Management / 経営現場と経営
HRBP対象: 経営者・支配人

HRBPと経営者の関係

「人事は給与計算や労務手続きの担当者だと思ってきたが、HRBPとはどう付き合えばよいのか」「経営者として、人事に何を求め、どのような距離感で接するべきなのだろうか」。旅館やホテルの経営者にとって、HRBP(人的資本のビジネスパートナー)との関係構築は、組織の強さを左右する重要な経営課題です。人事を単なる「指示の受け手(下請け)」として扱っていると、経営の盲点に気づけず、現場の離職や組織崩壊を防ぎきれないことがあります。この記事では、経営者とHRBPの理想的なパートナーシップのあり方と、相互の信頼を育む視点を整理します。


宿泊業における経営者と人事の「3つの関係パターン」

旅館やホテルにおいて、経営陣と人事担当者のあいだには、主に以下のような3つの関係性のパターンが見られます。

  • パターン1:下請け・御用聞き関係(最も多い形)——経営陣が「来月までに清掃パートを3人採用しろ」「残業を減らせ」と1方的に指示を出し、人事は言われた手続きをこなすだけの関係です。人事は経営の背景を知らされず、現場の不満と経営の指示の板挟みになります。
  • パターン2:対立・牽制関係——経営陣は「人事は現場を甘やかしてばかりでコスト意識がない」と不満を抱き、人事側は「経営陣は数字ばかりで人の痛みが分からない」と反発する関係です。経営会議の場が感情的な摩擦を生む場になります。
  • パターン3:戦略的パートナーシップ(目指すべきHRBPの関係)——経営者が目指す事業ビジョンを深く理解した上で、人事が「それを実現するために組織と人の面から何が必要か」を対等に提案し、時には経営陣に対して耳の痛い直言を行う関係です。

HRBPとは、単なる役職の名前ではなく、経営者と人事が結ぶ「信頼と対話の関係性の深さ」を表しています。

経営者がHRBPに求めるべき「3つの役割」

経営者が宿の舵取りを盤石にするために、HRBP(またはその役割を担う支配人や幹部)に期待すべき役割は以下の通りです。

  • 役割1:経営判断の「壁打ち相手」——「新しい宿泊プランを始めたいが、現場の負荷はどうだろうか」「単価を上げるためにどんなスキルが必要か」。事業戦略の構想段階で、人と組織の観点から忌憚のない意見をもらう。
  • 役割2:現場の現実を伝える「誠実な鏡」——経営陣の前では取り繕われがちな「現場の疲弊」「人間関係の摩擦」「退職の予兆」といった不都合な真実を、客観的な事実とデータに基づいて率直に伝えてもらう。
  • 役割3:理念と現場をつなぐ「通訳者」——経営陣の熱い想いや事業の厳しさを、現場スタッフが腹落ちできる言葉に翻訳し、現場の納得と共感を育む。

HRBPが育つための「経営陣の器」

HRBPがその真価を発揮できるかどうかは、実は「経営者の聴く力」に大きく依存しています。

人事が勇気を出して「社長、今の無理な満室方針を続ければ、来月には板前が辞めてしまいます」と耳の痛い進言をした際、経営者が「余計なことを言うな、指示通りに動け」と怒鳴りつければ、HRBPは2度と本音を言わなくなります。

賢明な経営者は、不都合な意見を述べるHRBPを「宿を守るための貴重な防波堤」として重用します。

「自分が見落としている死角を教えてくれてありがとう。では、現場を守りながら売上を維持するために、どんな知恵が出せるだろうか」。

経営者が自らの弱さや未熟さを認め、耳を傾ける姿勢を示したとき、HRBPは経営者の最も頼もしい伴走者へと育ちます。

組織の姿勢が分かれた2つの事例

経営者と人事の関係性の違いによって、宿の未来はどう分かれたでしょうか(※宿泊現場の実情を踏まえたケーススタディです)。

  • A館(人事を指示待ちの事務屋にした宿)——経営者は「人事は採用の頭数さえ揃えればいい」と考え、経営会議にも参加させませんでした。人事は現場の退職理由や不満を経営者に伝えることを諦め、事務処理に徹しました。ある日、主要部門のスタッフが1斉に退職した際、経営者は「なぜ事前に教えてくれなかったのか」と人事を怒鳴りましたが、手遅れでした。
  • B館(人事を経営の相談役として迎えた宿)——経営者は人事担当者を「右腕」として経営会議の常任メンバーに据えました。「人をどう活かすか」を毎週2人で膝を突き合わせて話し合いました。人事は現場の疲労度を正直に報告し、経営者はその声を聞いて予約の受入調整を柔軟に行いました。経営と現場の間に深い信頼が生まれ、離職率が着実に低下して過去最高益を達成しました。

経営者とHRBPは、車の両輪のように並んで走ることで、初めて荒れた道を力強く進むことができます。

自館で確認しておきたい4つのポイント

  • あなたの宿の人事担当者(または支配人)は、あなたに「耳の痛い真実」を言えていますか。
  • 人事を単なる「欠員補充の手続き係」として扱ってしまっていませんか。
  • 新しい事業戦略を考える際、初期の段階から人・組織の視点を取り入れられていますか。
  • HRBPからの進言に対して、怒ったり否定したりせず、感謝を持って耳を傾けられていますか。

リーダーが今日からできる小さな工夫

人事担当者や支配人に「経営方針について、現場の観点から何か心配な点や気づきはあるか」と穏やかに尋ねてみてください。

  • 経営者からの歩み寄る問いかけが、真のパートナーシップを育む確かな第1歩になることもあります。
  • HRBPと共に歩む対話の経営が、あなたの宿をどんな嵐にも負けない強靭な組織へと育て上げます。

あなたの宿の未来は、人と経営を共に語り合える伴走者の中に宿っています。



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