HRBPと組織づくり
「宿の組織を強くしたいが、人事の自分に何ができるのだろうか」「組織づくりというと、立派な組織図や人事制度を整えることばかり考えてしまう」。宿泊業において、HRBPが担うべき組織づくりとは、紙の上の制度を作ることではなく、現場の人と人との関係性を耕し、自律的に動けるチームを育てることです。この記事では、HRBPが関わる組織づくりの実践事例と、成功のための要点を整理します。
組織づくりは「制度の導入」ではない
多くの宿で組織改革が進まない大きな原因は、「形から入ってしまうこと」にあります。
評価制度を刷新し、細かな役職定義を作り、業務マニュアルを配っても、現場のスタッフ同士に信頼関係がなく、経営陣への不信感が募っていれば、どんなに立派な制度も形骸化してしまいます。
HRBPが関わる組織づくりとは、制度という「枠組み(ハード)」を作る前に、人と人との対話や助け合いという「関係性の質(ソフト)」を整える営みです。
現場のリーダーが何を誇りに思い、若手がどこで不安を感じているのかを丁寧に拾い上げ、現場自身が「この宿をもっと良くしたい」と動き出せるように伴走することこそが、HRBPの真骨頂です。
HRBPが組織づくりで果たす3つの機能
宿泊業の組織開発において、HRBPは次の3つの機能を担うことで力を発揮します。
- 経営の想いを現場の仕組みへと翻訳する——経営陣の理念や中長期方針を、現場の日常業務や評価基準へとわかりやすく落とし込みます。
- 部署間の境界を溶かす対話のファシリテーション——フロントと厨房、客室清掃の間に生じがちな利害対立や連絡の壁を、合同ミーティングや共同作業を通じて和らげます。
- 変化の痛みに寄り添う見守り役——新しいやり方に移行する際、現場に生じる戸惑いや反発を否定せず、じっくりと話を聞きながら定着まで伴走します。
この3つの機能が働くことで、組織改革は「押し付けられた義務」から「自ら進める改善」へと変わっていきます。
2つの宿の事例
組織づくりへの関わり方によって、現場の反応はどのように異なるでしょうか(※宿泊現場の実情を踏まえたケーススタディです)。
- 事例1:制度先行で現場を混乱させたAホテル——人事担当者は外部のコンサルタントを招き、大企業並みの職能資格制度と多面評価シートを導入しました。しかし、日々の接客に追われる現場リーダーからは「評価シートを書く時間がない」「現場の実情に合わない」と強い反発を受けました。人事は正論で説得しようとしましたが、現場との溝は深まり、主要なリーダーが相次いで退職してしまいました。
- 事例2:現場と共に歩みを進めたB旅館——人事担当者は、制度を作る前にまず調理場とフロントの若手を集め、「日々の引継ぎで困っていること」をざっくばらんに話す月1回の座談会から始めました。対話を重ねる中で、現場スタッフ自らが「手書きの申し送りノートを共有ホワイトボードに変えよう」と提案しました。自分たちの手で改善できた成功体験が自信となり、その後の評価制度の見直しも現場主導でスムーズに進みました。
差は、「完成された制度を上から降ろしたか」、「現場の対話から小さな変化を積み上げたか」にあります。
組織づくりを成功に導く2つの原則
事例から学べる、HRBPが心に留めるべき原則は次の2つです。
- 原則1:現場リーダーを「主役」に据える——HRBPが前に出すぎて改革を引っ張るのではなく、現場のリーダーがチームを導けるよう黒子として支える姿勢を貫きます。
- 原則2:成果を焦らず「月数」で見届ける——組織文化や人の関係性が変わるには時間がかかります。3ヶ月や半年の短いスパンで拙速な結論を出さず、じっくりと歩調を合わせることが大切です。
焦らず、現場の力を信じて伴走し続けることが、揺るぎない組織づくりの要諦です。
リーダーが自問したい4つのポイント
- あなたの宿の組織づくりは、現場のスタッフを置き去りにしていませんか。
- あなたは制度を作る前に、現場の人と人との関係性に目を向けられていますか。
- 現場のリーダーは、自らの意思でチームを良くしようと動き出せていますか。
- 経営陣と現場の間で、組織のありたい姿について共通の対話ができていますか。
明日からの実践につなげるワンアクション
現場のリーダー1人とゆっくりお茶を飲む時間をつくり、「最近、チームの雰囲気で気になっていることはありますか」と静かに問いかけてみてください。
- 1対1の何気ない対話が、組織の詰まりを解きほぐす貴重な糸口になることもあります。
- 現場の悩みに寄り添い、共に歩む姿勢こそが、あなたの宿の組織を内側から強く育てる確かな力になります。
あなたの宿の組織は、現場への優しい眼差しから育っていきます。