新人が質問しなくなった
入社して2週間、あの新人はよく聞いてきた。
客室の掃除の順番。リネンの畳み方。宴会の配膳は、どこから出すのか。メモを取りながら、同じことを2度聞くこともあった。
それが、ここ数日、ない。
朝礼のあと、各自が持ち場へ散る。すれ違えば「おはようございます」と返ってくる。仕事は回っている。ミスも出ていない。だから、気づかないまま1日が終わる。
もし似たようなことが、あなたの宿でも起きていたら。少し1緒に考えてもらえたらと思います。
それは「落ち着いてきた」のかもしれない
最初に書いておきたいことがあります。質問が減るのは、悪い変化とは限りません。
1通りの流れが体に入って、いちいち聞かなくても動けるようになったのかもしれない。これが最も可能性の高い説明です。新人が3週間ほどで静かになるのは、宿ではよくあることです。
あるいは、もともと聞くまでに時間がかかる人なのかもしれない。もしくは、あなたが忙しそうだった。それだけのこともあります。
だから、この記事は「質問しない新人は危険だ」という話ではありません。 1つの変化に、意味はありません。
それでも、見ておきたくなる理由
ただ、1つだけ確認しておきたいことがあります。
質問が減る理由として、「聞いても仕方がない」と学習してしまった場合もあるからです。
- 聞いたときに、「それ、前に言ったよね」と返された
- 忙しそうで、後でと言われたまま、後でが来なかった
- 先輩によって答えが違って、誰に聞けばいいかわからなくなった
こうしたことが23度続くと、人は聞かなくなることがあります。困っていないからではなく、聞くほうが高くついたからです。
困ったことに、この状態は外から見ると「落ち着いてきた」と区別がつきません。本人も、わざわざ「質問しにくいんです」とは言わないものです。
影響が出るのは少しあとです。繁忙期に入ったとき、あるいは1人立ちしたとき。確認しないまま進める癖がついているとミスが増え、しかもそれは本人の責任というより、聞ける空気がなかった職場の側に戻ってくることが多いです。
見るところ
気になったら、次のあたりを静かに見てみてください。本人に問い詰める必要はありません。
- 質問の相手は固定されているか。 1人にだけ聞いているなら、他の人には聞きにくい理由があります
- 質問の時間帯。 忙しい時間を避けて落ち着いた時間にまとめて聞いてくるなら、それは配慮であり、好ましい変化です
- メモを取り続けているか。 取らなくなっていたら、覚えたのではなく記録しなくなっただけの場合もあります
- 他の新人はどうか。 同じ時期に入った人が質問しているのに1人だけ静かなら、個人の話ではなく関係の話です
- あなたの反応。 呼ばれたときに体ごと向き直っているか。手を止めずに「何?」と返していないか
最後の1つが、実は大きく効くことがあります。新人は、言葉よりも体の向きで判断しているからです。
話してみるときの、はじめの1言
こうした様子が数日続いているなら、1度話してみる価値はあります。
ただし聞き方が大事です。「最近どう?」は重くありませんが、「何か困ってる?」は、困っていないと答えるしかない問いです。宿の現場なら、作業の手を借りる形が自然なことが多いです。
「今日のお昼、宴会の部屋割りを1緒に見てもらえる? 僕が間違えていないか確認してほしいんだ」
頼まれた側は、話を聞かれる立場ではなく、1緒に仕事をする立場になります。そのうち、向こうから出てくることがあります。
出てこなくても構いません。何も言わないのは、何も起きていないことのほうが多いからです。「聞いていい関係だ」と1度確認できれば、それで十分なこともあります。解決しなくてはいけない、と思わないことです。
新人が聞かない職場では、他の人はどうしているだろう
もう1つだけ、考えてみたいことがあります。
新人が質問しなくなった職場では、他の人も相談しなくなっている場合が多い、という話はよく聞きます。
ベテランがミスを抱える。中堅が判断を保留する。店長だけが情報を集める。もしそうなっていたら、新人の静けさは「新人の問題」ではなく、その職場の空気の中で見えやすい場所に表れたものです。
もちろん、そうではない職場もあります。新人だけが静かで、他の人は普通に相談できている。そういうこともあります。
ただ、新人は職場の状態を測る手がかりになり得ます。立場が弱く、空気を読む必要があって、正直に反応しやすいからです。質問が減ったことに気づけたなら、すでに大切なところに気づいています。
今日、できる1つのこと
今日、新人と作業を1つだけ1緒にやってみてください。 教えなくて構いません。隣で同じことをするだけでいい。その十分のあいだに、向こうから出てくる言葉が1つでもあれば、それで十分です。
何も出てこなくても、それは「何もない」のとは限りません。ただ今日はないだけです。