「90万リットル」は、節約する量か、使う量か:霧で手を洗うノズル「オルタード」のホテル向け資料を、98%と6.6%から読む
スウェーデンの会社オルタードは、蛇口の先に付けるノズルをつくっている。水を細かい霧にして、少ない水で手を洗えるようにする製品だ。
会社は2020年11月18日付で、ホテル向けの白書(ホワイトペーパー)を出している。米国のホームセンターのサイトに置かれたその資料を最初から最後まで読むと、「98%」「90万リットル」といった大きな数字と並んで、「6.6%」という小さな数字が出てくる。
この記事では、宿の実例ではなく、製品の資料を読む。どの数字が、何と比べた、何の量なのかを確かめていく。
2つの吐水の仕方
白書によると、一般的な蛇口は1分間に10〜12リットルの水を出す。ノズルには2つの型がある。
- デュアルフロー:霧のモードは毎分0.22リットル、スプレーのモードは毎分1.8リットル。2バールの水圧から使える
- ドーム:毎分0.42リットル。1.5バールの水圧から使える
白書の脚注は、節水の割合は「毎分12リットルの標準の吐水口」と比べたものだと書いている。霧のモードの98%は、12リットルに対する0.22リットルの割合だ。
製品のページは、霧のモードで「98%の節約」、スプレーのモードで「通常の蛇口と比べて、なお85%の節約」としている。取り付けの時間は、製品のページでは「60秒」、白書では「30秒」と書かれている。
数字は、版によって変わる
2016年9月12日の米国の技術ニュースサイト「ニューアトラス」の記事は、当時クラウドファンディングで支援を募っていたこの製品を紹介している。そこでは、霧のモードは毎分0.18リットルで、何も付けない蛇口の約2%。もう一つのモードは毎分3リットルだった。霧のモードでコップに水をくむと、2〜3分かかるとも書いている。
2020年の白書では、霧は毎分0.22リットル、スプレーは毎分1.8リットルだ。同じ製品の名前でも、いつの版の数字かで値が違う。
1日の数字か、1滞在の数字か
白書は、ホテルの水の使い方を次のように説明している。
- ホテルの水のうち、客室で使う分が30%、洗面台の分が7.23%
- 1回の滞在で300〜600リットルを使い、蛇口で使うのは1日30〜45リットル
- 85〜98%を節約すれば、「1回の滞在で25.5〜44リットル」の節約になる
計算してみると、25.5は30リットルの85%、44は45リットルの約98%にあたる。つまり、もとになっているのは「1日」の蛇口の量だ。それが「1回の滞在」の節約として書かれている。滞在が2泊以上なら、意味が変わってくる。
98%から6.6%へ
白書は、ホテル全体ではどれだけ減るかも計算している。
霧とスプレーを半々に使うと仮定し、ホテル全体の水の使用量が正味で6.6%減るとしている。計算すると、98%と85%の平均は91.5%。これに洗面台の割合7.23%をかけると、約6.6%になる。
98%は蛇口1つの数字で、6.6%はホテル全体の数字だ。どちらも同じ資料の中の、正しい計算の結果だが、比べている相手が違う。
「1%あたり1,943ドル」は、どこから来たか
白書は、お金の効果も見積もっている。ホテルの水を1%減らすと、年1,943ドルの節約になる。6.6%なら年1万2,823ドル。100室で投資7,940ドル、回収は7.5か月とする。
この1,943ドルは、オルタードのホテルの数字ではない。白書は、米国環境保護庁(EPA)の、テキサス州の「ホリデイ・イン・サンアントニオ国際空港」の事例を出典にしている。
EPAの2014年7月の事例紹介によると、この397室のホテルは、吐水口、シャワーヘッド、トイレをまとめて替えた。1日1室あたりの水が202ガロンから132ガロンに35%減り、年700万ガロンの節約。水道と下水で年約3万5,000ドル、推定のエネルギーの節約を合わせて年6万8,000ドル超だという。
6万8,000ドルを35で割ると、約1,943ドルになる。白書の「1%あたり1,943ドル」は、トイレやシャワーも含めた別のホテルの改修の結果を、1%ずつに割った値だ。
同じ割り方を水の量に当てはめると、1%は年約20万ガロン、6.6%は年約132万ガロン(約500万リットル)になる。一方、白書は節約する水を年26万リットルとしている。どう計算したかは書かれていない。
「90万リットル」が2回出てくる
白書は、5ページで「100室のホテルで、年90万リットルの節約」と書いている。そして7ページでは、「100室のホテルは、年約90万リットルの水を使う」と書いている。同じ90万リットルが、節約する量としても、使う量としても出てくる。
7ページは、この90万リットルを、お湯にするエネルギーに換算している。100リットルを温めるのに5キロワット時かかるとして、4万5,000キロワット時。米国の電力の排出係数1キロワット時あたり592グラムをかけて、二酸化炭素26トン、車7台分とする。計算すると、4万5,000×592グラムは約26.6トンで、この計算の筋は通っている。けれども、もとになる90万リットルが何の量なのかが、ページによって違う。
8ページには、1室あたり年9,000リットル超の節約とある。90万リットルを100室で割った値だ。
日本の宿に置き換えると
日本で蛇口の水の量の目安としてよく使われるのが、東京都水道局の数字だ。
東京都水道局によると、洗面や手洗いで1分間流しっぱなしにすると約12リットル、歯みがきで30秒間流しっぱなしにすると約6リットル。歯みがきでコップにくめば約0.6リットルで、約5リットルの節水になる。ただし、この12リットルには条件がある。口径13ミリの胴長水栓で、水圧0.1メガパスカル、ハンドルを90度開いたときの量だ。
