採用は「人数を埋めること」ではない
人が辞めて、枠が空いて、求人を出して、1人入る。枠が埋まる。これで採用は終わりです。多くの宿は、ここで1区切りにします。ただ、埋まった枠の中で何が起きるかは、採用の1部として見られていないことがあります。
埋める採用は、成功しやすい
まず、認めておきたいことがあります。
人数を埋める採用は、成果が見えます。 求人を出して、応募が来て、面接して、1人決まる。数字で追えます。月内で完結します。経営としても、報告としても、わかりやすい。
逆に「人が育つ採用」は、成果が出るまで半年かかります。数字にしにくい。だから、多くの宿が前者を選ぶのは、当然の流れです。
ここまでは、間違いではありません。あなたの宿がいま埋める採用をしているなら、それは状況に合った選択だったはずです。
埋めたあとに、何が起きているか
枠が埋まったあと、現場では次のことが起きます。
- 入った人が、仕事を覚える
- 覚えるあいだ、誰かが横について教える
- 教えた人の仕事が、そのぶん後ろにずれる
- 3ヶ月して、入った人が1人立ちするか、辞めるか
この4つ目は、採用の成果です。ただ、採用の記録には残りません。残るのは「1名入社」という1行だけです。
あなたの宿では、去年採用した人が、いま何人残っているでしょうか。この数字を、採用の成績として見たことがあるでしょうか。
見たことがないなら、それで責められる話ではありません。人数は数えやすく、続いた期間は数えにくいからです。ただ、数えにくいほうに、次の採用を変える情報が入っています。
「埋める」と「入る」は、別の出来事
埋めるのは、宿の側の動作です。入るのは、その人の人生の動作です。
宿にとっては1名の補充でも、入る人にとっては住む場所が変わり、生活のリズムが変わり、人間関係がリセットされることがあります。この重さの差を忘れてしまうと、採用は宿の側の都合だけで進みます。
重さを忘れていない宿では、入社前に1度連絡をします。初日の持ち物を伝えます。誰が迎えに出るかを決めておきます。この3つだけで、最初の3日間が変わります。
逆に、初日に「誰が来るのか知らなかった」という状態だと、迎える側も緊張します。緊張した職場は、新人にとって「入りにくい場所」になります。
埋める採用を続ける宿で、起きやすいこと
枠が空くたびに埋めていると、ある時点で、こういう状態になります。
- 毎年、同じ時期に同じ枠が空く
- 空いた枠を埋めるために、毎年同じ求人を出す
- 教える人が、毎年同じ人になる
- 教える人の時間が、毎年削られる
この循環は、採用が成功しているように見えるのが厄介なところです。毎年埋まっているからです。埋まっているのに、楽にならない。
あなたの宿の求人を出す月は、毎年同じではないでしょうか。同じなら、それは季節ではなく構造です。
季節なら、対策は「その時期を越える」ことになります。構造なら、対策は「その時期の仕事を減らすか、分けるか」になります。どちらかを見分けないと、打つ手がずれます。
埋める採用が悪いわけではない
繰り返しますが、埋めること自体は必要です。枠が空いたままでは、現場が回りません。
言いたいのは、埋めたあとに何を入れるかを決めておくことです。
- 入った人に、3ヶ月あとに何ができるようになっていてほしいか
- そのために、誰が、いつ、何を教えるか
- 教えられなかったときに、誰が気づくか
3つ目は、見落とされがちです。教える人が決まっていても、その人が繁忙期で手いっぱいのときに、誰が気づくかまで決めておかないと、教育は止まります。
この3つが決まっている宿では、同じ1人の採用でも、半年あとの景色が違います。
採用の成績を、どこで測るか
「何人採れたか」は、採用の成績の1部です。ただ、全部ではありません。
測るなら、この3つを並べます。
• 採れた人数(短期の成績)
• 3ヶ月あとに残っている人数(受け入れの成績)
• 1年あとに、教えられている人数(育成の成績)
3番目が見られる宿は、多くありません。ただ、ここが見えると、採用が組織をつくる仕事として扱われ始めます。
「教えられている人数」は、その人が育ったかどうかではありません。その人に教わる人が出てきたかです。ここまで来ると、採用した1人が次の1人を呼びやすくなります。
明日からの実践につなげるワンアクション
去年採用した人の名前を、紙に書いてみてください。 書き終えたら、その隣に「いま何をしているか」を1行ずつ書きます。
書けた人は、あなたの宿の採用が実を結んだ場所です。書けなかった人は、枠が埋まっただけの場所です。
紙の上でその差が見えたなら、次の採用で何を変えるかは、おのずと決まってきます。全部を書く必要はありません。3行で構いません。
もし名前を思い出せないなら、記録の置き場所を変えるところから始めてください。採用の記録が「人数」だけで終わっていると、名前は残りません。名前が残る形にすると、次の採用の材料になります。