採用予算と人件費は同じものではない
会計の上では、どちらも「人に関わるお金」です。ただ、性質が違います。片方は1回きりの支出で、もう片方は毎年続く支出です。混ぜて見ると、両方の判断を誤ります。
2つの中身
採用予算(1回きり・変動しやすい)
- 求人媒体の掲載費
- 人材紹介会社への手数料
- 採用サイト・パンフレットの制作費
- 説明会への出展料
- 面接に関わる交通費・宿泊費
- 内定者への連絡や、見学の費用
採った人数に応じて、その年だけ発生します。 採用を止めれば、ゼロになります。
あなたの宿で、去年この枠にいくら使ったか、すぐ言えるでしょうか。言えないなら、集計の場所が決まっていません。
人件費(毎年続く・固定しやすい)
- 基本給・各種手当・賞与
- 社会保険の事業主負担分
- 通勤交通費
- 残業代と割増分
- 退職金(制度がある場合)
1人採用すると、その人がいるあいだ毎年発生します。 採用を止めても、いる人の分は減りません。
この性質の違いが、2つを分けて見る理由です。
混ざると、何が起きるか
2つを1つの枠で見てしまうと、次のような判断のずれが起きます。
ずれる例1:採用費をケチって、人件費を増やす
媒体費を抑えて、条件を緩めて採用する。入った人が合わず、3ヶ月で辞める。また採用する。採用費の合計は、条件を上げて1度で採るより高くなることがあります。
ずれる例2:人件費を削って、採用費が膨らむ
給与を抑えると、人が残りにくくなります。残らないと、毎年採用します。毎年かかる採用費は、人件費の1部のような形になっていきます。
ずれる例3:採用の判断が、月の人件費率で止まる
「今月は人件費率が高いので、採用は控えましょう」。この判断は、採用費と人件費を混ぜています。採用を控えた結果、現場が足りなくなり、売上が落ちることがあります。
あなたの宿では、この3つのうち、どれかに心当たりがあるでしょうか。心当たりが1つもないなら、2つはすでに分けて見られています。
分けて見るための3つの数字
| 見るもの | 求め方 | 何を決めるのに使うか |
|---|---|---|
| 採用単価 | 採用にかかった総額 ÷ 採用人数 | 媒体と条件の選び方 |
| 人件費率 | 人件費 ÷ 売上高 × 100 | 体制の厚み |
| 1人あたりの年間人件費 | 人件費 ÷ 平均在籍者数 | 採用したときに増える額 |
3番目が、2つをつなぐ数字です。1人採ると、この金額が毎年増えます。
あなたの宿の1人あたり年間人件費は、すぐ出せるでしょうか。出せると、採用の判断が「高い/安い」から「何年残るか」に変わります。
採用単価が数十万円で、1人あたりの年間人件費が数百万円なら、採用の判断は採用単価ではなく、その人が残るかどうかで決まります。残るなら採用単価は小さい数字です。3ヶ月で辞めるなら、採用単価はまるごと損失になります。
予算を組むときの分け方
年度のはじめに、2つの枠を別にします。
採用の枠
- 今年、何人採る予定か
- 1人あたりいくらかけられるか
- 採用できなかった場合の、繰越の扱い
人件費の枠
- 今年、何人いる想定か
- 昇給と賞与の見込み
- 残業の見込み時間
2つを並べると、採用した結果、人件費がどうなるかが見えます。見えれば、経営会議で「採るか採らないか」が数字の話になります。
2つの枠を別々に持つのが難しいなら、人件費の枠の中に「採用したら増える額」の行を1本足すだけでも構いません。行があると、毎年見る場所になります。
小さな宿での、現実的な分け方
十人以下の宿では、予算書を2つに分ける余裕がないことがあります。その場合は、ノートに2行だけで構いません。
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採用に使った金額:_____(媒体費、紹介料、制作費)
人件費の合計:_____(月ごとの合計)
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2行を毎月埋めると、3ヶ月で傾向が見えます。採用に使った金額が増えているのに、人が増えていないなら、そこは要確認の場所です。
逆に、採用費が少なくて人が残っているなら、あなたの宿はかけ方が上手いということです。その形を、次の採用でも繰り返してください。
採用費をかけない、という選択肢
採用費を抑える方法は、お金をかけないことではなく、かけ方を変えることです。
- 媒体を増やすより、既存のスタッフからの紹介を1つ整える
- 制作費をかけるより、採用ページを1枚自分で書く
- 条件を上げる前に、求人票の実態との差を直す
3つとも、費用は小さく、効果は続きやすいです。特に紹介は、入った人が辞めにくいという特徴があります。紹介した人が宿の中にいるからです。
紹介をお願いするときは、紹介してくれた人に1言返すことをセットにしてください。返さないと、2度目は頼まれません。
今日、メモに残しておきたいチェック点
去年1年で、採用に使った金額を合計してみてください。 媒体費と、紹介手数料と、制作費。3つを足します。
合計が出たら、去年採用した人数で割ってください。 それがあなたの宿の採用単価です。
次に、その人数のうち、いま残っている人数を書いてください。残っている人数で割り直すと、「残る1人を得るのにかかった金額」が出ます。
2つの数字の差が大きいなら、あなたの宿の問題は採用費の額ではなく、残らないことにあります。この場合、採用費を増やしても解決しません。
差が小さいなら、あなたの宿の採用は効率よく回っています。その場合は、採用費を増やして人数を伸ばす判断ができます。 どちらの数字でも、次の1手は決まります。