採用と定着は別々の仕事なのか
採用は人事の仕事、定着は現場の仕事。こう分けている宿は少なくありません。分けると役割がはっきりするので、動きやすくはなります。ただ、分けたときに落ちるものがあります。この記事では、その落ちる場所を3つ挙げます。
分ける理由には、合理性がある
採用と定着を分けるのには、きちんとした理由があります。
- 採用は期間が短い(募集から内定まで数週間)
- 定着は期間が長い(入社から数年)
- 採用は外の相手と話し、定着は内の相手と話す
- 採用は成果が人数で見え、定着は見えにくい
得意なことも、使う時間も、評価のされ方も違います。同じ人が両方をやると、目先の採用に時間が取られて、定着の施策が後回しになります。
だから分ける。これは合理的な判断です。
分けると落ちるもの 1:求人票の中身
採用担当が求人票を書き、現場が人を預かる。この形では、求人票に書かれた条件が現場で守られているかを誰も確認しません。
あなたの宿の求人票を、いま開いてみてください。そこに書かれた条件を、現場は守れていますか。守れていない行があれば、それが次の離職の候補です。
- 「残業ほとんどなし」と書いて、実際は毎週残っている
- 「未経験歓迎」と書いて、教育の時間が取られていない
- 「シフト希望考慮」と書いて、希望が通らない
この3つが起きると、入社した人は「話が違う」と感じます。そして辞めます。辞めた理由として記録されるのは「1身上の都合」で、求人票の1行は残りません。
採用と定着がつながっていれば、辞めた理由が求人票に戻ってきます。分かれていると、戻りません。
戻す仕組みは、大きくなくて構いません。辞めた人の理由を1行、採用担当に渡す。これだけで、求人票は次回から変わります。
分けると落ちるもの 2:入社後3ヶ月
採用の成果は、内定承諾で1区切りになります。ところが定着で1番危ないのは、入社してからの3ヶ月です。
この3ヶ月に起きること。
- 求人情報と実態の差に気づく
- 教える人が決まっておらず、毎回違う人に聞く
- 忙しくて、質問のタイミングがない
- 自分が役に立っているのか、わからない
採用担当は、この期間を直接見ていません。現場は、目の前の仕事で忙しい。3ヶ月は、誰の担当でもない時間になりがちです。
あなたの宿では、入社3ヶ月の人に、誰が、いつ、声をかけていますか。決まっているなら、それはつながっています。決まっていないなら、そこに穴があります。
決めるのは、大きな制度でなくて構いません。入社30日・60日・90日に、15分だけ話す。日時を決めておけば、誰かがやります。
分けると落ちるもの 3:採用基準の更新
定着の情報は、採用基準を更新する材料になります。
- 長く続いた人に共通していたのは何か
- 早く辞めた人が、面接でどう答えていたか
- どの職種で人が入れ替わっているか
これらは現場と人事の両方がいないと読めません。分かれていると、採用基準が何年も同じになります。同じ基準で採り続けて、同じ形で辞められる。
あなたの宿の面接で聞く質問は、最後にいつ変わりましたか。思い出せないなら、基準は更新されていません。
つなげるのに、組織変更は要らない
採用と定着を1つの部署にまとめる必要はありません。重くならずに、つながりを作る方法は3つあります。
もちろん、分業がうまく回っている宿もあります。採用と定着を分けたから人が辞める、とは限りません。 ここでは、分けたのに情報が戻ってこない場合の話として読んでください。
1. 辞めた理由を、採用担当に毎回渡す
退職の面談で聞いた内容を、1行で構わないので共有します。「繁忙期がきつかった」の1行が、次の求人票の書き方を変えます。
2. 入社3ヶ月の面談を、2人で行う
現場の上司と採用担当が同席する。3十分で足ります。同じ人に、入社前と入社後の両方を見られることが効果になります。
3. 年に1度、採用基準を見直す時間を取る
去年辞めた人の理由と、いま続いている人の特徴を並べる。この作業だけで、基準は更新されます。
3つとも、お金はかかりません。かかるのは時間です。
分けたままでも、うまくいく宿
分業が機能している宿もあります。条件は、情報の流れが設計されていることです。
- 現場から人事へ、定着の情報が定期的に上がる
- 人事から現場へ、採用の状況が定期的に下りる
- 両方が数字ではなく、人の名前と理由で話している
3つ目が効きます。「離職率が上がった」より「清掃のAさんが、休憩が取れなくて辞めた」のほうが、次の手を打ちやすいはずです。
形は分かれていても、中身がつながっている。こういう宿では、担当が分かれているほうが丁寧に見られます。
つまり問題は「分けるか分けないか」ではなく、分けたあとに何をつなぐかです。
あなたの宿で、いま分かれているとしたら、つながっていない情報はどれでしょうか。3つのうち1つでも戻れば、穴は埋まり始めます。
今日、メモに残しておきたいチェック点
直近1年で辞めた人の理由を、3行で書いてみてください。 3行書けたら、その隣に「この理由を、求人票のどこで防げたか」を書きます。
書けた行があれば、そこが採用と定着の接続点です。書けなかった行は、防げなかったのではなく情報が戻ってきていないだけです。
理由が思い出せないなら、辞めると言われた日に、何を聞いたかを思い出してみてください。聞いていなかったなら、それは責められることではありません。ただ、次回から1行だけ聞けばいいということです。「どこが1番大変でしたか」。これで十分です。