Human Capital / HRBP人と経営の接続
KNOWLEDGE対象: 人事担当者

経営層への提案はなぜ通らないのか

「現場のために練り上げた提案なのに、経営会議であっさり見送られてしまった」「経営陣は何を基準に判断しているのか分からない」。人事施策の提案が通らない経験を重ねると、次第に無力感に襲われ、提案すること自体を諦めてしまいそうになることがあります。この記事では、経営層への提案が通らない構造的な要因と、承認を引き出すための準備の要点を整理します。


提案が通らないのは「熱意の不足」ではない

人事担当者が経営陣に提案を持ち込むとき、その背景には「現場のスタッフを助けたい」「宿の離職を止めたい」という真摯な熱意がある場合がほとんどです。

しかし、経営会議の場で「今はその時期ではない」「費用対効果が見えない」と判断されてしまうのは、あなたの情熱が足りないからではありません。

経営陣は、宿全体の資金繰り、銀行への返済、将来の修繕計画など、重い責任を背負いながら意思決定を行っています。提案が通らない大きな要因は、提案の内容そのものの良し悪しよりも、「経営陣が意思決定を下すために必要な材料や文脈が揃っていないこと」にあります。

熱意を伝えることと、相手が決断しやすい条件を整えることは、まったく別の技術です。

提案が見送られる3つの構造的要因

経営層への提案が阻まれる背景には、主に次の3つのギャップが存在します。

  • 経営課題との断絶(なぜ今それが必要かが見えない)——「他社が導入しているから」「現場が疲れているから」という理由だけでは、経営の優先順位に上がりません。経営陣が今期直面している課題(客単価維持、人件費高騰、新館の立ち上げ等)とどう連動しているかが伝わっていません。
  • リスクとリターンの不透明さ(いくらかかり、何が得られるか)——「費用はこれくらいかかりますが、成果はやってみないと分かりません」という曖昧さがあると、慎重な経営者は首を縦に振れません。損失の未然防止や回収の道筋が描かれていないのです。
  • タイミングのズレ(相談なしの唐突な提出)——事前の根回しや問題意識の共有がないまま、いきなり完成した議案書を会議で突きつけられると、経営陣は防衛的になり、差し戻しを選びやすくなります。

この3つの要因を1つずつ解消していくことが、提案の通過率を高める鍵となります。

承認を引き出す3つの工夫

経営陣を味方につけ、提案を前進させるためには、次の3つのアプローチが効果的です。

  • 事前の「壁打ち」で問題意識をすり合わせる——会議の前に支配人や社長のところへ行き、「最近現場でこんな課題を感じているのですが、経営の観点からはどう見えますか」と相談の形で投げかけ、意図をすり合わせておきます。
  • 「小さく試す枠」を用意する——「全館で導入すると数百万円ですが、まずは1部門で3十万円の予算を使い、3ヶ月間テスト運用させてください」と、リスクを限定した提案にします。
  • 定量的試算と現場のストーリーを重ねる——「離職が1人減ることで年間これだけのコストが浮く」という数字の試算に、「現場の主任がこれほど前向きに準備している」という人の熱量を添えます。

経営陣が「それなら失敗しても痛手は少ないし、やってみる価値がある」と思える余白をつくることが重要です。

2つの宿に見る実践の分岐点

提案の進め方によって、経営陣の反応はどのように分かれるでしょうか(※特定の施設ではなく、典型的な状況をもとに整理した事例です)。

  • A館(正論をぶつけ続けた人事)——「スタッフの健康のために、全館での残業削減と新たな研修制度を導入すべきです」と完璧な資料を経営会議に提出しました。しかし、繁忙期を控えた経営陣からは「現場の営業が回らなくなる」と猛反発を受けました。担当者は「経営陣は人を大切にする気がない」と不満を漏らし、それ以降提案をやめてしまいました。
  • B館(経営陣を巻き込んだ人事)——清掃手順の改善を提案するにあたり、まず支配人と1緒に夕方の客室点検に同行しました。「この仕上がりのチェックに時間がかかり、清掃スタッフの退勤が遅れている」という事実を現場で共有しました。その上で、「チェック表を簡素化するテストを1週間だけ実施させてほしい」と提案し、快諾を得ました。テスト結果が良好だったため、全館への展開もスムーズに承認されました。

差は、「完成した正論を押し付けたか」、「現場の事実を共有しながら1緒に決断の階段を上ったか」にあります。

施策の定着度を測る4つの視点

  • あなたの提案は、経営陣がいま深く苦心している経営課題と結びついていますか。
  • 提案を出す前に、経営陣と課題感について雑談や事前の相談ができていますか。
  • その施策のリスクを小さく抑え、試験的に始める工夫を盛り込めていますか。
  • あなたは数字の試算だけでなく、現場スタッフの前向きな物語を添えられていますか。

日常の業務の中で意識したいこと

温めている提案が1つあるなら、その「全館導入の案」を「1部門だけで小さく試す案」へと縮小し、必要な予算と期間をメモ用紙に書き出してみてください。

  • 提案のハードルを自ら下げる工夫が、経営陣の決断を後押しする大きなきっかけになることもあります。
  • 経営の責任に寄り添いながら歩みを進める姿勢が、あなたの宿を内側から着実に前進させる力になります。

あなたの宿の未来は、小さな対話の積み重ねから拓けていきます。



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