Management / 経営サステナビリティ
HRBP対象: 経営者・支配人

サステナビリティと人的資本

「サステナビリティ(持続可能性)というと、脱プラスチックやフードロス削減ばかりが注目されるが、人についてはどう考えるべきか」「人的資本とサステナビリティは、経営の中でどのように結びついているのか」。宿泊業における環境配慮やSDGsの取り組みが進む1方で、人事や組織の持続可能性との接続に悩む経営陣は少なくありません。外向けのアメニティ削減や省エネばかりに熱心で、現場スタッフが過重労働で次々と去っていくようでは、真の持続可能性とは言えません。この記事では、HRBPの視点から、サステナビリティと人的資本を1つの経営戦略として統合する視点を整理します。


宿泊業のサステナビリティにおける「抜け落ちていた視点」

近年、旅館やホテル業界でも「サステナビリティ」への関心が急速に高まっています。

歯ブラシの有料化、連泊時の清掃辞退プラン、地元食材の活用、太陽光発電の導入など、多くの宿が環境負荷の低減に取り組んでいます。

しかし、HRBPの視点から見ると、多くの取り組みで「最も身近なステークホルダーであるスタッフ」への配慮が抜け落ちているケースが見られます。

  • 外向けの環境配慮と、内側の過酷労働の矛盾——オーガニックな食材やエコなアメニティをお客様にアピールする1方で、厨房の板前や清掃スタッフは長時間のサービス残業で疲弊している。
  • 「環境」と「人」の分断——環境対策は経営企画室が主導し、人の問題は現場や総務に任せきりになっているため、経営方針としての統合感がない。

持続可能な宿を目指すなら、地球環境への配慮と同じ真剣さで、「現場で働くスタッフが心身ともに健康で長く働き続けられる環境」を整えなければなりません。

人的資本こそが「サステナビリティの実行部隊」

なぜサステナビリティ経営において、人的資本が決定的な位置を占めるのでしょうか。

その理由は、宿が行うあらゆるサステナブルな施策は、主に「現場スタッフの手と心」を通じてしかお客様に伝わらないからです。

  • 食材ロス削減を実践するのは「調理人と配膳係の工夫」——どれだけ立派な廃棄削減方針を掲げても、仕込みの手順を見直し、お客様の食べ残しを減らす声かけを行うのは現場スタッフです。
  • 地域共生を体現するのは「スタッフの郷土への誇り」——地元の農家や工芸作家の想いをお客様に伝え、地域文化の魅力を発信するのは、地元で暮らすスタッフ1人ひとりの言葉です。
  • エネルギー節減を定着させるのは「現場の日常の規律」——空室の温度管理や不要な照明の消灯など、日々の細やかな行動が環境負荷を左右します。

スタッフが誇りとやりがいを持ち、心にゆとりを持って働いている(人的資本が充実している)からこそ、宿のサステナビリティ施策は生きた価値へと昇華します。

人的資本を核にしたサステナビリティの「3つの統合」

経営者や支配人が、宿のサステナビリティと人的資本を統合して推進するための具体的な柱は以下の通りです。

  • 統合1:スタッフの健康と安全を「大切な環境方針」にする——館内の環境改善(厨房の空調整備、軽量ワゴンの導入、適正な照度など)を進め、スタッフの身体的負担を軽減する。
  • 統合2:地域人材の育成とキャリア形成への投資——地元出身の若手やU・Iターンスタッフ、外国人材に対し、長期的な技能習得やリーダー登用の道筋を用意する。
  • 統合3:理念と社会的意義の共有——「なぜ当館はこの取り組みを行うのか」をスタッフと対話し、自分たちの仕事が地域や地球環境の役に立っているという誇り(社会的Well-being)を育む。

2つの宿に見る実践の分岐点

サステナビリティと人的資本の捉え方の違いによって、宿の未来はどう分かれたでしょうか(※特定の施設ではなく、典型的な状況をもとに整理した事例です)。

  • A館(看板だけのエコに終始した宿)——アメニティを全廃し、省エネのために館内の照明を落としました。しかし現場の人手不足には目をつぶり、清掃スタッフに猛スピードの作業を強要しました。現場からは「環境に優しい前に、従業員に優しくしてほしい」と反発が起き、ベテランが退職しました。手薄になった清掃へのクレームが増え、環境配慮のブランドイメージも失墜しました。
  • B館(人を大切にすることをサステナビリティの原点にした宿)——経営陣は「持続可能な宿とは、まずスタッフが健やかに働き続けられる宿である」と位置づけました。休館日を増やしてスタッフの疲労回復を徹底し、地元農家との直接対話を通じてスタッフ自身がメニューを考案する仕組みを作りました。スタッフが誇りを持ってお客様に料理や地域の物語を語るようになり、熱心なファン層を獲得しました。人と環境が共に持続する模範的な宿として全国から注目されています。

サステナビリティとは、外に向けた見栄えではなく、内側から溢れ出る健やかさの表現です。

施策の定着度を測る4つの視点

  • あなたの宿では、環境配慮と同じ熱量で「現場スタッフの健康と持続可能性」が語られていますか。
  • 外向けのサステナビリティ方針が、現場スタッフへの過度な負担や我慢になっていませんか。
  • スタッフに対して、宿の環境方針や地域貢献の意義を丁寧に伝え、共感を育めていますか。
  • あなたの宿は、働くスタッフにとって「10年後も働き続けたいと思える場所」になっていますか。

日常の業務の中で意識したいこと

スタッフに「この宿が地域や環境のためにやっていることで、誇らしく感じている取り組みはあるか」と尋ねてみてください。

  • 現場スタッフの誇りに耳を傾ける対話が、本物のサステナビリティを宿の文化へと根づかせる契機になることもあります。
  • 人を核に据えたサステナブル経営が、あなたの宿を時代を超えて地域に愛される誇り高き場所へと導きます。

あなたの宿の持続可能性は、現場で働く人々の健やかな笑顔の中に息づいています。



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