GOAL 6 · TARGET 6.4 水・衛生・循環 5分 / 3237文字 数字の旅をたどる型 #490

「年2,600万ガロン」は、いつ、どこの数字か:米国の「カラハリ・リゾーツ」の洗濯の水の再利用を、2008年の発表から今のページまでたどる

米国の大型の屋内ウォーターパークを持つリゾート「カラハリ・リゾーツ」のウェブサイトには、今も「洗濯の水の再利用の装置で、年2,600万ガロンの水を節約する」と書かれている。

この数字は、2008年の発表に出てきたものだ。その後17年以上、さまざまな記事やページに引き継がれてきた。たどってみると、数字は同じでも、主語と時制が少しずつ変わっていた。

洗濯の排水を使い直す同じメーカーの装置は、#487で、ヒルトンの集中ランドリーが下水管の限界から選んだ例として紹介した。この記事では、一つの数字が、見込みから実績のように変わっていく道筋を読む。

2008年4月:稼働の前の見込み

米国の業界紙「グリーン・ロッジング・ニュース」の2008年4月24日の記事によると、カラハリ・リゾーツは、アクアリサイクル社の洗濯の水の再利用とろ過の装置を入れると発表した。洗濯の水の70%を使い直せるという。

対象は、ウィスコンシン州ウィスコンシン・デルズの740室のホテルと、オハイオ州サンダスキーの884室のホテル、そして将来の3つ目のリゾート(バージニア州フレデリックスバーグ)だ。装置は6月1日までに動き始める予定で、カラハリは次の効果を見込んでいた。

  • 飲み水を年2,600万ガロン(約9万8,400立方メートル)節約する
  • 下水に流す水を年2,600万ガロン減らす
  • 下水処理場に流れる有機物(全有機炭素)を年8,400ポンド(約3.8トン)超減らす
  • 二酸化炭素に換算して400トン超の温室効果ガスを減らす
  • 水道と下水の費用を70%、エネルギーの費用を最大50%減らす

ここで押さえておきたいのは、三つの点だ。どれも、装置が動く前の「見込み」だった。2つのリゾートを合わせた数字で、それぞれの内訳は書かれていない。そして、それぞれの数字の計算の前提も示されていない。

同じ記事によると、ウィスコンシンのリゾートには、州で最大の、103枚のパネルの太陽熱の給湯の設備がすでにあった。年約1万1,800サームの熱で、洗濯場で使うお湯の60%を温めているという。

2009年3月:1年後の取材

約1年後、米国の雨水と排水の業界誌「ストームウォーター・ソリューションズ」の2009年3月1日の記事が、サンダスキーのリゾートを取り上げた。

記事によると、サンダスキーのリゾートは、2008年5月からこの装置を使っていた。費用は約25万ドル。カラハリの最高執行責任者のヨーゼフ・ハースさんは、装置でパークの水の使用量が55〜58%減ると見込んでいると話している。

洗濯の量も伝えている。忙しい週末には、プールのタオルだけで約1万枚を洗う。客室のタオルは、これに含まれていない。

そしてハースさんは、こう続けている。装置が宣伝どおりに動くかどうかを見て、ほかのリゾートにも入れるかを決める。「これだけのお金をかけるのだから、確実に動くことを確かめたい」。

2008年の発表では2つのリゾートが対象だったが、2009年の取材の時点では、ほかのリゾートへの導入は、まだ決まっていなかったことになる。

2012年以降:主語と時制が変わる

その後の文章では、同じ2,600万ガロンが、少し違う形で出てくる。

  • 2012年1月24日、石けんの寄付の団体「クリーン・ザ・ワールド」のブログ:「ウィスコンシン・デルズの施設は、洗濯の水の70%を使い直す装置に投資し、年2,600万ガロンを節約している」
  • カラハリのウェブサイトの環境の取り組みのページ(現在):「洗濯の装置は、年2,600万ガロンの水を節約する(will conserve)」と、今も未来形で書いている
  • 会議の専門家の団体MPIのニュージャージー支部のブログ:「洗濯の水を年2,600万ガロン以上取り戻している」

2008年の「2つのリゾートを合わせた見込み」は、2012年のブログでは「ウィスコンシン・デルズの施設の節約」になり、別のブログでは「毎年、取り戻している」という実績のような書き方になった。一方、カラハリ自身のページは、今も「節約する」という見込みの形のままだ。

社会的責任のページでは

カラハリの社会的責任のページの「水の節約」の項目は、低流量のシャワーヘッドで年250万ガロンを節約すること、オゾンを使う洗濯の仕組み、省エネの食器洗浄を挙げている。ウィスコンシン・デルズのリゾートには屋上に4,160平方フィートの太陽のパネルがあり、客室のお湯を温めるのに役立てているとも書いている。このページの水の項目には、洗濯の水の再利用の装置は出てこない。

同じシャワーヘッドの節約は、MPIの支部のブログでは年246万ガロンと書かれている。

装置が今どうなっているか、実際に何ガロンを節約したかは、公開された資料からは確かめられない。確かなのは、2008年に見込みが発表され、少なくともサンダスキーでは2008年5月から使われていたことだ。

「400トン」は、水だけの数字ではない

2008年の発表の、温室効果ガス400トン超という見込みにも、内訳は書かれていない。

洗濯の水を使い直すと、減るものは二つある。水道の水をつくって届けるためのエネルギーと、洗濯のお湯をわかすエネルギーだ。メーカーは、使い直した水はすでに温かいので、わかすエネルギーが減ると説明している。発表が水だけでなく「エネルギーの費用を最大50%」減らすとしているのも、このためだ。

