← JOURNAL
収益改善ARTICLE 044

RevPARが1.8倍に。値付けを「感覚」から「設計」へ

ADR12,400円→19,600円、稼働率71%→83%(いずれも参考値)——変わったのは「価格を決める方法」だけ。感覚値付けの二重損失の診断から、ルール表・コンペティターセット・底値の設計までを整理しました。

RevPARが1.8倍に。値付けを「感覚」から「設計」へ
2026.05.19Revenue Growth5分で読めます

ある地方の40室の宿で、14ヶ月かけてADR(平均室単価)が12,400円から19,600円に、稼働率が71%から83%になり、RevPARがおよそ1.8倍になる——そんなパターンを、本記事では追います。ここまでの数字はすべて、考え方を示すための参考値・シミュレーションです。この例の宿がリノベーションをしたわけでも、マーケティング予算を増やしたわけでもありません。変わったのはひとつだけ——「価格を決める方法」です。収益管理の3つの数字の基礎(ADR・稼働率・RevPAR)は別記事に譲り、ここは「感覚」から「設計」への替え方に絞ります。

診断 — 「感覚値付け」の二重損失

値付けを設計に変える第一歩は、現状の診断です。感覚で値段を決めている宿には、典型的な2つの損失が同居しています。

  • 繁忙期の損失 — 年に30〜40日ある高需要の日(祝日・イベント・連休)を、市場の水準より2〜3割安く売り切っていた。「満室になったから大丈夫」は、宿泊業で最も高価な思考です。満室は成功でなく、需要が供給を上回った証拠に過ぎません。
  • 閑散期の損失 — 需要の低い日に高い価格を維持して在庫を放置し、直前に慌てて値引く。誰も感謝しない値引きになっていた。

診断の方法は素朴です。自館の販売価格と、周辺の比べられる宿の平均販売価格を、日単位で並べて、その差の総和を見る。この例では、年間のギャップは潜在売上の14%でした(参考値)——これが、設計に変えられる余地の大きさです。

設計1 — 3段階のルール表

ダイナミックプライシングとは「AIが毎日勝手に価格を動かすこと」ではありません。最初に作るべきは、曜日と需要に対応した3段階のルール表です。

  1. ベースレート — 需要の低い火・水曜用。市場水準の85〜90%。これが「当日の客の底値」です。
  2. ミッドレート — 通常の需要用。市場水準の95〜100%。
  3. ピークレート — 金・土・祝日・イベント日用。市場水準の110〜130%。

その上に、リードタイムの次元を1行足します。48時間を切った予約には1割上乗せ(予定の固まった人は払える)、当日の残室には1割引(値引きは残り在庫のために取っておく)。このルール表が1枚できると、フロントが一人で価格を判断できるようになります。「感覚」が消えるのは、ここからです。

設計2 — 半径3kmのコンペティターセット

値付けの軸は「原価」ではなく「市場の売れ筋」です。具体的には、半径3km前後の比べられる宿を5軒リストアップし、通常日はその埋まり具合を見る——5軒のうち3軒以上が8割以上埋まっていれば、自館も1段階上げて良い合図です。イベントの日(コンサート・見本市・祭り)は街全体の在庫が減る日なので、ピークレートを打つ日はここです。繁忙期の利益の大部分は、この数十日で生まれます(夏の繁忙期の価格設計は、季節の記事でさらに詳しく)。

設計3 — 最低宿泊日数とチャネル規律

  • ピーク日は2泊最低 — 清掃の作業回数を減らし、1室あたりの稼働を上げる。
  • ピークの一部は「金曜限定」 — 金・土のセットで売り、室単価を上げる。
  • チャネルの規律 — 全チャネルで価格をそろえるのが基本線です。欧州ではこのパリティ条項を禁じる規制の動きがありましたが(チャネル選択の記事参照)、日本の宿では契約との関係を確認した上で、破らないのが安全な運用です。

最重要は「底値」— 価格設計は組織設計である

ここまでの設計の中で、最も大事なのは「上げる」ことではなく「底値」の設定です。市場水準の85〜90%のベースレートという底値が決まっていると、フロントは「安くしすぎて後で怒られる」「高くして空洞化する」という不安から解放されます。値段の表は、金額の表であると同時に、現場の権限と安心の配分表です。ダイナミックプライシングが現場で受け入れられるかは、システムではなく、この1枚がマネージャーとフロントの間で合意されているかで決まります。

SIMULATION40室の宿でADR12,400円→19,600円(+58%)・稼働率71%→83%・RevPAR約1.8倍(14ヶ月)——いずれも方法論を示す参考値の例であり、実際の結果は立地・客層・競合環境・実行度により異なる — 効果を判断するときは、導入前後のADR・稼働率・RevPARを月次で同じ集計方法で記録して比較する。

反対側 — 設計が宿を疲れさせるとき

  • ルール表の放置 — 作った表は、市場が動けば古くなります。四半期に1度は見直す。放置されたルール表は、感覚値付けを「ルールの権威」で飾っただけのものになります。
  • 競合価格への盲従 — 近隣の価格も、誰かの感覚の産物です。埋まり具合という事実と合わせて読むのでなく、価格だけを追うと、間違った宿と一緒に沈みます。
  • 値上げだけの記憶 — ゲストが覚えているのは値段の上下ではなく、その理由です。説明のない上昇を続けると、リピーターの離れという形で返ってきます(価格の「理由」を語る話は別記事で)。
  • 稼働率83%の裏側 — 稼働が上がるということは、清掃と現場の仕事が増えるということです。人数と仕組みの増強なしに価格設計だけを回すと、品質で支払うことになります(シフト設計の話は別記事で)。
  • 道具への丸投げ — 導入型のツールや代行にもルール表は必要です。外注できるのは運用で、「この宿の底値はいくらか」という判断ではありません。

最初の一歩は、今晚、3段階のルール表を1枚書くこと——ベース・ミッド・ピークの3行に、曜日と代表価格を埋めるだけ。エクセルでも紙でも構いません。1枚できたら、来週の水曜と土曜の価格を、その表から出してみてください。「感覚」から「設計」への移動は、その2つの数字から始まります。

この記事はアイデア共有を目的としています。記載の数値・率はすべて参考値・シミュレーション例です。価格設定は法令・消費税の取り扱い・契約条件をご確認の上で行ってください。

次に読む

InnBuddy
WEB × OPERATION × BRANDING — ホテル運営の知恵を、もっと身近に。
© 2026 InnBuddy
記事内の数値は一般的な情報に基づく参考値・一例であり、InnBuddyの実績を示すものではありません。