偶然にも、オルタードの白書の比べる相手と同じ「毎分12リットル」だ。けれども、実際の宿の洗面台が、いつもこの量で出ているとは限らない。比べる相手の量が小さければ、節約の割合も小さくなる。
日本の住宅の省エネの基準には、「節湯水栓」という区分がある。日本バルブ工業会の資料によると、洗面の水栓では、レバーを正面にしたときにお湯が出ない「水優先吐水」の水栓(節湯C1)が対象で、従来の水栓に比べて30%の削減とされている。削減の量は、東京の4人世帯の住宅を条件にした試算だ。日本の基準は、水の量を霧にするのではなく、知らないうちにお湯を使ってしまうことを減らす方向から考えている。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)
20室の宿で、1日14室が埋まり、28人が泊まるとする。1人が1日に洗面台の水を2分出すとし、水道と下水の料金は1立方メートル600円とする。
比べる相手:毎分12リットル
28人×2分×12リットル=1日672リットル。
霧とスプレーを1分ずつ使うと
28人×(0.22+1.8)リットル=1日約56.6リットル。減るのは1日約615リットル、約92%だ。年に約225立方メートル、料金で約13万5,000円になる。
霧で洗う時間が2倍になると
霧を2分、スプレーを1分使うと、1日約62.7リットル。減る割合は約91%で、大きくは変わらない。
宿全体で見ると
ただし、この宿全体の水の使用量が分からなければ、全体の何%かは言えない。白書のように洗面台が全体の7.23%なら、92%減っても、全体では約6.6%だ。
数字はすべて仮定だ。実際には、元の蛇口の量、客の使い方、水圧が条件を満たすかどうかで、結果は変わる。
大きな数字の、相手を確かめる
オルタードの白書には、98%、90万リットル、26トンといった大きな数字が並ぶ。一つ一つの計算は、多くが筋の通ったものだ。けれども、98%は蛇口1つの数字で、ホテル全体では6.6%。1,943ドルは別のホテルの数字で、90万リットルは節約にも使用にも使われている。
宿が節水の機器を比べるときは、数字の大きさより先に、「何と比べて」「どこの」「1日か1滞在か」を確かめたい。
持ち帰れる知識
- 98%は蛇口1つ、6.6%はホテル全体の数字
- 「1滞在25.5〜44リットル」は、1日の蛇口の量から計算されている
- 他社の事例から借りた数字は、条件が違う
- 同じ製品でも、版によって流量が違う
- 東京都水道局の毎分12リットルは、ハンドル90度などの条件つき
宿で考えられること
- 洗面台の蛇口から1分間に出る量を、計量カップとストップウォッチで測る
- 節水の機器の資料で、比べる相手の流量を確かめる
- 宿全体の水の使用量のうち、洗面台がどれくらいかを考える
- お湯の使いすぎを減らす水栓も、選択肢に入れる
事業・予約への接続
節水の機器を入れたことを伝えるときは、蛇口の数字と宿全体の数字を分けて書くと、誤解を招かない。測った数字は、客にも取引先にも説明しやすい。
Sources / 参考情報
- Altered(英文、Lowe'sのサイトに掲載) - オルタード・ノズル 白書 ホスピタリティ(PDF)(2020年11月18日)
裏付け: 一般的な蛇口は毎分10〜12リットル、デュアルフロー霧0.22・スプレー1.8リットル・2バール、ドーム0.42リットル・1.5バール、客室30%・洗面台7.23%、1滞在300〜600リットル・蛇口1日30〜45リットル・1滞在25.5〜44リットル、100室で年90万リットルの節約(5ページ)、30秒の取り付け、半々の仮定で正味6.6%・1%あたり1,943ドル(EPAのホリデイ・インから)・年1万2,823ドル・26万リットル・投資7,940ドル・回収7.5か月、100室のホテルは年約90万リットルを使う(7ページ)・100リットルに5キロワット時・592グラム・26トン・車7台、1室あたり年9,000リットル超、脚注で毎分12リットルの標準の吐水口と比較 - U.S. EPA WaterSense(英文) - ホリデイ・イン・サンアントニオ国際空港(事例紹介、PDF)(2014年7月)
裏付け: 397室、吐水口・シャワーヘッド・トイレの交換、1日1室あたり202ガロンから132ガロンに35%減、年700万ガロン、水道と下水で年約3万5,000ドル、推定のエネルギーと合わせて年6万8,000ドル超 - Altered(英文) - オルタード・ノズル デュアルフロー・プロ(製品ページ)
裏付け: 霧のモードで98%の節約、スプレーのモードで通常の蛇口と比べてなお85%の節約、60秒の取り付け - New Atlas(英文) - 蛇口の付属品が、霧を増やし、むだな水を減らす(2016年9月12日)
裏付け: スウェーデンの会社、霧のモード毎分0.18リットル・何も付けない蛇口の約2%、霧のモードでコップに水をくむと2〜3分、もう一つのモードは毎分3リットル、クラウドファンディングで支援を募集 - 東京都水道局 - 水の上手な使い方
裏付け: 洗面・手洗いで1分間流しっぱなし約12リットル、歯みがきで30秒間約6リットル、コップにくむと約0.6リットルで約5リットルの節水、13ミリの胴長水栓・水圧0.1メガパスカル・ハンドル開度90度で毎分約12リットル - 日本バルブ工業会 - 節湯水栓(節湯A1/B1/C1)について(PDF)
裏付け: 水優先吐水機構(節湯C1)は台所水栓と洗面水栓でレバーが正面のときに湯が出ない構造、洗面水栓は従来の水栓に対して30%削減、削減量は東京4人世帯・床面積120平方メートルの住宅の条件で試算