ホテルと旅館で採用のやり方はどこが違うのか
ホテルと旅館は、同じ「宿泊業」に分類されます。ところが採用の現場では、見るところも、集め方も、定着のしかたもずれています。このずれを知らずに片方のやり方を真似ると、うまくいかないことがあります。
ちがいは「何を売っているか」から始まる
ホテルが売っているのは、多くの場合客室という機能です。清潔で、静かで、予定どおりにチェックインできる。人の入れ替わりがあっても、機能が保たれていればお客様の体験は大きく変わりません。
旅館が売っているのは、多くの場合1組1組への手間です。同じ部屋に泊まっても、担当する人によって体験が変わります。人そのものが商品に近いとも言えます。
この違いが、採用の設計にそのまま反映されます。
あなたの宿は、お客様に機能を届けているでしょうか、それとも手間を届けているでしょうか。両方という答えが普通です。ただ、どちらの比重が大きいかで、採用のやり方は変わります。
1. 採用の単位がちがう
ホテルはシフトを埋める単位で人を採ることが多いです。フロントに何人、清掃に何人、厨房に何人。空いた枠を埋めれば、現場は回ります。
旅館は1人前になるまでの時間で人を採ることが多いです。客室のしつらえ、お膳の運び方、お客様の名前と部屋番号の覚え方。これらは短期間では身につきにくいものです。
つまりホテルは「枠」、旅館は「育つ時間」を見ます。同じ人数を採るのでも、判断の軸がずれています。
この軸のずれは、求人票の書き方にも出ます。ホテルは「入れる時間帯」を先に書き、旅館は「何年目になったら何ができるか」を書いたほうが伝わります。あなたの宿の求人票は、どちらの軸で書かれているでしょうか。
2. 面接で見るところがちがう
ホテル側で確認されやすいこと
- 決められた時間帯に、安定して入れるか
- 手順を守れるか。アレンジより再現を重視できるか
- 混雑時に、優先順位をつけて動けるか
旅館側で確認されやすいこと
- お客様の様子の変化に気づけるか
- 教わったことを、まずそのまま受け取れるか
- 繁忙期の長時間を、生活のリズムとして続けられるか
どちらも優劣ではなく、商品の性質に合った見方です。ホテルの面接を旅館が真似ると「気が利く人」を見落とし、旅館の面接をホテルが真似ると「再現できる人」を見落とします。
とはいえ、型どおりに分けられるものではありません。旅館にも手順の再現が要る洗い場があり、ホテルにも気が利くことが価値になるコンシェルジュがあります。部門ごとに軸が違うと考えておくほうが、実態に近いはずです。
3. 求人票の書き方がちがう
ホテルは勤務時間と業務内容を正確に書けば、それだけで応募者が自分の働き方を想像できます。シフト表の形が見えるからです。
旅館は、それだけでは1日が想像しにくいことがあります。「仲居」の2文字から思い浮かべる像は、人によって大きく違います。だから旅館の求人票には、朝何時に起きて、何を準備して、お客様とどれくらい関わるのかという流れが要ります。
ここが薄いと、入社後に「聞いていなかった」という形でずれが出ます。
あなたの宿の求人票を、いま手元に置いて読み返してみてください。読み終えたあとに、朝起きてから退勤までの流れが思い浮かぶかどうか。浮かばないなら、旅館型の書き方が足りていません。
4. 給与の組み立てがちがう
ホテルは基本給と手当が中心で、月の収入が予測しやすい形になりがちです。旅館は、繁忙期の稼働によって振れ幅が出ることがあります。
振れ幅があること自体は問題ではありません。ただし振れ幅があるなら、その仕組みを説明できる形にしておく必要があります。説明できないと、応募者は「不安定な宿」と受け取ります。
「繁忙期はこれくらい、閑散期はこれくらい」と幅を出せる宿のほうが、実は信頼されます。1定の金額だけを書いて、実際がブレるほうが、入社後の失望は大きくなります。
あなたの宿は、どちらの型に近いだろう
ここまで読んで、「うちは両方だ」と感じたなら、それで合っています。ホテルにも旅館的な接客フロアがあり、旅館にも機能的に配置する洗い場があります。
確認したいのは、部門ごとにどちらの型かです。全部を同じ1つの型で採用しようとすると、どちらかの部門で人が合わなくなります。
あなたの宿で、部門を3つ挙げるとしたら何でしょうか。フロント、客室、厨房あたりが並ぶはずです。その3つに、同じ面接の質問を投げているかを思い出してみてください。同じなら、型を分ける余地があります。
現場でまず着手できること
自分の宿を1文で書いてみてください。「お客様が最後に思い出すのは、何だろうか」という問いで書くと、型が見えやすくなります。
ロビーの明るさやチェックインの速さが浮かんだなら、ホテル型の見方が合っています。仲居が名前を覚えてくれたことが浮かんだなら、旅館型です。両方浮かんだなら、部門ごとに分けて書く必要があります。