外国人スタッフ向けのマニュアルはどうつくるか
日本語で書いたマニュアルを渡す。3ヶ月あと、「読んでないな」と気づく。読まないのは、性格の問題ではありません。形が、読む形になっていないことがほとんどです。
読まれないマニュアルの3つの形
現場で起きやすい形を、3つ挙げます。
形1:文字だけの長文
「客室清掃マニュアル(全8ページ)」。ページを開いた瞬間に、読む気が折れます。日本語が母語でない人には、8ページの壁は特に高くなります。
形2:難しい言葉
「速やかに拭き上げ、適切に配置すること」。「速やかに」「適切に」は、日本語の書類の言葉です。日常の言葉にすると「早く」「正しく」です。
形3:古いまま
やり方が変わったのに、紙が前のまま。1度「このマニュアルは古い」と思われると、新しいページも読まれなくなります。
あなたの宿のマニュアルは、3つのうちどれに近いでしょうか。1つでも心当たりがあれば、直す場所は決まっています。
つくり方の3原則
新しく作るなら、3つだけ守ります。
原則1:1文は短く
1文に、情報を1つだけ入れます。
- ✕「掃除機をかけたあと、濡れた雑巾で床を拭き、窓を確認します」
- ○「1. 掃除機をかける 2. 床を水拭きする 3. 窓を確認する」
番号を振ると、順番が見えます。順番が見えると、指差しで確認できます。
原則2:写真が主役
動作は、写真で見せます。文字は写真の説明として1行だけ。
- 写真:雑巾の絞り方の手の形
- 1行:「しずくが落ちないくらいにしぼる」
写真は、先輩が実際にやっている場面を撮ります。きれいな見本写真より、実際の手の形が役立ちます。撮るのは、スマートフォンのカメラで足ります。
原則3:やさしい日本語
難しい言葉を、日常の言葉に置き換えます。置き換えの例です。
| 書類の言葉 | やさしい言葉 |
|---|---|
| 速やかに | はやく |
| 着用する | 着る |
| 拭き上げる | ふく |
| 適切に | ただしく |
| 留意する | 気をつける |
| 破棄する | すてる |
| 点検する | チェックする |
表は、やさしい日本語の辞書(「やさしい日本語」の手引きは自治体や出入国在留管理庁が出しています)から広げられます。全部を置き換えなくても、指示の動詞だけ置き換えると、読める形に近づきます。
作る手順は5つ
1枚のマニュアルは、次の5つで作れます。所要は、1つの仕事で1時間くらいです。
1. 範囲を決める
「客室清掃」全部ではなく、「チェックアウト後の洋室1間」まで狭めます。範囲が狭いと、1枚に収まります。
2. 写真を撮る
先輩に普通に仕事をしてもらい、動作の変わり目で撮ります。1枚の仕事で5〜十枚。撮る前に「マニュアル用に撮ります」と1言伝えます。
3. 1行を足す
写真ごとに、2十字以内の1行を付けます。動詞で始めると、指示の形になります(「ふく」「ならべる」「みる」)。
4. 新人に使ってもらう
できたものを、次の新人に何も言わずに使ってもらいます。つまずいた場所が、マニュアルの穴です。穴は、つまずいた人にしか見えません。
5. 直す
穴を直して、完成にします。日付を書いておくと、更新の管理ができます。
5つのうち、4が1番大事です。4を飛ばすと、作った人の思い込みが紙に残ります。
多言語はどこまでするか
「英語版も中国語版もベトナム語版も」と思うと、手が止まります。止まらないための線引きは3つです。
線1:まず、やさしい日本語だけで作る
写真が主役なら、文字は少なく済みます。少ない文字は、読める人が多い形です。
線2:安全と金銭の手続きだけ、多言語にする
緊急時の避難、怪我の報告、給与・保険の手続き。ここが伝わらないと大きな問題になります。この数枚だけ、本人の母語(または英語)を足します。
線3:機械翻訳は、人の目で直す
機械翻訳は便利ですが、指示の文は間違えることがあります。直せる人に1度見てもらってから貼ります。見られる人がいない言語なら、写真と数字(時刻、場所)中心の形にします。
全部の言語を揃えようとすると、1枚もできません。3つの線で切ると、今日から始められます。
やらないほうがよい4つ
- 1冊にまとめる:厚い冊子は開かれません。1枚ずつ、仕事の場所に貼ります
- ルール集にする:「〜禁止」が並ぶ紙は、読む気を下げます。やり方(どうやるか)が先、注意(気をつけること)は後ろ
- ラミネートして終わりにする:きれいにしても、古くなったら同じです。日付と「直す人」を書いておきます
- 作った人しか知らない場所に置く:共有フォルダの奥ではなく、仕事の現場(リネン室、フロント裏)に置きます
日本人の新人にも効く
この形のマニュアルは、日本語が母語の新人にも読めます。写真が主役で、1文が短く、難しい言葉がない形は、誰にでも軽い形です。
多国籍のチームでは、同じ紙をみんなで使う形がよいことがあります。外国人向けの別冊を作ると、「あの人たち用のもの」という線が引かれます。線が引かれると、チームの空気が変わります。
1枚の紙をみんなで使う形は、線の引きようがありません。マニュアルは、公平の道具にもなります。
リーダーが今日からできる小さな工夫
今日の仕事の1つを、スマートフォンで5枚撮ってください。 動作の変わり目で撮ると、5枚で1枚のマニュアルになります。
撮った5枚に、2十字以内の1行を足します。足せたら、次の出勤の人に何も言わずに見せて、「これでできますか」と聞いてください。
つまずいた場所が出たら、そこを直します。直した1枚が、あなたの宿の最初の「読まれるマニュアル」です。1枚できると、2枚目は半分以下の時間でできます。