をトイレの洗浄に使い直した。
ただ、シャワーの排水が運んでいるのは、水だけではない。温かさ、つまり熱も一緒に流れていく。
マヨルカ島のホテルの記録は、#322で回収の年数と塩素の扱いを、#401でバルセロナの条例と比べる形で紹介した。この記事では、同じ排水に含まれるもう一つの資源、熱に目を向ける。
マヨルカ島のホテルの記録
学術誌「デサリネーション」の2004年4月15日号に載った論文(マーチほか)の要旨によると、ホテルの中に、洗面とシャワーの水(グレーウォーター)を集めて、トイレを流す水にする仕組みをつくった。
- 処理:ろ過、沈殿、次亜塩素酸塩による消毒
- 使い直した水:1日平均5.2立方メートルで、ホテル全体の水の使用量の23%
- 消毒:塩素を1リットルあたり75ミリグラム加え、ためる時間を48時間未満に抑えた
- 結果:トイレのタンクの水の残留塩素は1リットルあたり1ミリグラムを超え、大腸菌群の検査はすべて陰性
- 客の受け止め方は、はっきりと良好だった
論文は、維持管理の計画と経済性の評価も示し、ホテルでグレーウォーターをトイレに使い直したデータを報告した最初の論文だとしている。
排水の温度は30〜40度
この論文の要旨は、水の量と衛生を扱っていて、温度には触れていない。
ポーランドの研究者が2025年に学術誌「エナジーズ」に発表した論文によると、シャワーの排水の温度は30〜40度ある。そのため、建物の排水から熱を取り出す仕組みでは、シャワーの排水が最もよく熱源に使われる、と書いている。
同じ論文は、次のような点も挙げている。
- グレーウォーターは、天気に関係なく毎日出るので、太陽や地中の熱と違い、天候に左右されない
- EUは、2018年にグレーウォーターを再生可能エネルギーの技術として正式に認めた
- それでも、熱源としての可能性のうち使われているのは10〜20%だけで、多くの建物では排水の熱は取り戻せないまま捨てられている
熱を取り出す、2つの形
排水の熱を取り出す熱交換器(DWHR)は、排水と、これから温める冷たい水を、管の中で逆向きに流して、熱を移す。同じ論文は、2つの形を比べている。
- 縦型(管の中に管を通す形):市販の装置。試験では、お湯をつくるエネルギーを最大64.7%減らした。ただし高さが最大2メートルになり、既存の建物に入れるには大きな工事が要ることが多い
- 横型(新しい形の試作品):試験では最大29.6%減。背が低く、既存の建物に組み込みやすいが、熱を取り戻す効率は縦型より低いのが一般的
どれだけ減るかは、シャワーの流量や、混ぜたお湯の温度で変わる、と論文は書いている。
ホテルは、熱を取り出しやすい
ホテルについては、別の研究がある。学術誌「サイエンス・オブ・ザ・トータル・エンバイロメント」に2021年に載った論文(サイエグほか)の要旨によると、ホテルは1年中お湯を使い続けるので、排水から熱を取り出す仕組みに向いている。研究者は、ポーランドのホテルでの省エネルギーの可能性として、これを最も有望なものだとしている。
論文は、ポーランドの典型的なホテルで、洗面台とシャワーの排水から熱を取り出す仕組みを、縦型と横型の熱交換器で計算した。給水の温度、1日のお湯の使い方、ホテルの大きさなどを変えて計算し直した結果、エネルギーの需要と二酸化炭素の排出を27.3%減らせるとしている。
マヨルカ島のホテルが使い直した水と、この研究が熱を取り出した水は、どちらも洗面台とシャワーの排水だ。同じ排水が、水としても、熱としても使える。
水と熱、両方を使うには
エナジーズの論文によると、住宅では、熱交換器はシャワーの排水の出口に付けることが最も多い。排水は熱交換器を通ったあとも、そのまま流れていく。仕組みの上では、熱を取り出したあとの排水をためて、トイレに使い直すことも考えられる。
ただし、ここで紹介した論文には、両方を組み合わせて測った例は書かれていない。組み合わせるなら、配管の取り回しや、ためる水の衛生の管理を、設計の段階で考える必要がある。
日本の宿に置き換えると
日本の宿には、排水の熱を取り出す、身近な例がある。温泉の排湯だ。
環境省の「温泉熱有効活用に関するガイドライン」(改訂版、2025年3月)は、温泉の熱の量を、流量と温度の差で考えるよう説明している。例として、60度の温泉を45度で浴用に使い、38度の排湯を流している施設で、外の気温が8度(北関東を想定)なら、排湯にはまだ約30度分の熱が残っている。ガイドラインは、こうした熱は寒い地域や冬ほど効果が大きいとしている。
一方で、注意点も挙げている。浴場が分かれていると、熱源と排湯の通り道が近くないと使いにくい。シャワーなどの給湯の予熱に使う場合は、点検のときや温泉の温度・流量が変わったときに備えて、ボイラーなどの予備の熱源を考えておく必要がある。
環境省の温泉熱利用の事例集は、群馬県みなかみ町の温泉旅館「別邸仙寿庵」を紹介している。
- 以前は、使わない温泉を川に流す一方で、給湯や温泉の加温に灯油を使っていた
- 光熱費を下げようと、設備の維持管理の会社に相談したことがきっかけになった
- 浴用に使った余りの排湯から、熱交換器とヒートポンプで熱を取り出し、水道の水の予熱と給湯、温泉の加温に使っている
- 温泉熱の利用は2022年2月に始まり、総事業費は5,000万円
