Well-beingとは何か
Well-being は「幸せ」の訳語として使われることがありますが、職場の文脈では「その人が、どういう状態で働いているか」を表す言葉として使われます。気分の1時的な高低ではなく、もう少し広い範囲を指します。
まず、言葉の使われ方から
Well-being(ウェルビーイング)は、もともと健康や福祉の分野で使われてきた言葉です。"well"(よい)と "being"(状態)から、文字どおり訳せば「よい状態であること」です。
近年は、企業や組織の文脈でも使われるようになりました。人が集まらない、人が残らない、経験が蓄積されない。こうした課題が積み重なって、働く人がどういう状態にあるかを、経営の側から見る必要が出てきた、ということです。
なお、Well-being は特定の企業や団体が提唱した独自の概念ではありません。すでに広く使われている考え方であり、定義も1つではありません。ここでは宿泊業の現場で意味を持つ形に絞って説明します。
混同されやすい3つのもの
Well-being ≠ 福利厚生
福利厚生は会社が用意する制度や設備です。社割、寮、食事補助、社員旅行。これらは Well-being を支える要素になり得ますが、それ自体が Well-being ではありません。
あなたの宿の福利厚生を思い浮かべてみてください。それを使っている人の顔が浮かぶかどうかで、制度が生きているかは見当がつきます。
社員旅行が充実していても、日常の休憩が取れていなければ、働いている人の状態は変わりません。逆に、特別な制度がなくても、休めて、困ったときに誰かに話せる職場もあります。
Well-being ≠ 従業員を楽しくすること
楽しさは状態の1部になり得ますが、楽しければ Well-being が足りているとは限りません。仕事が忙しくても難しくても、「ここで働いていてよい」と思えている状態はあり得ます。
Well-being ≠ イベントを開催すること
懇親会や表彰式は手段であって目的ではありません。手段が目的化すると、準備の負担が現場にのしかかります。
職場のWell-beingに含まれるもの
職場の文脈では、おおむね次のような範囲が含まれると考えられています。
- 身体 疲れが残り続けていないか/心 安心して働けているか
- 人間関係 話せる相手がいるか。孤立していないか
- 安全 危険な作業やハラスメントがないか
- 休息 休めているか。休日に仕事のことが頭から離れているか
- 働き方 シフトや労働時間が生活と両立しているか
- 成長 できている実感があるか/キャリア この先の道が見えているか
- 公平性 頑張りが報われているか。扱いに差がないか
- 意味 自分の仕事に意味を感じられているか
- 生活 仕事以外の時間が、仕事以外の時間として存在しているか
- 社会とのつながり 家族や地域との関係が仕事で壊れていないか
宿泊業は、このいくつかと特に相性がよくない面があります。早番・遅番の混在は休息と生活に、繁忙期の集中は身体と心に影響しやすく、お客様の感情を受け取る仕事であることは人間関係と意味の両方に作用します。
つまり宿で Well-being を考えるとは、このうちのどこがいま最もすり減っているのかを特定していく作業だと言い換えられます。
12もあると多く感じますが、あなたの宿で気になるところは、おそらく2つか3つに絞られます。まずその2つを頭に置いておいてください。
「状態」を見るのであって、「人」を判定するのではない
ここは、はっきりさせておきたいところです。Well-being の考え方は、誰かの心身の状態を判定するためのものではありません。見るのは、あくまで職場の状態です。
- 休憩が取れているか/困ったときに、誰かに話せる道があるか
- 頑張りが何らかの形で返ってきているか/辞めた人の仕事が誰かに積み上がっていないか
これらは個人の問題ではなく、仕組みと環境の問題です。個人の状態を測ろうとすると人は本音を言わなくなりがちで、職場の状態を見ようとすると人は話し始めます。
宿では、どこから見えるのか
挨拶の声の大きさは関係性を、休憩室の使われ方は休息の実態を、新人の質問の数は話しかけやすさを、シフト希望の出し方は生活との両立を、ミスの報告の速さは失敗を共有できるかを、それぞれ映すことがあります。
ただし、これらはどれも単独ではほとんど何も意味しません。新人が質問しないのは忙しそうで声をかけにくいだけの場合もありますし、休憩室が静かなのは、たまたま静かな人が入っているだけの場合もあります。
こうした様子が続いているとき、どこかがすり減っている合図です。必要になるのは、判定ではなく対話です。
なぜ、いま宿で必要とされるのか
採用が難しくなったから、という理由だけではありません。
採用できたとしても、入った人が数ヶ月で疲れていく職場では、採用は「人数が1時的に埋まる」だけで終わってしまいます。人が入れ替わり続けると経験が蓄積されず、教えるためにベテランの時間が削られ、繁忙期の負担がさらに増える。そんな循環に入ることがあります。
この循環を止める場所は、多くの場合採用ではなく入社したあとにあります。Well-being は、その「入社したあと」を感覚ではなく言葉で扱うための枠組みです。
今日、できる1つのこと
今日、休憩室を1度だけ見に行ってみてください。 誰もいない時間帯で構いません。椅子が引かれたままになっていないか、私物は置けているか、古い掲示が貼られたままになっていないか。それだけで、この宿で「休む」がどう扱われているかが見えてきます。
気にならなかったなら、それはそれで、あなたの宿のよいところです。