Human Capital / HRBP人事と経営会議
FIELD SIGNAL対象: 人事担当者

人事が経営を語れない理由

「経営会議に出席しても、財務の専門用語が飛び交うと口を開けなくなる」「現場の苦労は痛いほど分かるのに、それを経営の言葉で表現できない」。人事担当者として働く中で、経営陣との対話に気後れしてしまう瞬間は誰にでもあるものです。この記事では、人事が経営を語れなくなる背景にある構造的な要因と、少しずつ経営言語を身につけていくための実践的なステップを整理します。


現場で見られる3つの兆候

人事が経営の視座や言語を持てずにいるとき、組織内には次のような兆候が見られる傾向があります。

  • 経営会議での沈黙と委縮——売上、営業利益、稼働率の議論になると発言を控え、「採用の進捗」など限定された報告のときだけ小さな声で話す状態です。
  • 「感情の言葉」への過度な依存——経営陣への相談や提案が、「現場が大変です」「スタッフが可哀想です」という感情的な訴えに終始してしまい、相手の納得を引き出せない様子です。
  • 宿の収支構造への無関心——「財務や利益のことは社長や支配人が考えるもの」と決め込み、自館がどんな宿泊プランや顧客層から利益を得ているのかを知ろうとしない姿勢です。

これらの兆候は、人事担当者の能力不足によるものではなく、経営言語を学ぶ機会や環境が整っていなかったことから生じる場合が多いです。

なぜ人事は経営を語りにくいのか

人事が経営の言葉に苦手意識を抱く背景には、主に3つの構造的な理由があります。

第1に、これまでの人事教育や実務が「労務管理の手続き」や「求人媒体の選定」に偏っており、損益計算書(PL)や資金繰り表を読み解く訓練を受けてこなかったことです。

第2に、経営陣が使う言葉(客単価、限界利益率、投資回収など)と、人事や現場が使う言葉(シフト、チームワーク、働きがいなど)の間に、大きな専門用語の溝が存在することです。

第3に、「数字の細かい定義を間違えたら怒られるのではないか」という心理的な恐れから、経営に関する議論に踏み込むことを自ら避けてしまうことがあります。

この溝を埋めるには、最初から完璧な財務分析を目指すのではなく、身近な宿の数字と現場の日常を結びつける小さな練習から始めることが有効です。

経営を語り始める3つのステップ

経営陣と対等に対話し、信頼されるパートナーになるための手順は次の3段階です。

  • ステップ1:宿の「売上とコストの基本構造」を掴む——「平均客単価はいくらか」「満室時の売上はどれくらいか」「人件費や食材費にいくらかかっているか」という大枠の数字を支配人に教えてもらいます。
  • ステップ2:経営者の「今の悩み」に耳を傾ける——「今期、社長が強く気にしている数字やリスクは何ですか」と直接尋ね、経営者がどんな景色を見ているのかを理解します。
  • ステップ3:現場の出来事を「数字の背景」として語る——「今月、客室の清掃時間が延びた背景には、新人の教育期間が重なったことがあります。来月には自立して残業代が抑制できる見込みです」というように、現場の物語を数字の意味づけとして届けます。

現場を知る人事だからこそ、無機質な数字に生きた息づかいを与えることができます。

取り組みが分かれた2つの宿

経営言語の習得度合いによって、人事の存在感はどのように異なるでしょうか(※特定の施設ではなく、典型的な状況をもとに整理した事例です)。

  • A館(数字を敬遠し続けた人事)——「自分は人の気持ちを大切にするのが仕事だから、お金の話は苦手だ」と公言していました。経営陣への提案はどうしても感情論に偏り、「現場が疲れています」と繰り返すばかりでした。経営陣からは「現実が見えていない」と次第に相手にされなくなり、現場の労働環境も改善されないまま孤立しました。
  • B館(少しずつ数字を学んだ人事)——簿記や財務の知識はありませんでしたが、毎月の決算書を支配人と1緒に見る時間をつくりました。「客単価が3千円上がると、宿全体でこれだけの利益余力が生まれ、スタッフの待遇改善に回せる」と理解しました。その上で、「単価を支えるためのおもてなし研修」を企画・提案し、経営陣の全面的な協力を得て成功させました。

差は、「数字を自分と関係ないものと遠ざけたか」、「宿を守るための共通言語として学ぼうとしたか」にあります。

組織の健康状態を確かめるチェックポイント

  • あなたは自館の平均客単価や月間の人件費率を把握していますか。
  • 経営陣への相談で、「大変です」という感情の訴えだけに頼っていませんか。
  • 経営者がいま深く関心を持っている経営課題を、自分の言葉で説明できますか。
  • あなたは数字を「現場を守るための武器」として学ぼうとできていますか。

明日の朝礼や引き継ぎで試せること

支配人や社長に「今期の自館の損益計算書(PL)の概要について、基礎から教えていただけないでしょうか」と相談を持ちかけてみてください。

  • 人事が経営に関心を示す姿勢そのものが、経営陣にとって心強い喜びに感じられることもあります。
  • 経営の言葉を身につけ、現場と経営の通訳になることが、あなたの宿をより健やかで強い場所にする確かな力になります。

あなたの宿の未来を語る言葉は、今日の1つの質問から紡がれ始めます。



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