- 二酸化炭素の削減は年約89.5トン相当(補助事業の実績報告書による)。費用の削減は効果を測定中
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
温泉のない20室の宿(稼働率70%、1日14室、1室2人)で、シャワーの排水の水と熱を、それぞれお金に換えてみる。
水として使い直す
- トイレの水:1人1日5回×6リットル×28人=1日約0.84立方メートル
- シャワーの排水がこれより多ければ、トイレの水はすべてまかなえる
- 1立方メートル600円なら、年約18.4万円
熱として取り出す
- シャワーの水:1人1日50リットル×28人=1日1.4立方メートル
- 熱交換器で、これから温める水を15度から23度に、8度上げられるとする
- 取り出す熱:1,400キログラム×8度×4.2キロジュール=約4万7,000キロジュール=1日約13.1キロワット時
- 1年で約4,770キロワット時
電気ヒーターでお湯をわかしている場合(1キロワット時30円)は年約14.3万円、ヒートポンプでわかしていて、効率が3倍とする場合は年約4.8万円になる。
この仮定では、水として使い直す価値と、熱として取り出す価値は、同じくらいの大きさになる。どちらが大きいかは、水道料金、お湯をわかす方法、そして配管を通せるかどうかで変わる。
排水を見るときは、温度計も持つ
マヨルカ島のホテルの記録は、洗面とシャワーの水がトイレの水になることを示した。その同じ排水には、30〜40度の熱も乗っている。
排水を「捨てるもの」から「資源」として見直すとき、量だけでなく温度も測っておきたい。温泉の宿なら、排湯の温度は、もう一つの燃料になりうる。
持ち帰れる知識
- 洗面とシャワーの排水は、水としても熱としても使える
- シャワーの排水は30〜40度あり、排水の熱を取り出す仕組みの主な熱源になる
- 縦型の熱交換器は効率が高いが背が高く、横型は組み込みやすいが効率が低い
- ホテルは1年中お湯を使うので、排水の熱を取り出す仕組みに向いている
- 温泉の熱は、流量と温度の差で考え、寒い地域や冬ほど効果が大きい
宿で考えられること
- シャワーや浴場の排水の量と温度を、季節ごとに測る
- 水の再利用と熱の回収を、水道料金とお湯の燃料の両方で比べる
- 温泉の宿なら、排湯の温度と、熱源と排湯の通り道を確かめる
- 予熱に使う場合の、予備の熱源を決めておく
事業・予約への接続
排水の熱を使う取り組みは、客からは見えにくい。「捨てていた温泉の熱で、お湯をわかしています」のように、何を何に使ったかを短く伝えると、宿の姿勢が伝わる。
Sources / 参考情報
- Desalination(英文、ScienceDirect) - ホテルでのトイレ洗浄へのグレーウォーター再利用の経験(スペイン・マヨルカ島)(2004年4月15日、第164巻3号)
裏付け: ろ過・沈殿・次亜塩素酸塩による消毒、1日平均5.2立方メートル・全体の23%、塩素75ミリグラム・48時間未満、残留塩素1ミリグラム超、大腸菌群はすべて陰性、維持管理の計画と経済性の評価、客の受け止めは良好、ホテルでのトイレ洗浄への再利用を報告した最初の論文 - Energies(英文、MDPI) - 排水の熱回収の仕組みによる建物の省エネルギーと温室効果ガスの削減:技術、費用、環境の面から(2025年9月9日)
裏付け: シャワーの排水は30〜40度で最もよく熱源に使われる、天候に左右されない、EUが2018年に再生可能エネルギーの技術と認めた、可能性の10〜20%しか使われていない、逆向きの流れで熱を移す、住宅ではシャワーの排水の出口に付けることが最も多い、横型の試作品は最大29.6%・縦型の市販品は最大64.7%減、縦型は高さ最大2メートルで既存の建物には大きな工事、横型は組み込みやすいが効率は低い、シャワーの流量と混ぜたお湯の温度で変わる - Science of the Total Environment(英文、PubMed) - ホテルのグレーウォーターによる環境と省エネルギーの可能性(2021年3月20日、第761巻)
裏付け: ホテルは1年中お湯を使うので排水の熱回収に向く、ポーランドのホテルで最も有望、洗面台とシャワーの排水、縦型と横型の熱交換器、給水の温度・お湯の使い方・ホテルの大きさなどを変えて計算、エネルギーの需要と二酸化炭素を27.3%削減 - 環境省 - 温泉熱有効活用に関するガイドライン【改訂版】(PDF)(令和7年3月)
裏付け: 熱量は流量と温度差で決まる、温泉60度・浴用45度・排湯38度・外気8度(北関東)の例で排湯から外気まで約30度、寒冷地や冬期ほど効果が大きい、排湯利用は熱源位置と排湯ルートが近接している必要、給湯のプレヒートでは予備の熱源の検討が必要 - 環境省 - 温泉熱利用事例 別邸仙寿庵(PDF)
裏付け: 株式会社旅館たにがわ・群馬県みなかみ町、グリーンキーを取得した温泉旅館、かつては未利用の温泉を川に放流し灯油で給湯と加温、維持管理会社への相談がきっかけ、浴用の余りの排湯を熱交換器とヒートポンプで上水予熱・給湯・温泉の加温に、2022年2月開始、総事業費5,000万円、二酸化炭素約89.5トン相当の削減(補助事業実績報告書による)、費用の削減は効果測定中