人事の役割はどう変わってきたのか
宿泊業における「人事」の仕事は、時代とともにどのように進化してきたのでしょうか。「手続きを処理する総務」から「人を集める採用係」、そして「事業と現場を支える伴走者(HRBP)」へ。求められる役割の変化を知ることは、日々の業務に追われる人事担当者が自らの仕事の価値を再発見する道標になります。この記事では、宿泊業における人事機能の変遷と、これからの役割の核心を整理します。
宿泊業における人事機能の3つの時代
旅館やホテルの歴史を振り返ると、人事機能は大きく3つの時代を経て進化してきました。
- 第1の時代:労務管理と手続きの時代(管理機能)——タイムカードの集計、給与計算、社会保険の手続き、就業規則の管理など、「法令を守り、正確に事務を処理すること」が中心だった時代です。人事は事務所の奥に座り、ルールを維持する役目を担っていました。
- 第2の時代:採用と頭数確保の時代(調達機能)——観光ブームやインバウンドの増加に伴い、人手不足が深刻化する中で、「いかに求人を出し、人を集めて頭数を揃えるか」に追われた時代です。採用広告の手配や面接の調整が人事の主業務となりました。
- 第3の時代:人と組織の価値創造の時代(伴走機能・HRBP)——人口減少が本格化し、集めただけでは人が定着しない現在、「現場のエンゲージメントを高め、人の成長を通じて事業の収益力を高める」という戦略的な役割です。
自館の人事機能が今どの段階にあるかを見つめ直すことが、次の1歩を踏み出す契機になります。
人事の役割変化を加速させた2つの潮流
なぜ今、従来の手続きや採用中心の人事から、伴走型の人事への転換が強く求められているのでしょうか。主に2つの構造的な潮流があります。
- 潮流その1:構造的な採用難と離職リスクの増大——単に給与を上げて募集をかけても、現場の労働環境や人間関係が荒れていれば新人は定着しません。「採る」ことよりも「定着し、育つ」職場環境をつくることの方がはるかに重要になっています。
- 潮流その2:働く人々の価値観の多様化——「生活のために我慢して働く」という意識から、「自分の成長を実感したい」「心身ともに健やかに働きたい」というWell-beingを求めるスタッフが増加しています。画1的な管理ではなく、個別の伴走が不可欠です。
この潮流に向き合うとき、人事は単なる裏方ではなく、宿の存続を左右する中核機能としての重みを持ちます。
これからの人事が目指すべき3つの姿勢
時代が求める役割を果たすため、人事担当者が心に留めておきたい姿勢は次の3つです。
- 事務所を出て現場の足元に立つ——書類の数字だけで現場を推し量るのではなく、厨房やフロントの空気に触れ、スタッフのリアルな息づかいを肌で感じ取ります。
- 経営の数字を人の言葉に翻訳する——経営陣の売上方針や利益目標を、現場のスタッフが誇りを持って取り組めるおもてなしの言葉へと編み直します。
- 人の健やかさを事業価値の源泉と信じる——人を削る対象ではなく、磨くことで宿の未来を創る「人的資本」として敬意を持って接します。
この姿勢が定着したとき、人事の仕事は事務処理から「未来づくりの営み」へと昇華します。
2つの宿に見る実践の分岐点
人事の役割定義によって、宿の組織風土はどのように異なるでしょうか(※特定の施設ではなく、典型的な状況をもとに整理した事例です)。
- A館(第1の時代にとどまった宿)——人事は給与計算と勤怠管理のルール順守だけを職務と捉え、現場の不満や離職の相談には「規則通りにやってください」としか応じませんでした。現場リーダーは人事を頼りにせず、経営陣も人事を単なるコスト部門とみなしました。人手不足への有効な手が打てないまま、組織は徐々に活力を失っていきました。
- B館(第3の時代へと歩みを進めた宿)——人事担当者は、事務手続きをITツールで効率化し、浮いた時間で現場の1on1面談や業務改善の伴走を始めました。現場の声を経営会議に持ち込み、客室清掃の手順簡素化や新人のメンター制度を実現させました。定着率が目に見えて向上し、経営陣からも「宿の推進力を生み出す頼もしいパートナー」として高く評価されました。
差は、「過去の延長で与えられた事務をこなしたか」、「宿の未来に必要な役割へと自らを再定義したか」にあります。
施策の定着度を測る4つの視点
- あなたの現在の仕事は、手続き処理ばかりに偏っていませんか。
- あなたは現場のスタッフが働きがいを感じられる環境づくりに関われていますか。
- 経営陣は、あなたを単なる事務係ではなく事業の相談相手として見てくれていますか。
- あなた自身が、人事という仕事の持つ大きな可能性に誇りを持てていますか。
無理なく続けられる現場の工夫
今週の自分の業務1覧を眺め、「過去の管理のための仕事」と「未来の組織づくりのための仕事」の割合を1度チェックしてみてください。
- 自分の現在地を静かに確かめることが、新しい役割へと踏み出す小さな勇気につながることもあります。
- 時代の変化に合わせて自らを更新し続ける姿勢が、あなたの宿をよりしなやかで温かい場所へと導く確かな光になります。
あなたの宿の人事の仕事には、宿の業務改善と組織強化を支える確かな力が宿っています。