繁忙期だけの採用はどう設計するか
繁忙期だけの採用は、常勤採用より簡単だと思われがちです。実際には、短期ほど設計が要ります。教える時間が取れない、仕事が渡せない、終わったら関係が切れる。この3つを先に潰しておかないと、人を増やしたのに現場が忙しくなることがあります。
1. 前年の繁忙期を、日単位で見る
「夏は忙しい」では募集条件が作れません。日と時間帯と部署まで分解します。
- 足りなかったのは、いつか(日付)
- その日の、何時から何時か
- どの部署か(清掃/配膳/フロント/厨房/洗い場)
宿全体の不足ではなく、時間帯と部署で区切るのが要点です。ここが曖昧だと、「とりあえず多めに採る」になり、来た人に渡す仕事がなくなります。
前年の記録が残っていないなら、記憶で構いません。忙しかった日を3つ、思い出して書き出してください。3つ出てこないなら、不足が特定の日ではなく構造にあるということです。
2. 渡せる仕事を、先に切り出す
短期の人には、判断が少なくて、教えやすい仕事を渡します。
| 渡しやすい | 渡さないほうがよい |
|---|---|
| リネンの回収・運搬 | クレームの初期対応 |
| 下膳・食器の片付け | 部屋割りの変更判断 |
| 洗い場 | お客様の案内(初日) |
| 駐車場の誘導 | 会計・金銭の扱い |
| 客室の備品補充 | アレルギー対応の判断 |
お客様と直接関わる場面は、慣れるまで常勤が持ちます。短期の人が「お客様の前で迷う」状況をつくらないことが、本人にとっても宿にとっても安全です。
あなたの宿で、短期の人に渡せる仕事を3つ挙げるとしたら、何でしょうか。3つ出てこないなら、切り出しができていないということです。切り出しは募集の前に済ませておきます。
3. 教える時間を、先に予約する
短期採用で最も見落とされやすいのがここです。人が入ると、教える側の時間が消えます。
- 初日の午前を丸ごと教育に空けておく(現場に入れない)
- 教える人を1人に決める(毎回違う人だと、言うことが変わります)
- 手順を写真付きで1枚にしておく
- 質問してよい人を、名前で伝えておく
教育の時間を「余裕があったら」にすると、余裕がないのが繁忙期なので、後回しになります。先に予定表に入れることが必要です。あなたの宿の繁忙期の予定表に、教育の枠は入っているでしょうか。
4. 条件は、時給だけではない
短期の応募者は、複数の宿を比べています。比較されるとき、時給は並べやすい項目です。そこで差が出ないなら、次を見ます。
あなたの宿が「選ばれる理由」は、時給以外のどこにあるでしょうか。寮かもしれないしまかないかもしれません。1つで構いません。1つあれば、求人票に書けます。
- 期間の確実性(「繁忙期まで」ではなく、終了日を明記)
- 食事(まかないの有無・回数・時間帯)
- 寮・駐車場(地方では、これが応募の可否を決めます)
- 交通費とアクセス(最寄駅からの所要時間、送迎の有無)
- 翌年も声がかかるか(続けて働ける見込み)
宿までの行き方がわからないと、応募の直前で止まります。地図と所要時間は、書いておきたい項目です。
5. 繁忙期の「あと」を決めておく
繁忙期が終わったときに、関係が切れるともったいないことがあります。
- 良かった人をリストに残す(本人の了承を取って、連絡先を控える)
- 閑散期に短い仕事があれば、声をかける
- 常勤に興味があるか、1度だけ聞く
この3つを、繁忙期中に「やる」と決めておかないと、終わったあとには誰も覚えていません。繁忙期の最終日に、リストをつくる時間を30分だけ予定に入れておくのが現実的です。
次の繁忙期に同じ人が戻ってくれば、教育の時間が半分で済みます。この差は、人数が多いほど効きます。
短期採用は、常勤採用の入口になる
繁忙期だけ働いて宿を知り、そのあと常勤に移る。この流れは、宿にとっても本人にとっても、リスクの少ないルートです。
短期の人の扱いが雑だと、このルートは残りません。繁忙期の1番忙しいときに、その宿の素直な姿が見えているからです。
短期で入った人が「ここで長く働きたい」と思うかどうかは、待遇よりも、忙しくなったときに周囲がどう振る舞うかで決まることが多いです。
自館の改善に向けて今日できること
前年の繁忙期のカレンダーに、「足りなかった日」を印をつけてみてください。 印が集中している曜日と時間帯が、今回の募集条件になります。
印が全体に散っているなら、それは人数の問題ではなく、業務の設計の問題です。その場合は、募集を出す前にやることが別にあります。
カレンダーが手元にないなら、去年の繁忙期のシフト表を1枚出すだけでも構いません。誰の名前が何日連続で並んでいるか。それが、あなたの宿の繁忙期の形です。