外国人材 / GLOBAL HR日本語・コミュニケーション
SEARCH対象: 現場リーダー

日本語が母語でないスタッフへの指示の出し方

「お願いしました」「はい」。このやりとりのあと、動いていない。リーダーは「言ったのに」と思います。ただ、「言った」と「届いた」は別の出来事です。間のズレは、指示の形で埋められます。


指示が届かない3つの理由

届かない理由は、聞く気のなさではありません。形の中にあります。

理由1:速さと長さ

忙しい現場の指示は、速くて長くなりがちです。「悪いけど、305のタオル取り替えて、その後アメニティも見ておいて、あとリネン室の発注も確認しといて」。1文に3つの仕事が入ると、最初の1つだけが残ることがあります。

理由2:あいまいな言葉

「適当に」「例のやつ」「いつも通り」。この3つは、共通の経験がある人だけの言葉です。入って3ヶ月の人には、「例のやつ」がどれかわかりません。

理由3:「はい」の意味

「はい」には3つの意味があります。

  • わかりました(理解した)
  • 聞いています(受け取った)
  • 断りにくいので、はい(困っている)

3つは、音では区別できません。区別するには、返しの1言が要ります(あとで形を出します)。

あなたの現場で最近あった指示を1つ思い出してください。「届かなかった」ものは、3つの理由のどれに近かったでしょうか。

届く指示の5つの形

形1:指示は1度に1つ

3つの仕事を頼むなら、3回に分けます。または、番号を言って渡します。

  • ✕「タオル替えて、アメニティ見て、発注確認して」
  • ○「3つあります。1. 305のタオル交換。2. アメニティ補充。3. リネン室の発注確認。どれから始めますか」

最後の問いで、本人が順番を選べます。選べると、3つが本人のものになります。

形2:動詞を先に置く

日本語の普通の文は、動詞が後ろに来ます。「305号室の、浴室の、棚の、タオルを、交換してください」。最後まで聞かないと、何をすればいいかわかりません。

指示では、動詞を前に出します。

  • 「交換してください、305のタオル」
  • 書くときは「305 タオル 交換」の形(名詞+動詞だけでも届きます)

形3:1度やって見せて、1度やってもらう

言葉だけの指示より、動作を1度見せるほうが速くて確実な場面があります。

• リーダーがやって見せる(ゆっくり、黙って)

• 本人にやってもらう

• ずれた場所だけ、1言で直す

3つの手順は、日本語の量の半分以下で済みます。見せる・やってもらう・直すの3つは、新しい仕事の最初の1回に使う形です。

形4:返しの1言で確認する

「はい」の3つの意味を区別する1言は、これです。

「じゃあ、このあとどうするか、1言で言ってください」

言えたら、届いています。言えなかったら、届いていません。届いていないときは、指示のほうを直します(長かったか、言葉が難しかったか)。本人を責める場面ではありません。

この1言は、日本人の新人にも使えます。使えるなら、「外国人向けの特別なやり方」ではなくなります。

形5:書いて渡す

口頭の指示のあと、3行だけ書くと、記憶に頼らなくてよくなります。

`

• 305 タオル 交換

• アメニティ 補充

• リネン室 発注 確認

`

付箋、メモ、メッセージ、どれも使えます。書く指示は、あとから確認できるので、言った言わないの話になりません。

難しい言葉の置き換え

指示の動詞だけ置き換えても、届き方が変わります。

| 現場の言葉 | 指示の言葉 |

|---|---|

| 手配しておく | 用意する |

| 対応する | 話す・直す(何をするか言う) |

| 共有しておく | 渡す・伝える |

| 把握する | 見る・知る |

| 差し替える | とりかえる |

| お手隙のときに | ひまなときに |

表は 『「やさしい日本語」とは何か』(やさしい日本語)で広げられます。全部を置き換える必要はありません。 指示でよく使う動詞を5つ選ぶだけで、現場の言葉は軽くなります。

言ってはいけない3つの形

  • 歩きながら・背中越しの指示:顔が見えないと、届いたか確認できません
  • 「わかりました?」の連打:聞かれた側は「はい」しか言えません。確認は、形4の「1言で言ってください」に替えます
  • 人前での言い直し:届かなかったとき、他の人の前で直すと、次から「わからない」と言えなくなります

3つ目は、静かに効きます。「わからない」と言える職場は、指示のズレが小さいうちに出ます。言えない職場では、ズレが溜まってから出ます。

指示の形は、リーダーを守る

指示の形を整えると、リーダー側の負担も減ります。

  • 同じ指示を3回言わなくてよくなる(書いて渡すから)
  • 「言った・聞いていない」のトラブルが減る(メモが残るから)
  • 教える時間が短くなる(見せる・やってもらうの形だから)

負担が減ると、リーダーに余裕ができます。余裕があると、「わからない」を聞ける空気が保てます。空気は、リーダーの体力の上に立っています。

現場の負担を減らす最初の1手

明日の朝、1番最初に頼む仕事を、3行のメモに書いてください。 番号を振って、動詞を短くします(「305 タオル 交換」の形)。

渡すときは、メモを見せて、1度やって見せて、最後に1言だけ確認します。「このあと、どうしますか」。

言えたら、その指示は届いています。届いた経験が1度あると、本人は次回から「わからない」と言えるようになります。 3行のメモは、指示の道具であると同時に、信頼の最初の1枚です。



NEXT READ

GH026「やさしい日本語」とは何か→ TM018忙しい宿ほど会話がなくなる理由→ GH008文化や習慣の違いが気になるとき・まず何を確認するか→