求人票に「アットホーム」と書かないほうがいい理由
「アットホームな職場です」。この1文は、求人票でよく見かけます。ただ、応募者の側では、この言葉を良い意味で読んでいない人が増えています。書いた側と読む側で、意味がずれている言葉です。
書いた側が言いたいこと
「アットホーム」を書くとき、宿の側はこういうことを言いたいのだと思います。
- 人が少なくて、みな顔見知り
- 困ったときに助け合える
- 堅苦しい決まりが少ない
- 家族的にあたたかい
どれも、本当のことかもしれません。ただ、この4つは1つも伝わっていません。「アットホーム」からは、4つのどれかが読み取れるだけだからです。
あなたの宿の求人票にこの言葉があるなら、それは伝えたいことが4つあるのに、言葉が1つの状態です。
読む側が受け取ること
応募者の側では、この言葉は別の意味で読まれることがあります。
- 決まりがない:ルールが曖昧で、何でもやらされるのでは
- 距離が近い:プライベートまで踏み込まれるのでは
- 人手が少ない:「家族のように」で労働力を補うのでは
- 断りにくい:断ると人間関係が壊れるのでは
4つとも、応募者が過去の職場で経験したことから来る読み方です。経験があると、言葉の裏を読みます。裏を読む人は、応募しません。
つまり「アットホーム」は、来てほしい人を遠ざけ、警戒心の薄い人だけを集めることがあります。集まった人が入ったあとに4つを経験すると、早期離職につながります。
なぜこの言葉は疑われるのか
理由は3つあります。
1. どこも書いている
求人サイトで「アットホーム」を検索すると、何万件も出てきます。どこも書いている言葉は、差別化になりません。差別化にならない言葉は、読み飛ばされます。
2. 中身が定義されていない
「アットホーム」の定義は、書いた人の頭の中にしかありません。読み手は自分の経験で定義を埋めます。埋められた定義は、書いた人の意図と1致しないことがあります。
3. 実態と違う宿が使ってきた
この言葉を書きながら、実際は休みが取れない、残業が多い、という宿が過去に多くありました。言葉の評判は、使った宿の実態で決まります。実態が伴わない使われ方が続くと、言葉自体が疑われます。
代わりに何を書くか
「アットホーム」で伝えたかった4つを、具体的な事実に置き換えます。
| 伝えたかったこと | 事実で書く形 |
|---|---|
| みな顔見知り | 「スタッフ8名、8名そろって顔を合わせる朝礼があります」 |
| 助け合える | 「繁忙期は、部署を越えて配膳を手伝う決まりです」 |
| 決まりが少ない | 「制服はエプロンのみ、髪色は自由です」 |
| あたたかい | 「スタッフの誕生日は、まかないに1品足します」 |
4行とも、事実しか書いていません。ただ、読み手はここから職場の空気を想像できます。想像できた空気は、応募者自身の判断になります。判断できた人は、入ってから「思っていたのと違う」になりにくいです。
事実を書くときに、1つだけ注意
事実を書くなら、都合の悪い事実も1つ入れると、全体の信頼が上がります。
例:「スタッフ8名の小さな宿です。1人が休むと影響が出ます。だからこそ、希望休は月に2日まで通しています」
小さな宿であること、影響が出ること。2つは都合のよい話ではありません。ただ、この2行があると、「この宿は本当のことを書いている」と読まれます。読まれると、都合のよい行も信じられます。
全部をよく見せようとした求人票は、全部が疑われます。1行の実直さが、全体の信頼を作ることがあります。
抽象語を全部やめる必要はない
「明るい職場」「やりがいのある仕事」。こういう抽象語を全部消す必要はありません。消すと、求人票が味気なくなります。
順番はこうです。
• 事実を先に書く(人数、休み、教育、実際の1日)
• 抽象語は、事実のあとに置く(「だからこそ、明るい職場だと思います」)
事実のあとに置かれた抽象語は、根拠のある言葉として読まれます。根拠があると、「アットホーム」も別の言葉になります。
逆に、事実の前に抽象語を置くと、飾りとして読まれます。飾りは読み飛ばされます。
あなたの宿の求人票は、いまどちらの順番でしょうか。開いて、最初の3行を読んでみてください。
リーダーが今日からできる小さな工夫
自分の宿の求人票を開いて、抽象的な形容詞を3つ丸で囲んでみてください。(アットホーム、明るい、やりがい、働きやすい、など)
囲んだら、それぞれの隣に事実を1行書きます。「スタッフが何人で、何が実際に起きているか」です。
3つのうち1つでも事実が出せたら、その1行を求人票に入れてください。事実1行ぶん、求人票は信じられる側に動きます。
出せなかった抽象語は、いま宿に事実がないということです。ないなら、書くより先に作るほうに手を付けます。