辞める人を減らす前に・残る人を見る
人が辞めると、宿は「辞めた理由」を探します。面接をして、アンケートを取って、条件を直す。ただ、その前に見るべき人が別にいます。同じ条件で、辞めずにいる人です。
辞めた理由の調査には、穴がある
辞めた人の理由を聞くこと自体は、悪くありません。ただ、3つの穴があります。
穴1:本当の理由が出ないことがある
退職の場面で、人は角が立たない理由を選びます。「家庭の事情で」「自分の都合で」。本当の理由が宿にあっても、言わないことがあります。言わない理由は、言っても変わらないと思っていることです。
穴2:辞めた人だけを見ると、母数が小さい
1年に3人辞めた宿で、3人の理由を集めても3件です。3件から傾向を出すのは難しいことがあります。
穴3:「辞める人の特徴」を探すと、選別になる
辞めた人に共通点を見つけると、「こういう人は採らない」につながりやすいです。ただ、共通点は宿の側の条件にあることも多いので、人の特徴を探すと、直す場所を見逃します。
あなたの宿では、直近の退職で、理由をどこまで聞けましたか。「1身上の都合」で終わっているなら、その調査は穴1に落ちています。
残る人を見ると、何が見えるか
同じ宿で、同じ条件で、辞めずにいる人がいます。この人たちを見ると、宿の中にすでにある「続く形」が見えます。
見えるものは、3つです。
1. 続いている人に共通する「入り方」
- 見学してから入った人は続いている
- 知人の紹介で入った人は続いている
- 繁忙期以外に入った人は続いている
入り方が見えると、採用の形を直せます。
2. 続いている人が「持っていたもの」
- 最初の3ヶ月に、話し相手がいた
- 1つの仕事が、半年で自分のものになった
- 休みの希望が、通った経験がある
持っていたものが見えると、入社後の形を直せます。
3. 続いている人が「見ていないもの」
- 残業が何時間か、細かく見ていない(見る前に帰れている)
- 人間関係のトラブルを見ていない(起きる前に部署が分かれている)
見ていないものが見えると、そもそも起きない仕組みがわかります。仕組みは、真似できます。あなたの宿で「見なくて済んでいるもの」は、何でしょうか。
「残る人を見る」の3つのやり方
やり方1:在籍の長さで並べる
スタッフの名簿を、入った順に並べます。並べると、境目が見えることがあります。
- 5年以上いる人が4人
- 2年で辞めた人が3人
- 1年未満で辞めた人が2人
境目の年の前後で、宿に何があったかを思い出します。支配人が替わった年、シフトの組み方が変わった年、新しい部署ができた年。境目と重なると、原因の候補が見えます。
やり方2:続いている3人に、同じ3つを聞く
3人で足ります。聞くのは3つです。
- 「入る前に、何を見て決めましたか」
- 「最初の3ヶ月で、助かったことは何でしたか」
- 「いまでも、続いている理由はなんですか」
3つの答えを並べると、3人に共通する行が出ることがあります。共通する行が、宿の「続く形」です。3人に聞けるなら、今週がよいタイミングです。
聞くときの注意が1つあります。「辞めないでくれてありがとう」の形にしないことです。恩の形になると、答えが気を遣ったものになります。「これから入る人のために教えてほしい」の形なら、本当の答えが出やすいです。
やり方3:辞めた人と、残った人の「最初の3ヶ月」を比べる
辞めた人と、残った人。両方の最初の3ヶ月を思い出して、表にします。
| | 辞めたAさん | 残ったBさん |
|---|---|---|
| 教育係 | 日替わり | 固定の先輩 |
| 面談 | なし | 月に1度 |
| 休み希望 | 通らなかった | 月に2回通った |
表にすると、差が入る前にあるか、あとにあるかが見えます。差があとにあるなら、定着施策で直せます。あなたの宿で、この表を作るとしたら、何行埋められますか。3行埋まれば、比較は成立します。
残る人を見ると、辞める人が減ることがある
順番が逆に見えますが、こういうことです。
残る人の「続く形」が見えると、その形を新しく入る人にも渡せます。渡すと、新しい人が続くようになります。続く人が増えると、辞める人の割合が下がります。
辞める人を1人ずつ止めるより、続く形を1つ作って全員に渡すほうが、宿には軽い形です。
もちろん、個別に止めなければならない退職もあります。ただ、先に形を作らないと、止めても次の人が同じ場所で辞めます。
残る人にも、負担が寄っていないか
最後に、1つ確認したいことがあります。
人が辞めたあと、残った人がその仕事を引き受けていることがあります。残る人を見る調査をしていると、これが同時に見えてくることがあります。
- 「Aさんが辞めてから、この作業も私がやっています」
- 「シフトが回らないので、連勤が増えました」
こういう行が出てきたら、調査は終わりではなく別の課題の始まりです。残る人が無理をしている宿では、続く形が「我慢の形」になります。我慢の形は、真似ないほうがよいです。あなたの宿の「残る人」は、いま無理をしていないでしょうか。
見つけたら、引き受けた仕事の1つを戻すか、人を採るかを決めます。決めないと、次は残っていた人が辞めます。
現場スタッフと交わしたい小さな対話
スタッフを在籍の長い順に3人行き、上の3つの質問を1人十5分で聞いてみてください。
3人の答えから、共通して出てきた行を1つ選んでください。それが、あなたの宿の「続く形」の候補です。
候補が出たら、次の新人が入るときに、その形を意図的に渡すようにします。教育係を固定する、面談を入れる、休み希望を通す。1つで構いません。
3人に聞けなかった場合は、在籍順に並べるだけでも構いません。並べた名簿の境目の年に何があったか、思い出せるところから始められます。