Human Capital / HRBP人と経営の接続
KNOWLEDGE対象: 人事担当者

現場を理解しない人事が起きる問題

「人事は現場の大変さを何も分かっていない」。現場のリーダーやスタッフからそう漏らされたとき、人事担当者はどう受け止めるべきでしょうか。現場への無理解は、単なる感情の対立にとどまらず、宿のサービス品質や採用・定着を根本から揺るがす問題に発展することがあります。この記事では、現場を理解しない人事がもたらす影響と、歩み寄りのための道筋を整理します。


なぜ「現場軽視」と感じられてしまうのか

宿泊業の人事担当者は、労務管理、給与計算、求人票の作成、行政手続きなど、日々多忙な事務業務を抱えています。そのため、悪気はなくても「事務所に座りっぱなしで現場に顔を出せない」という状態に陥りがちです。

1方で、フロントや客室清掃、調理場のスタッフは、秒単位の時間と向き合いながらお客様対応や仕込みに追われています。

こうした状況の中で、人事が現場の都合を聞かずに新しい書類の提出を求めたり、現場の業務実態とズレた採用を行ったりすると、現場側には「自分たちの苦労を無視して、机上の空論を押し付けてくる」という不信感が芽生えてしまいます。

現場理解の欠如が引き起こす3つの機能不全

人事が現場の解像度を欠いたまま施策を進めると、主に3つの機能不全が発生します。

  • 不適切な採用と早期離職——現場で本当に必要な資質(体力、柔軟性、チームワークの取り方など)を把握しないまま採用を進めるため、「採用してもすぐに辞めてしまう」というミスマッチを繰り返します。
  • 制度やツールの形骸化——複雑な評価シートや業務管理アプリを導入しても、現場の動線や作業の合間に使えない設計であれば、次第に入力が滞り、誰も見ない形骸化した仕組みになります。
  • 現場の孤立感と諦めの蔓延——「人事に相談しても無駄だ」「どうせ現場の意見は届かない」という諦めが広がり、業務上のトラブルや違和感が隠蔽されやすくなります。

これらは、宿の組織風土を冷え込ませ、離職の連鎖を引き起こす大きな要因となります。

現場を理解するための3つのアプローチ

現場との距離を縮め、信頼を取り戻すために人事担当者が踏み出せるアプローチは次の3つです。

  • アプローチ1:現場業務を短時間でも体験する——繁忙期の皿洗いや客室点検、チェックインの誘導など、現場の仕事を少しでも手伝います。実際に体を動かすことで、「どこに負荷がかかり、なぜ余裕がないのか」が体感として理解できます。
  • アプローチ2:定点での観察と何気ない雑談——仕込みの合間や清掃の終了時など、現場の1区切りの時間に顔を出し、「お疲れさまです、今日のお客様の入りはどうでしたか」と何気ない言葉を交わします。
  • アプローチ3:現場の言葉で対話する——人事の専門用語や経営フレームワークを使うのではなく、「配膳のバタつき」「客室の仕上げ時間」といった現場の共通言語を使ってコミュニケーションを取ります。

自ら現場の輪の中に入っていく真摯な姿勢が、閉ざされていた心の扉を開くきっかけになります。

対照的な2つの宿の歩み

現場との距離感によって、人事の存在意義はどのように変わるでしょうか(※複数の宿泊施設での実態をもとに再構成した事例です)。

  • A館(机上の管理を貫いた人事)——「人事は中立的な立場で管理するのが仕事」と考え、現場との接触を避けて事務所にこもり続けました。現場の悲鳴を無視して新しい引継ぎ日報を義務付けたところ、現場の反発を招き、主力スタッフの集団退職に発展してしまいました。
  • B館(現場の汗に寄り添った人事)——着任早々、週に2回は調理場やフロントのサポートに入り、現場のスタッフと同じまかないを食べながら話を聞きました。「引継ぎメモの書式が細かすぎて書けない」という声を受けて、チェック方式の簡易な用紙へと改めました。現場からは「あそこまで自分たちの状況を見てくれる人事なら協力したい」と信頼され、その後の制度改善もスムーズに受け入れられました。

差は、「事務所の椅子から現場を眺めたか」、「現場の足元に立って1緒に考えたか」にあります。

自館の現状を振り返る4つの視点

  • あなたは今週、現場のスタッフと業務連絡以外の雑談を交わしましたか。
  • あなたはフロントや厨房、清掃の「もっとも忙しい時間帯の流れ」を具体的に把握していますか。
  • あなたが現場に依頼している提出物やルールは、現場の負担になりすぎていませんか。
  • 現場のリーダーは、困ったときにあなたへ気軽に相談を持ちかけてくれますか。

現場でまず着手できること

明日の仕込みの時間や営業の合間に現場へ足を運び、「何か人手が必要な簡単な作業はありますか」と声をかけてみてください。

  • ほんの十分の作業の手伝いが、現場との間にあった見えない壁を取り払う第1歩になることもあります。
  • 現場を肌で知る人事でいることが、あなたの宿の持続的なおもてなしを支える確かな力になります。

あなたの宿の現場には、どんな声が待っているでしょうか。



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