日本の宿に置き換えると

日本で、水を減らしたときの二酸化炭素を考える手がかりの一つが、水道局の公表している数字だ。

東京都水道局によると、東京の水道水は、配水量1立方メートルあたり二酸化炭素203グラム(2024年度の実績)だ。過去の値は、2021年度が235グラム、2022年度が239グラム、2023年度が257グラムで、年によって変わる。水道局は、この数字は水を取り入れてから配るまでの分で、下水の処理にかかる分は含まれていないと説明している。

つまり、水道の水を減らしたときの二酸化炭素を、この数字だけで計算すると、下水の処理の分と、お湯をわかす分は入らない。何をどこまで数えたかを書いておかないと、数字は比べられない。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)

仮に、2,600万ガロンに東京の水道の数字を当てはめると

約9万8,400立方メートル×203グラム=約20トン。発表の400トンのごく一部だ。米国の水道と東京の水道は違うので、あくまで「水道の水だけなら、この程度の大きさ」という目安だ。

20室の宿の洗濯で考える

20室の宿(稼働率70%、1日14室)が、館内で1日42キログラムのリネンを洗い、1キログラムに25リットル、年約383立方メートルの水を使うとする。

  • 水道の水の二酸化炭素:383立方メートル×203グラム=約78キログラム
  • その水を15度から60度に温める熱:383立方メートル×45度×4.2メガジュール=約7万2,400メガジュール=約2万100キロワット時

水の量の二酸化炭素は小さく、お湯をわかすエネルギーのほうがずっと大きい。洗濯の排水を使い直すときも、温かい水を温かいまま戻せるかどうかが、効果の大きさを左右する。

自分の宿の数字を書くときは

  • 見込みか、測った実績か
  • どの施設の、いつからいつまでの数字か
  • 水道だけか、下水やお湯の分も含むか

この三つを、数字のそばに添えたい。

数字には、日付と主語をつける

カラハリの2,600万ガロンは、2008年に、2つのリゾートを合わせた、稼働前の見込みとして発表された。その数字が、17年のあいだに、1つの施設の、毎年の実績のように語られるようになった。

宿が自分の取り組みを伝えるときも、数字に「いつ」「どこの」「見込みか実績か」をつけておけば、あとで引用されても、意味が変わりにくい。

持ち帰れる知識

  • 年2,600万ガロンは、2008年の稼働前の、2つのリゾートを合わせた見込み
  • 2009年の取材では、導入が確かめられるのはサンダスキーだけだった
  • その後の文章で、数字の主語が1つの施設に、時制が実績に変わっていった
  • 東京の水道水の二酸化炭素は、1立方メートル203グラム(2024年度)で、下水の分は含まない
  • 洗濯の水では、水の量より、お湯をわかすエネルギーのほうが二酸化炭素への影響が大きい

宿で考えられること

  • 公表する数字に、見込みか実績か、どの施設の、いつの数字かを添える
  • ウェブサイトの環境の取り組みのページを、定期的に見直す
  • 水の削減の二酸化炭素を計算するときは、何を数えたかを書く
  • 洗濯の排水の温度を測り、熱を活かせないか考える

事業・予約への接続

環境の取り組みの数字は、取引先や客、報道に引用されて広がる。日付と前提をつけた数字は、引用されても意味が変わりにくく、宿の信頼を守る。

Sources / 参考情報

  • Green Lodging News(英文) - カラハリが、洗濯の水の再利用にアクアリサイクルを選ぶ(2008年4月24日)
    裏付け: 洗濯の水の70%を使い直す、薬品を使わないろ過・消毒・予熱した水、ウィスコンシン・デルズとサンダスキーと将来のフレデリックスバーグ、740室と884室、6月1日までに稼働の予定、年2,600万ガロンの節約・下水2,600万ガロン・全有機炭素8,400ポンド超・温室効果ガス400トン超・水道と下水の費用70%・エネルギー最大50%の見込み、2005年から省エネを検討・2006年の州の賞、103枚の太陽熱の給湯の設備・州で最大・年約1万1,800サーム・洗濯場のお湯の60%
  • Stormwater Solutions(英文) - どうぞ、水は大丈夫(2009年3月1日)
    裏付け: サンダスキーのリゾートが装置を使用、最高執行責任者がパークの水の使用量55〜58%減を見込む、忙しい週末にプールのタオル約1万枚・客室のタオルは含まない、費用約25万ドル、2008年5月から使用、宣伝どおりに動くかを見てほかのリゾートへの導入を決める
  • Clean the World(英文) - カラハリ・リゾーツが、クリーン・ザ・ワールドを支援(2012年1月24日)
    裏付け: ウィスコンシン・デルズの施設が洗濯の水の70%を使い直す装置に投資・年2,600万ガロンの節約
  • Kalahari Resorts(英文) - 環境の取り組み
    裏付け: 洗濯の装置は年2,600万ガロンの水を節約する(will conserve)、オゾンを使う洗濯の仕組み
  • Kalahari Resorts(英文) - 企業の社会的責任
    裏付け: 低流量のシャワーヘッドで年250万ガロン、オゾンを使う洗濯の仕組み、省エネの食器洗浄、ウィスコンシン・デルズのリゾートに4,160平方フィートの屋上のパネルで客室のお湯を温める
  • MPI New Jersey Chapter(英文) - カラハリ・リゾーツ&コンベンションズで、持続可能性と健康で会議を高める
    裏付け: 低流量のシャワーヘッドで年246万ガロン、洗濯の水を年2,600万ガロン以上取り戻している
  • 東京都水道局 - CO2計算ツール
    裏付け: 配水量1立方メートルあたり二酸化炭素203グラム(2024年度の実績)、2021年度235グラム・2022年度239グラム・2023年度257グラム、取水から配水までの分で下水の処理の分は含まない

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