採用は経営の1部である
採用は、人事の仕事だと思われています。ただ、採る人数も、採る時期も、かけるお金も、全部、経営の決定です。人事が決められるのは、決められた枠の中だけです。この記事では、採用が経営のどの部分とつながっているかを、4つの線で示します。
採用は「人が足りないからする」ものではない
足りないから採る。これは自然な流れです。ただ、この流れだけだと、採用は後追いになります。
後追いの採用では、次のことが起きます。
- 足りないことに気づいてから求人を出すので、間に合わない
- 間に合わないので、条件を緩める
- 条件を緩めた人が入り、現場が教える負担を負う
- 負担を負った人が辞めて、また足りなくなる
この循環は、採用のタイミングが経営の計画とつながっていないことから出ます。
あなたの宿では、求人を出す日は、何を見て決めていますか。「辞めたから」なら後追いです。「来年の稼働計画」なら、つながっています。
線1:売上計画と採用
宿の売上は、客室数 × 稼働率 × 単価で決まります。この3つのうち、客室数と稼働率は人の数に依存します。
清掃が間に合わなければ、客室は売れません。配膳の手が足りなければ、食事の提供数を絞ります。つまり人の数は、売れる量の上限です。
売上計画を立てるときに、人の計画を並べない宿があります。並べると、次の問いが出ます。
- この稼働率を回すのに、何人必要か
- いま何人いて、いつまでに何人増やすか
- 増やせないなら、稼働率をどこで止めるか
この3つに答えられない売上計画は、人の頑張りに依存した計画です。
あなたの宿の売上計画に、人の数の行はあるでしょうか。ないなら、足すところから始められます。1行で構いません。
線2:利益と人件費
人件費は、宿で最も大きな経費の1つです。人件費率は次の式で出ます。
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人件費率 = 人件費 ÷ 売上高 × 100
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採用は、この分子を増やす決定です。1人採用すると、その人の給与と社会保険と教育の時間が、毎年乗り続けます。
つまり採用は、1度きりの支出ではなく、継続する支出の開始です。設備投資と似ています。違うのは、設備は壊れても人は辞めないかもしれない、という点です。逆に、人は育つし、設備は育ちません。
採用を決めるときに、「今年の人件費率はどうなるか」を見ている宿と、見ていない宿では、3年あとの数字が違います。
いま人件費率を出せるなら、次の1人を採ったときにいくつになるかを計算してみてください。計算できるなら、採用は経営の数字として扱えています。
線3:サービス品質と人の熟練
宿のサービスは、手順書だけでは成立しません。
- 風呂の温度を、季節で少し変える
- 連泊のお客様の、布団の敷き方を変える
- お子様連れの卓に、先に子ども用の取り皿を出す
これらは、長くいる人が持っている判断です。採用して人が入れ替わり続けると、この判断が蓄積されません。蓄積されないと、サービスの質は手順書のレベルで止まります。
手順書どおりのサービスが悪いわけではありません。ただ、その宿に泊まる理由が薄くなります。
あなたの宿に、3年続いている人が何人いるでしょうか。その人たちが持っている判断は、宿の資産です。資産として数えたことがあるかどうかで、採用の見方が変わります。
採用は、この蓄積を続けるかどうかの決定でもあります。
線4:組織の形と採用
誰を採用するかで、組織の形が変わります。
- ベテランを採ると、教える負担は減り、既存の人の役割が変わる
- 新人を採ると、教える負担は増え、中堅が育つ
- 専門職を採ると、その仕事が1箇所に集まり、他の人が触れなくなる
どれも1長1短です。ただ、選ばないと、偶然に決まります。偶然に決まった組織は、あとから直しにくいものです。
あなたの宿の組織は、いま誰を中心に回っているでしょうか。その人が辞めたら、何が止まりますか。この2つが採用の条件になります。
止めたくない仕事を挙げていくと、採る人の像が見えてきます。逆に、止まってもよい仕事は、採用せずに減らせます。
経営会議で採用を話すときの4行
採用を会議に上げるとき、次の4行があると決まりやすくなります。
• 何人、いつまでに、どの部署に必要か
• 必要な理由(稼働計画か、退職補充か、業務増加か)
• かけた場合の人件費への影響(年間でいくら増えるか)
• かけなかった場合の影響(何が止まるか、誰の負担になるか)
4番目が抜けている宿が多いようです。4番目があると、採用しないことの費用が見えます。費用が見えると、判断は早くなります。
あなたの宿で、この4行をいま埋められるでしょうか。埋まらない行が、経営とつながっていない場所です。
採用を経営に戻すと、何が楽になるか
採用が経営の1部として扱われると、現場で3つが変わります。
- 求人票に書く条件が、決まった数字になる(曖昧さが減る)
- 採用の時期が、計画に沿って決まる(後追いが減る)
- 教育の時間が、業務として確保される(頑張りで吸収しなくなる)
3つとも、現場の負担を減らす方向です。採用を経営に上げることは、人事の権限を強くすることではありません。 現場を楽にすることです。
今日から見直せる業務のポイント
来年の稼働の見込みを、1枚の紙に書いてみてください。 月ごとの客室稼働の予想で構いません。書き終えたら、その紙の隣に「何人いるか」を月ごとに入れます。
2つを並べると、人が足りなくなる月が見えます。見えた月が、今年のうちに手を打つ場所です。
稼働の見込みが書けないなら、去年の実績を写してください。去年と今年で違うのは、人の数だけです。