宿が求める人物像はどう決まるのか
「明るく元気な方」「接客が好きな方」「協調性のある方」。求人票によく並ぶ3つです。ただ、この3つは、どの宿にも当てはまる言葉でもあります。当てはまるなら、それは選別の基準にはなりにくい、ということです。
もちろん、この3つを大切にしている宿もあります。ここでは、書いたのに選別できていない場合の話として読んでください。人物像は、宿の中を見ると決まります。
人物像は「理想の人」ではなく「足りない役割」
人物像を考えるとき、多くの宿は理想の人物を描きます。経験があって、気が利いて、体力があって、長く働いてくれる人。
ただ、理想を描いても採用は動きません。理想の人は、他の宿も欲しがっているからです。
動くのは、逆の方向です。
- いま、宿の中で誰が何を抱えているか
- その人が抜けたら、何が止まるか
- 入る人に、そのうち何を渡したいか
この3つを書くと、人物像は自動的に絞られます。
あなたの宿で、「この人がいないと回らない」仕事は、いくつありますか。3つ以上あるなら、人物像はその3つから逆算します。
決める手順:4段
第1段:現場の「困りごと」を3つ集める
経営者が机の上で考えないほうが、精度が上がります。現場の人に3つだけ聞きます。
- 1番忙しい時間帯は、いつか
- 1番手が足りないのは、どの作業か
- 1番教えるのが大変なのは、誰に何をか
3つの答えが揃うと、入る人が最初に立つ場所が見えます。
第2段:その場所で要る力を言葉にする
「協調性」のような抽象語ではなく、行動で書きます。
| 抽象語 | 行動にすると |
|---|---|
| 協調性がある | 忙しい人に、自分から「手伝いましょうか」と言える |
| 気が利く | お客様が探している様子に、声をかける前に気づく |
| 責任感がある | 迷ったときに、自分で判断せず1度確認する |
| 体力がある | 早番を週3回、半年続けられる |
右の列が、面接で確認できる言葉です。左の列では、確認できません。
第3段:要らない力も書く
人物像は、引いたほうが効きます。
- 接客はするが、販売のノルマは持たない → 営業が得意な人は要らない
- 手順を再現する仕事 → アレンジが得意な人は合わない
- 少人数で回す → 指示を待って動きたい人は合わない
「こういう人は合わない」と書けると、面接での見送りが楽になります。見送る理由が言えると、採用担当の消耗が減ります。
第4段:3年あとの姿を1行で書く
入った人が3年あとに何をしているか。これを1行で書きます。
- 「後輩に清掃の手順を教えている」
- 「宴会の配膳を1人で仕切っている」
- 「フロントのシフトを組んでいる」
3年あとの姿がない人物像は、入口だけを決めた人物像です。入口だけの基準で採ると、入った人が次にどこへ行くかわからず、宿も教え方を決められません。
人物像は、部署ごとに違う
宿全体で1つの人物像を作ると、どこかの部署で合いません。
- フロント:正確さ、落ち着き、PC操作
- 客室・清掃:手順の再現、体力、1人で進める力
- 料飲・配膳:タイミング、声かけ、チームでの連携
- 厨房:段取り、衛生、集中力
4つの部署に、同じ人物像は使えません。 使っているなら、それは人物像ではなく「いい人」です。
あなたの宿で、いま募集している部署の人物像は、他の部署のものと違いますか。違わないなら、書き分けの余地があります。
書けた人物像を、どこに使うか
もちろん、この3つを大切にしている宿もあります。ただ、3つを書いただけで人が選べるかというと、そうとは限りません。人物像は、作って終わりだと使われません。使う場所は3つです。
• 求人票 — 「求める人物像」の欄に、行動の言葉で2行
• 評価シート — 項目名を、人物像の行動から取る
• 入社後の教育 — 3ヶ月あとに何ができるようになっていてほしいか
3つが同じ言葉でつながっていると、採用から育成までが1直線になります。つながっていない宿では、面接で見た人と、現場で教える人が別人になります。
人物像は、更新される
1度決めた人物像は、2年もつと古くなります。宿の客層が変わり、部署の人数が変わり、繁忙期の形が変わるからです。
更新のタイミングは、採用した人が続かなかったときです。続かなかった理由が人物像と合っているかを見る。合っていなければ、人物像のほうを直します。
人を直すのではなく、基準を直す。この向きが、採用では効きます。
現場でまず着手できること
「この人がいないと回らない仕事」を3つ書いてみてください。 書き終えたら、それぞれの隣に「どんな力があったら渡せるか」を1行書きます。
3行が書けたら、それがあなたの宿の人物像の素材です。素材を抽象語に翻訳せず、行動の言葉のまま求人票に載せてください。
3行が書けなかったなら、人物像の前に仕事の分担を見るところからです。その場合、採用を急ぐより、分担を書き出すほうが先になります。