外国人スタッフの生活サポートはどこまで必要か
「生活の面倒まで見るのか」。見ると甘やかしになる、見ないと困る。線はどこに引くかが、この記事の話です。
生活の困りごとは、仕事の困りごとになる
- 銀行口座が作れない → 給与の振込ができない
- 病院の予約のしかたがわからない → 体調を崩して休む
- 役所の手紙が読めない → 期限を過ぎて、大きな問題になる
3つとも放置すると遅刻、欠勤、退職の形で仕事に出てきます。
生活が落ち着いている人は仕事ができます。生活サポートは親切である前に、働ける状態を保つ話です。
あなたの宿で、スタッフの生活が仕事に影響したことはありますか。あったなら、言葉の壁のある人では重く起きやすい、ということです。
サポートは3つの層に分かれる
「どこまで」の線引きは、3つの層で考えると整理できます。あなたの宿の項目を3つの層に当てはめながら読んでください。
層1:制度上、やることになっているもの
特定技能1号には支援計画の義務があり、生活に関わる部分だけでこれだけあります。
- 住居の確保・生活に必要な契約の支援
- 生活オリエンテーション(ゴミ出し、交通ルール、防災など)
- 日本語学習の機会の提供
- 相談・苦情への対応、日本人との交流の機会の提供
これはやる・やらないの選択ではなく、自分でやるか登録支援機関に委託するかの選択です。
層2:宿がやったほうがよいもの
義務でなくても、仕事を回すために効くものです。
- 通勤の形を1緒に決める
- 給与口座の開設に付き添う
- 生活道具を買う場所を教える
- 体調が悪いときの連絡のしかたを、最初に1度やって見せる
この4つのうち、あなたの宿がすでにやったことがあるものはどれでしょうか。
層2の共通点は、1度やれば、あとは本人ができることです。
層3:踏み込まないほうがよいもの
生活の全部を見る必要はありません。次の領域は、本人のものです。
- お金の使い方(送金の額、買い物の内容)
- 休日の過ごし方、家族や交友関係
- 宗教や食事の信条(配慮はしても、立ち入らない)
層3に踏み込むと、関係が「見てもらう側・見る側」に固定されます。固定されると、自立が遅れ、見る側の負担が重くなります。
線引きの実務:「仕事に影響するか」で見る
3つの層を踏まえて、迷ったときの判断は1つです。
`
その困りごとは、仕事に影響するか
→ する:層1・層2として手を貸す
→ しない:本人に任せる(相談には乗る)
`
例で見ます。
- 「病院の予約ができない」→ 仕事に影響する(欠勤・悪化)。手を貸す
- 「休日の遊び先に迷う」→ 影響しない。聞かれたら答える程度でよい
- 「実家への送金のしかたがわからない」→ 直接は影響しない。ただ、不安が仕事に出ることがあるので、相談窓口につなぐ
「相談には乗る」と「代わりにやる」は違います。乗ればよい場面まで代わりにやると、層3に足を踏み入れることになります。
やりすぎると何が起きるか
生活の面倒を全部見ると、3つの問題が出てきます。
1. 特定の1人が疲れる
サポートが世話好きな1人に寄ると、その人が消耗します。その人が辞めると、サポートの形ごと消えます。
2. 本人が自立しない
形が続くと自分でやる機会がなく、3年いても役所の書類が読めないまま、ということが起きます。
3. 関係が上下になる
「面倒を見てあげている・見てもらっている」の関係は、対等な職場の関係になりにくいことがあります。本人が困りごとを言い出せなくなる形もあります。サポートは1人に寄っていませんか。
やらないと何が起きるか
逆に、何もしない形でも3つ起きます。あなたの宿では、困った人は誰に相談できていますか。
1. 困りごとが黙って溜まる
窓口がないと、本人は自分で抱えます。抱えたものは、ある日まとめて出ます。
2. 初月がつまずきの時期になる
生活の初期設定(口座、通信、交通)が済まないまま仕事が始まると、最初の3ヶ月が重くなります。3ヶ月は定着の分かれ目です。
3. 「困ったら辞める」が選択肢になる
助けてもらえない職場では、困ったときの選択肢が「我慢する」か「辞める」の2つになり、辞めるほうに振れやすいです。
時間とともにサポートは軽くする
サポートの量は、時間とともに減らします。
| 時期 | 形 |
|---|---|
| 初月 | 1緒にやる(付き添い、代行を含む) |
| 2〜6ヶ月 | やり方を教える(1度見せて、あとは本人) |
| 6ヶ月以降 | 見守る(相談に乗る、先回りはしない) |
減らし方の目安は「本人が1人でできた回数」です。1回できたことは、次から手を出しません。
日本人の新人にも同じ流れ(教える→任せる→見守る)があります。外国人だから手厚く、ではなく、言葉の分だけ最初の1度が重い、と考えると線が引きやすくなります。
宿の側に必要な用意は3つ
サポートを「特定の1人の親切」にしないために、宿の側で3つ用意します。いくつありますか。
- 窓口を決める:誰に相談するかを、入社初日に伝える
- 付き添う時間をシフトに入れる:層2の項目は、業務時間として扱う
- 記録を残す:どこまで手伝ったかを書くと、次の人のサポートが軽くなる
どれも大きくない用意です。用意がないと、サポートは個人の善意の上で回り、人が替わると消えます。
今日から見直せる業務のポイント
「この町で暮らし始める人が最初に困る3つ」を紙に書いてみてください。(例:病院の予約、ゴミの出し方、バスの乗り方)
3つ書けたら、それぞれ誰が1度教えるかを決めます。その名前が生活サポートの窓口です。
書き出せない場合は、いま働いている外国人スタッフ(または前にいた人)に「最初に困ったことは何でしたか」と聞いてみてください。答えがそのまま3つのリストになります。